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『婚活ロワイヤルッ!』  作者: くさなぎそうし
第1章 十人十色の強制ミーティング
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第1章 十人十色の強制ミーティング PART2

  2.



「……たった今、帰りたくなった。未払いの残業代をお前に請求してもいいか?」



 修也は彼女の顔を見ずに呟いた。


「俺だってお前の顔を見にきたわけじゃない。あーあ、残念だ。久々の休暇を満喫していたが、今ここで全て消えちまった」


 視線を合わせずして互いの火花が散りあう。だがお互いに譲る気はなさそうだ。いつものことなのでそれほど緊張感もない。


 零無玲子ぜろなし れいこ


 彼女は当式場で自分と同じ立場にあるウェディングプランナーで同期だ。成績はほぼ五分、彼女に勝ち越したことはないが負けたこともない。


「まあいいんじゃない? どうせ恋人もいないでしょうから、予定もないんでしょう? なら休んだって仕方ないわ。会社に来ているんだから、少しでも売り上げに貢献したらどう?」


「お前と顔を合わせないことが一番の休みなんだけどな」


 修也はむきになって答えた。


「お前も相手がいないからって休日に職場に来ることだけはやめてくれよ。これ以上ストレスを増やされると爆発しそうになるからな」


「あら、そう。なら休みの日にも出勤してみようかしら。あなたの困った顔が見れるのならそれだけで価値があるわ」


「止めろ、性悪女。そんなんだから結婚できないんだ」


「結構よ。私は結婚できないんじゃなくて、する意志がないだけだから」


 この職場にいるただ一つの理由、もちろん金だけではない。それは彼女を完璧に打ち負かすことだ。営業の成績で圧倒的な差を見せ付けて会社を辞めるのが今の一番の夢だ。



 彼女の金星をはく奪するまでは、辞めることはできない。



「早く入らないの? あなたが入らないと後ろがつかえているのだけど」



 後ろを振り返ると、彼女の後ろには四人の女性が並んでいた。各女性陣も皆、それぞれの色を纏っている。


 どうやら全て責任者らしい、争いをして目をつけられるのはごめんだ。


 だが、玲子の言葉で誘導されるのは気にくわない。


「お前こそ先に入ったらどうだ? こういう時こそレディファーストだろう。同期だからといって気にすることはない」


「別にあなたに気を使う義理はないのだけど。どうでもいいけど早く入ってくれる?」


 再び牽制を受ける。しかし彼女の指図で入りたくない。


「……あ、あの、悪いんだけど、二人とも進んで貰っていいかな?」


 参浦が申し訳なさそうに手を合わせている。


「玲子ちゃんもこんな所で喧嘩しちゃ駄目だよ。さ、早く入ろう」


 参浦に引きずられながら中心を見ると、大きな円卓が並べられていた。どうやら人数分の椅子が用意されているようだ。各色にわけられた様々な趣向を凝らした椅子が並んでいる。


「なるほど、自分の色の席につきなさいってことね」


 零無が全体を見通しながらいう。


「……そうみたいだな」


 彼女の視線がこちらに向かったので反射的に答えてしまう。


 椅子は全て同じものではなく一人ずつ特注で作られていた。色、形、材質、全て個人に合わせて作られているようだ。なんともいいようのない寒気を覚える。



 一体、ここで何をするのだろうか。とてもつもなく《《嫌な》》予感しかない。



「番号が振ってある。お前のいう通り椅子の色と同じ所に座るように作られているんだろう」



 零無の白色のプレートには0の数字が浮かんでいた。それと呼応するかのように白のロッキングチェアーがある。


 自分の席を探すと、青色の椅子に4の数字が打ち込まれていた。マリンブルーに染まったアーガイルチェアーが静寂を感じさせるように佇んでいた。



 ……しっくりきすぎて気持ちが悪い。



 椅子に近づき座ってみると、すわり心地が抜群にいい。本当に自分のサイズに合わせて作られたように感じる。ここなら何時間いても腰が痛くなることはなさそうだ。逆に考えれば、今から始まる会議は何時間も掛かる憂鬱な会議だと推測できる。


 後ろを振り返ると、すでにほとんどのメンバーは集まっており談笑を始めている。どうやらまだ座るのには早いと判断し、世間話でもしようと考えているみたいだ。


「ここにいるのは9人みたいね、だとするともう一人来るのかしら」


 真っ赤なスーツを着た女が隣に座り大きく足を組みながらいった。椅子も彼女の高飛車な態度と同様に真紅に染まっており、形は小さめのチューリップチェアになっている。


「黒の椅子だけ残っているわ、誰かもう一人来るのかな」


「そうだと思うよ」


 同じく右隣のグリーンのチェアに座った参浦がはっきりと答えた。


「黒の椅子が残っているってことは……あの人しかいないよね」


 黒の椅子は九番目だ。重役がこれだけ揃う中、さらに権威を高めるような椅子がある。そうなればあの席に座るのは一人しかいない。



 黒の制服はうちの会社では取締役用の椅子だ。九番ということは支配人である可能性が高い。

 式場内をあてもなく眺めていると、再び扉が開く音がした。そこには黒のスーツを身に纏った男がいた。



「全員揃っているようだな。では早速だが、シロウ、始めてくれ」



 そういって彼は九番目の席にどっぷりと浸かった。


「支配人まで来るなんて……これは一大事だね」


 参浦が横で顰めいてくる。


「…そうだな」


 彼の一言で皆、一斉に自分の席に着き始めた。全員が席に座ると、シロウと呼ばれた男がプリント用紙を全員に回し始めた。そこには九条を含めた全員の顔写真が載っていた。

 

 九条統哉くじょう とうや


 長年続く帝国ホテルの総支配人だ。この業界のトップにあたる人物でもあり、彼の一言で国が傾く力を保有している。


 シロウと呼ばれた長い髪を束ねた男を目の端で捉える。今用紙を配っているのは当ホテルのNO.2であるデューティーマネージャーだろう。グレイのスーツを着こなしているのが何よりの証拠だ。夜勤務のためかどことなく陰鬱な雰囲気を醸し出している。


「どうした。これで全員揃っただろう?」


「……ええ、そうですね。では始めましょうか」


 シロウが頷いてマイクを握った。


「皆様、今日は本当にご足労掛けて誠に申し訳ありません。お時間を掛けることになりそうなので先に謝辞を致します。司会の進行を務めるのは私です。ここでは司会と呼んで貰って構いません。では早速内容について話していきましょう」


 彼は手帳を取り出し説明を始めた。



「皆さんは今回、政府主催の『婚活ロワイヤル』に選ばれたメンバーです。皆さんにはここで……異性の相手を選んで貰い、結婚して頂きます」 

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