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11 それはどこかで

「あ~あ、兵の数がちょっと減っちゃったね~」


 薄い明りに照らされた部屋。

 最低限の調度と中央に設えた寝台。

 その上に左右に女を侍らした男が一人。

 長い黒髪と暴虐(ぼうぎゃく)の色を湛える黒い瞳。

 

「大丈夫だよ。あんたの弟さんは生きているよ。たぶんね」


 ビクリと震えた(かたわ)らの女の胸に手を伸ばす。

 苦痛に顔が歪む女を嘲笑(ちょうしょう)を浮かべて男は撫でまわす。

 

 男達の視線の先にある水晶の画面には映るのはダルトン城塞の先に広がるペラネス大峡谷。


 広大なバスパ山脈の切れ目にある、全長89km、平均幅1kmのこの峡谷の岩肌には無数の凶悪な魔獣が生息する。タニスン連邦とベルパスパ王国を繋ぐ唯一の道であり、通行時には護衛が必須、それも開拓者のB級以上のパーティーが推奨されている。


 魔獣を避けるために大規模な商隊は組めず、高額な護衛料を払わなければならない。

 護衛を伴わずに進んだ物もいたが、殆どが峡谷に棲む魔獣の餌食(えじき)となった。


 故にこの峡谷の道の経済的意味は殆ど無い。

 ダルトン城塞が作られた当初の目的もここから溢れる魔獣からの防衛であった。

 

 その広大な峡谷を十万もの異形が走る。

 タニスン連邦が使う最悪の軍団。

 

贖罪兵(しょくざいへい)】。


 生物は体内に適性以上の、あまりにも多くの魔力を蓄積するとその魔力が暴走し、死か異形への変貌を起こすことがある。

 治療方法は簡単で、比較的初期では魔力の摂取を調整すれば良いし、在る程度まで症状が進行しても市販の薬を処方するだけでも良い。

 

 しかし。

 

 この【魔獣病】は末期に至ったとき、その名の通り人は知性を失った完全な魔獣と化す。

 魔獣と化した野生の生物が比較的に元の姿を残すのに対して、魔獣化した人の姿は悪夢が具現化しが如き異形となる。

 聖典教、特に過激な原理主義者達はこれを悪徳の咎めとし、聖典教原理主義が浸透するタニスン連邦では使い捨ての兵として用いられている。

 魔獣と化した者達へ課された贖罪として、タニスン連邦の為に戦って死ねと。

 

 魔法で生み出した水と魔力を大量に含ませた土からは、それを用いない場合に比べて、十倍もの異常な収穫を得る事が出来る。

 農地に適さない土地が大部分を占めるタニスン連邦において、最底辺の『下級同志』達は高濃度の魔力に汚染された食糧しか得る事ができない。

 その下級同志の平均寿命は29歳である。

 自らその命を断つか、兵として徴用され戦場で果てるか。

 生まれた瞬間にその過酷な運命は定められているのである。

 

「生き残ったら俺が元に戻してやるからさ。約束は結構守る派だし、一応」

 ケラケラと男は笑う。

 

(ま、無理だけど)


 贖罪兵は当て馬だ。

 青騎士、そして星の聖女達の実力を見るための。

 

 開拓者の常人の限界がB級。その壁を超えた英雄がA級。

 そして人外の超人がS級に区分される。

 

 【界王龍】、【天座】、そして【青燕剣】。


 S級さえ超える彼らの中で人の世に在るのは【青燕剣】のみ。

 それが男の国の仇敵たる国に属している。

 さらには光の三神殿の聖女まで、【青燕剣】の女として並び立っている。

 

「なあ、あんたはどう思う。勝てる?」


 男は壁の暗がりに佇む影へと声を掛けた。

 それに応えは無く、影の視線は水晶に釘付けであった。

 

「ふぁ~あっと。心配すんな。強めの手下も引連れてきたし……」

 

 欠伸した男は右手を水晶へと向ける。

 切り替わった画面には城壁で剣を振る青騎士の姿が映る。

 男の右手が握られ、親指が上がり、人差し指が伸びる。

 

「勇者の末裔たるこの俺がいる」


 バンッ。





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