3-1
熊に殺されてわかった。俺に前衛職は無理。怖い。
「狩人? 弓や罠が基本の職業だね。ものを投げるのも得意だよ」
アイ姉は以前と変わりなく、ベッドに押し倒した件はなかったかのように接してくれる。
「いいんじゃないかな。ショータが罠でモンスターを足止めして、私が剣でとどめ。パーティー内の役割分担って重要だもんね」
アイ姉も僕の転職に賛成してくれた。
周辺パトロールのついでに狩りをしたところ、狩人が性に合っているようだ。
スキルもそこそこ広がった。
再び熊に遭遇したときも、僕が目つぶしを当て、木の間に張ったロープで転ばしたところにアイ姉が剣を突き刺した。危なげない勝利だった。
「いい感じだね、アイ姉」
「そうね。これならもう少し難しい依頼もいけると思うよ」
「じゃあ、ギルドに戻ったら依頼を探してみようか」
「いいわね!」
日中のパトロールを終えてギルドに戻った。
ギルドのカウンターで受付の女性と女の子がもめている。
女の子は背格好からして小学5~6年生くらい?
「依頼があいまいで報酬が少ないです。そのままでは受理できません」
「私のお祖母ちゃんのお願いなの! この条件でも受けてくれる人を探してるんだから貼らせてくれたっていいじゃない!」
少女は紙を片手に大きな声で訴えている。
少女が依頼を持ち込んだけど、ギルドが仲介を拒否しているっぽい。
「あ、アイにショータ。お帰り。パトロールお疲れ様」
ギルドのお姉さんが話題を変えようとこっちに声をかけてきた。
「ちょっと、私の話が終わってないでしょ!」
ギルドのお姉さんはこっちを見つめている。
「ただいま」
お姉さんの要望に沿って、挨拶、そして冒険者の剣を受付に出す。
お姉さんは剣を受け取るとカウンター内で処理しはじめた。
「ずいぶんモンスターを倒したんだね。依頼も達成だし、今回で冒険者ランクがEからDにアップするわよ」
「え? やった。っていうかランクアップすると良いことあるの?」
「基本的に無いわ。でも依頼にはランク制限があるから選択の幅がグッと広がるわよ」
「Dランク! これ! Dランクの依頼! この依頼受けてくれない? お祖母ちゃんの依頼!」
さっきの少女が依頼の紙を視界に入れてきた。
「だからその依頼はギルドで仲介できないってさっきから……」
「どんな依頼?」
つい聞いてしまった。
「話を聞いてくれるの? ありがとう。ミドリお祖母ちゃんもきっと喜ぶわ」
依頼書を手渡してきた。
……各地を旅して植物を集めてほしい……
「確かにあいまいな依頼だ。報酬も……確かに」
少ない。
「でもでも、冒険とかほかの依頼といっしょにでもいいんだよ」
「一度お祖母ちゃんの話を聞いて欲しいの。お願い!」
ギルドのお姉さんは目をつぶって首を振った。
アイ姉を振り返ると、なんとも感情が読めない笑顔だ。
少女は真剣な目で僕を見る。
「……わかったよ。君のお祖母ちゃんに会うよ。どこに行けばいい?」
ギルドのお姉さんがやれやれと首を振っているのが横目に入った。
そのまま少女に町はずれの家まで連れてこられた。
家の裏手が花畑になっていた。
「お祖母ちゃんすごいでしょ。この畑、全部お祖母ちゃんが作ったんだよ」
「うん、すごい。でもまだ花は少ないんだね」
「そうよなの。だから、花を取ってきて欲しいのよ」
「お祖母ちゃーん!」
花畑の真ん中に、上品な老女が花切りばさみを持って立っていた。
「あら、モエちゃん、おかえりなさい」
「お祖母ちゃん、冒険者さん連れてきたよ! 話聞いてくれるって」
「あらまあ、わざわざこんなところまで、ありがとうございます」
「どうぞ、こちらに座ってくださいな」
花畑の真ん中にあるベンチに案内された。
「メルちゃん、ちょっとおじゃまするわね」
老女はベンチに座っていた猫を横にずらし、僕とアイ姉、そしてモエと呼ばれた少女が座った。
「今お茶を入れてきますから、少し待ってて下さいね」
「それはモエがするから、お祖母ちゃんは依頼の説明をおねがい」
少女が立ち上がって家に入り、入れ替わりに老女が座った。
「それじゃあ失礼するわね」




