第2章 九嫁三伏のデッドヒート PART2
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休憩が終わり、皆が会場に戻った。それと同時に部屋に明かりが照らされる。
席につき司会の合図を待つが、目は自然と零無の方を見てしまう。彼女は先ほどと変わらず冷静沈着な様子で椅子に悠々と座っている。すでに九条を丸め込む算段は整っているのだろうか。
「では、皆さん。改めて仕切り直しましょう。質問のある方はいませんか?」
シロウの問いかけに零無が手を上げた。
「私から一つ質問させて貰ってもいいでしょうか?」
「もちろん、どうぞ」
「二択で答えられる質問をしたいのですが、回答方法はどうしたいいのかしら」
「では、パネルで開示できるよう設定させて頂きます」
シロウがディスプレイ画面を変更した所を見計らって、零無は席を立ち全員を見渡した。
「先ほどもいいましたが、私は結婚をしたくないと思っています。ですがそれではこの場は収まらないとも理解しています。そこで皆さんに質問があります。結婚には様々な価値観があると思いますが、結婚するのに一番大事なことは『お金』でしょうか? それとも『愛』でしょうか?」
零無の問いに皆、意識が向かう。
この会場で二択を迫る質問は非常に有効だ。結婚という概念は一人一人違うものでお金と愛だけであるはずがないのだが、大きく割り切ってしまうとこの二つになる。
これは永遠のテーマであり、人によって答えが分かれるだろう。これが九条を出し抜くための第一歩のようだ。
「私はお金より愛を選びます。お金だけであればすでに事足りてますから。なので結婚する以上、愛がある人でなければ成立しません。皆さん、画面を見てお金を選ぶのであればYES、愛を選ぶのであればNOを押して下さい」
パネルを見ると、質問内容が表示され、YESとNOが表示された。
直様、答えが表示される。YESを選んだのが4名、NOを選んだのも5名だ。
9名分の集計だ、どうやら零無の答えは含まれていないらしい。
「お金を選んだ方、もしよかったらその理由を教えて頂けませんか。もちろん誰が押したのかまでは分かりませんので、答えなくても結構です」
周りの反応を確かめながら九条に視線を移す。自分が選んだのはお金だ。ここで自分が答えてもいいが、彼女の目論見に反する場合を考慮して敢えて無視を続け
る。果たして彼はどちらを選んだのだろうか。
……だがここにいるメンバーで金に困っている者がいるわけがない。
改めて彼女の質問の真意を探る。ここにいるのは金星の責任者だけだからだ。自分の代だけでなく親の代から金の使い方を習ってきている者もいる。なら金の重要性を分かっているはずだ。
のそり、と手を上げる者がいた。フロント責任者の陸弥凛だ。
「わたくしはお金の方を押しました。理由は親の代が《《借金で破綻した》》からです」
陸弥は思いの丈を淡々と綴っていく。
「今ここにいられるのは九条様のおかげでございます。九条様が会社を経営し、わたくしの力を認めて下さっているおかげでわたくしの生活は成り立っているのです。ですから結婚するとなった場合、相手方に借金がある方、もしくは浪費癖がある方とは結婚できません」
彼女のいうことは最もだ。結婚するのであれば相手の金銭感覚を知ることは重要になる。大金持ちだとしてもそれが自分の代で築いていない二代目なのかもしれない。
結婚で苦労することになる一番の要因は金にあるからだ。
……なるほど、愛ではなく金に対する執着心を見ようというのか。
零無はきっと愛の重要性を解くのではなく、金の重要性を改めて問おうとしているのだ。現在責任者だからといって将来の金銭の保証はない。ならば金で培う《《政略結婚》》を求めようというわけだ。
陸弥の様子からは金に苦労したという感覚は全く感じ取れなかった。零無の質問はセオリー通りだが、きちんと情報を得ることに成功している。
「そうですね、陸弥さんありがとうございます。確かにお金の価値観がずれていては結婚なんてとてもできるものではありませんよね」
零無は大きく頷いて陸弥を肯定している。彼女が身の上話をしたことで彼女のアピールに繋がり、この中で浪費癖のある者とはカップルにしにくくなった。消去法だが確実に一歩前進だ。
話が膨らめば膨らむほど、カップルになる人選は決まっていく。舵の取り方に注意さえすれば、合理的に結婚相手が決まっていくということだ。ここは零無の手腕
に期待しよう。
「では反対に愛が必要だと答えた方、誰でも結構です。答えて頂けませんか」
陸弥が答えたことによって話しやすい雰囲気が出ている。零無のように消去法で愛を選ぶ者もいれば、愛がなければ結婚できないという人もいるだろう。
むしろここでその答えを聞けば、自ずと立候補者が出てくるかもしれない。ここは誰かが答えるのをじっと待つべきだ。
「……はい。私は愛があった方が結婚できると思います」
答えたのは陸弥の隣の客室課マネージャーの七草だった。緊張しているのかやや声が小さく動きもぎこちない。
「結婚するってことはずっと一緒にいるってことですから、その人のことをよく知らないと落ち着くことはできないと思うんです。もちろんお金も大事です。ですがお金だけあれば結婚できるかというと、私はできません。結婚する相手には私のことを知って欲しいし、私も知りたい。そのためには愛を含めて会話がなければできないと思います」
七草は振り絞るような声で思いを伝えた。彼女の誠実な答えに皆が反応を示していく。
「そうだよね、やっぱり愛がないと結婚できないよね」
「俺っちもそう思うで。仲良くないと一緒におっても苦痛なだけやしな。お金があっても、それやったら結婚せん方がましや」
七草の答えから皆のいいムードが高まっていく。会話を共有し好感を同時に得ることでよりいい雰囲気となっている。自分と同じ意見を持つ者がいれば、その人に共感しプラスに働いていく。
「でも、七草さんには許嫁さんがいるのではないのデスか?」
彼女の隣に座る八橋が声を上げる。
「許嫁とは、お互いの家同士の関係を保つものでしょう? 愛に比重を置いたものではないと思ってしまいマスが」
「そうなんです。私の許嫁は《《お金》》の方を重視しています」
七草が小さく呟く。
「ですので、私は愛があるお方と結婚したいと思っております。今回の企画も未だ全てを把握できていませんが、前向きに検討しているんです」
七草の一言で場の空気がよくなっていく。非常にいい流れだ、これなら強制シャッフルなど起こらないだろう。零無の次の一手に再度、期待が膨らむ。
「七草さん、ありがとうございます。七草さんの考えを聞いて愛の重要性がますます大事だと思うようになりました。ではもう一つ別の質問をさせて頂きます」
零無は空咳を切って再び質問を口にした。
「この中で恋人がいる方はいますか? もしいるのなら先に名乗り上げて欲しいです」
零無が皆を確認しながら吟味する。全員の視線は彼女へ集中している。だが誰も応答しようとしない。
「ここで名乗りあげなければ、知れ渡った時、大変不利になります。さあ、先に白状して自分の恋人を上げて下さい」




