リーシェルト騎士団陣地 四
かなり時間が空いて申し訳ありませんでした。
読みに来ていただいた方々、本当にありがとうございます。
『なんで大人は戦争するの?』
ルルヴァにそう尋ねた。
母は何でも知っていた。
母は何でも答えてくれた。
誰よりも物知りだった母は、その質問にもすぐに答えてくれるとルルヴァは思っていた。
『うーん』
見上げていた母顔は、とても苦しそうで、とても悲しそうだった。
そんな顔を始めてみたルルヴァは、自分が間違ったことを聞いて、母を苦しめたのだと思った。
『ごめんなさい……』
母が大好きだったルルヴァは謝った。
それに母は首を横に振ってルルヴァを抱きしめた。
『ルーが謝る事はないの』
『母さん……』
ルルヴァと同じ母の瑠璃色の髪が顔の横にあって、だからルルヴァには母の顔が見えなかった。
ぐすん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。
頬が濡れて、自分のものじゃない涙が流れ落ちて行った。
『ごめんね。私にも解らないや』
母を抱き締めると、それよりも強く母が抱き返してきた。
そうして母は少しの間、ルルヴァの中で泣き続けていた。
* * *
ルルヴァが仮設病院の手術室に入ってから瞬く間に時間が過ぎて行った。
そして、ルルヴァ達の目の前には、ほんの微かに心臓が動いている肉の塊が置かれていた。
斬ってみて、焼いてみて、抉ってみて、踏みつぶしてみて。
それでも心臓が止まらなかったから生きていたという、人の形を失ってしまったものだった。
ルルヴァが左手に装着した籠手型の魔導杖、その掌を彼へとかざす。
朱い魔力洸が降り注ぎ、一瞬で彼の汚れを浄化した。
そのままルルヴァの動きは途切れる事無く続いた。
右手が血まみれの鉗子を置き、最後に左手の魔導杖から放った魔法が彼を包み込んだ。
血肉が脈動し、再生した皮膚が色を取り戻す。
完全な人の形ではなかったが、それでも彼は死の淵から生還することができたのだった。
「次お願いします」
「はい」
そうして、また次々と傷を負った者達が運び込まれて来る。
一番最初の彼程に酷い者はいなかったが、それでも誰もが酷い傷を負っていた。
ルルヴァの魔力はまだ尽きない。
しかし他の者達はそうではなかった。
手術室の中で魔力切れを起こした看護兵が崩れ落ちた。
彼女と入れ替わりで入って来た彼は、しかし一目で憔悴しているのが分かる程だった。
それでもルルヴァ達は動かなければならない。
止まればここに運び込まれた者は死ぬのだから。
『なんで大人は戦争するの?』
血の臭いの中で、ルルヴァは昔の自分の声を聞いた。
それは目の前の少年が血と共に吐き出した絶叫に砕かれて。
何処かへと消え去って行った。




