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『婚活ロワイヤルッ!』  作者: くさなぎそうし
第1章 十人十色の強制ミーティング
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第1章 十人十色の強制ミーティング PART7


  7.


「ええ!? 大丈夫なの、七草ななくささん」


「うん、親が決めたしきたりだし、必ずではないから……大丈夫よ」


 彼女は平穏な笑みを浮かべ、言葉を続ける。


「だから、皆さん。私はここで結婚相手が決まってもいいと思っています。政府公認なら、文句をつけられる恐れはないし、いいお相手と巡り合えたらいいと考えています。どうぞ、よろしくお願いします」


 

 七草涼子---身長150cm、体重××kg。趣味:おけいこ


 

 彼女の振る舞いを観察するが、今の所、際立った印象はない。桃色の着物を着ており、凛とした佇まいが美しくみえる。


「私の部署は客室課マネージャーです。主にお客様の相談に乗ったりしています」


 客室課マネージャー、主に宿泊に来る客の要望・クレームに対応する係だ。当ホテルでは各国からも様々な人種の人で賑わい、要望も様々だ。そこには個人の価値感を尊重し、配慮しなければ成り立たないだろう。


 俺にはまず無理な仕事だ。


「はいはーい、七草ちゃんはどんな人がタイプなんですか?」


 二岡が下衆な笑みを浮かべて彼女へ質問する。


「そうですね、思いやりがある人がいいですね」


 七草は口元に人差し指を添えて眉間に皺を寄せる。


「ホテル業務の方とお付き合いするのであれば、当然持ち合わせていると思うのですが、気遣いができる人といると安心しますね」


「そ、そうなんや。俺っちとか、どう? 七草ちゃん」


「きちんとしたお付き合いができるのであれば、善処させて頂きますよ」


 そういって七草は笑顔で応対する。


「うは、かわええ。もうメロメロでしゅ」


 

 ……こいつも曲者だな。



 身を引き締めて彼女のプロフィールを観察する。客室課が愛想がいいのは当たり前だが、彼女には仮面を感じるほどに対応が完璧だ。親の教訓の賜物なのだろうか、それにしても出来過ぎている。


 だが彼女は間違いなく結婚する意志がありそうだ。この状況でこのような発言ができるということは中々肝が据わっている。


 男性陣を一瞥すると、九条を除いた誰もが七草に興味を持っているようだ。皆、きちんと七草に向かい合い話を聞いている。



 ……最初は彼女に話を振ってみてもいいかもしれない。



 策を練りながら次の状況をイメージする。結婚してくれる確率は非常に高いが、終盤まで残って貰い男性陣の注意を引き付ける方がいいような気もする。独身を貫けるのは2人までだからだ。


 七草がそっと座ると、8番の女が席を立った。


「あ、ワタシの番ですね」


 胸元につけた黄色のバッジが光る。


「ワタシは八橋真琴やつはし まことといいます。当ホテルで料理長を担当しています」



 八橋真琴---身長162cm、体重××kg。趣味:新種の味を食べること



 八橋真琴のプロフィールを確認する。出身はフランスで国際料理スクールに進学し数々の賞を取った後、このクーロンズホテルに来ている。エリートの見本だといっていい。


 彼女の仕事は料理長。いわずともここクーロンズホテルの料理を担当するシェフだ。彼女の料理に憧れホテルを利用する者も多いという。彼女の年で料理長の肩書きというのは珍しい。


「八橋さんの料理は本当素晴らしいわ」


 隣に座っている七草が微笑んでいる。


「なんといっても発想が素晴らしいと思う。初めて食べる料理ばかりなのにどこか懐かしい感じがするもの」


「いえ、そんな大したことないですよ……職場の皆さんのおかげです。ワタシはそんなに大した実力なんてないです……」


「いいえ、あたしはそう思うもの」


 七草は力を込めていう。


「私も料理をするのが好きなんだけど、八橋さんの料理を食べるとよく刺激を受けるの。あなたが料理長になってからぐっとお客様は増えているわ。ねえ、参浦君? お客様を案内していると、八橋さんの名前をよく聞くといっていたわよね?」


「うん、そうだね」


 名を呼ばれた参浦が答える。


「八橋さんの料理は最高だよ。体も心も暖まるっていうか、落ち着けるんだ」


「……ありがとうございます」


 八橋ははにかみながらいう。


「何の取り得もないですけど…料理を作るのは好きなんです」


 ……十分に才能があるだろう、嫌味に聞こえる。

 

 天才と呼ばれる者は二手に分かれる。始めから天才と呼ばれる者と、努力の上で評価を徐々に上げていくものだ。年齢からいって彼女の場合は天性のものだということだろう。


「八橋さんはどんな人と結婚したいの?」


「ワタシは…ワタシの仕事を認めてくれて、ワタシのことを理解して貰える人なら…それでいいです」


 彼女を注意深く観察する。


 確かに模範的な回答で悪くはない。しかし適切すぎる回答の奥に後ろめたさのようなものを感じる。元から天才と呼ばれる者には変わりものが多い。挫折がないため人との折り合いをつける必要がないためだ。だが彼女の答えには周りを意識したものがある。


 彼女は何か胸の内に秘めているものがありそうだ。それが何なのかは今の所わからない。


「……これで全員だな」


 九条が締めくくるようにいう。


「じゃあシロウ。次に行ってくれ」


「まだ九条様が終わっていません」


「俺様はいい」九条が首を振る。「どうせ俺様のことは皆、知っているだろう。何しろここの責任者なんだからな」 


 皆その通りだと顔を埋める。彼のプロフィールを軽く目を通す。



 九条統哉くじょう とうや---身長184cm、体重70kg 趣味:特になし



 彼の特徴は纏めるまでもなく八橋を超えるエリート中のエリートという点にある。すべての上に立つライオンのような存在感だろう。


 彼を攻め込むのは難しい。本人自身が結婚する意思がない上に彼と対等に話を持ち込める条件がここにはないからだ。彼を突き動かす何かがあれば話は変わってくるが、今の所見つけられる手立てはない。


 全員の自己紹介が終わった所で、司会が席を立った。


「では最後に自分の自己紹介を簡単にさせて頂きます。本来の仕事はデューティーマネージャーですが、ここでは司会を勤めさせて頂きます。皆様によきパートナーができればいいと思っています」 


 彼の丁寧な口調が会場を飲み込んでいく。男でありながらも物腰は柔らかい。しかし断定した口調は物事をはっきりと決め、強い意志を感じさせる。相当に場慣れしているようだ。


 彼のパネルはないが彼の胸ポケットに司会進行役と書かれてある。司会台の色が彼の灰色と合わさっている。


「ではこれで自己紹介を終わらせて頂きます。では手始めに誰かにお話を聞きたい方、いませんか?」



 ……いきなり質問に移るのは無理だろう。


 

 自問して考える。ここにいるのは結婚を望んでいないからこそ今まで独身を貫いてきた者ばかりなのだ。仕事が恋人と呼ばれる者の中で、どんな質問を繰り出していいかもわかるはずがない。


 しばらくすると、8番の八橋真琴が小さく手を上げた。


「司会者さんに尋ねたいことがあるんですけど……。1番目の投票がなくなったとして……2番目の投票は多数決と仰いましたが、それも全員がパスしたらどうなるんです?」


 確かに聞いていない内容だ。それに多数決だが偶数のため、同票になる可能性もある。そうなれば再び採決するのだろうか。


「もちろんその事例も考慮しております」


 シロウは悠々と告げる。


「2番目の投票でカップルが成立しなかった場合、最終手段として皆さんは《《シャッフル》》で結婚相手が決まってしまいます」


「シャ、シャッフル? え、それって……」


「ええ、そうです。お相手がいなかった場合は皆、《《抽選》》で相手を選んで頂きます」


 一同が唖然とする中、デューティーマネージャーは冷静に続けた。


「ですが安心して下さい。どの組み合わせでも皆さんの結婚生活が100%上手くいくという結果が出ておりますから。だからこそ私は自信を持ってここにいられるのです」 



皆が声を出さずに沈黙していると、シロウが時計を見て、スポットの光を弱めた。



「ではこの辺で一度、休憩を取りましょうか。是非、皆さん、意中の相手を見つけ、婚活に励んで下さいね」

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