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生徒の成績と教師の出世

 塾の経営者です。塾の広告を考えなければならない立場です。研究のために皆さまの文章を読まさせていただいております。私のいたらない点をご指摘いただけるようよろしくお願い申しあげます。

 では私の経験を。

 私の父は公立高校の教師でした。一生平の。

 私の家では、公立高校の合格発表の前日の夜、よく父が電話していたのです。

 内容は、

 「頑張ったんですけど、点数が低すぎて、無理でした」

 何の話かわかりますよね?

 そう、私の父は合格の依頼を受けていたのです。

 公立高校の合格依頼?

 平教員?しかも労働組合運動をやってて上から睨まれてる?

 不思議ですよね。父に聞いてみました。

 父の話によると、もともと、そういうシステムだったそうです。

 父は最初公立の旧制商業学校にいました。そこでは、

 受験シーズンになると、校長室の前に依頼者の列ができ、

 職員室にもどる度に、テストの点数が変わっていた

 そうです。

 校長や教頭などの特別な人だけでなく、各教員が不正入学の枠を持ち、というよりも、依頼を受けたぶんだけ入れていたのです。

 各教員が関わっていた、このことが不正入試を終わらせたのです。戦後になると教員による労働組合運動が盛んになり、不正入試をやめようという流れになったのです。

 当時は、パソコンなど当然なく、入試は全て人海戦術による手作業で行われていました。今のように強力な権限を持っているわけではない、当時の校長は、教員の協力無くして、不正入試を続けることができなかったのです。

 でも、依頼する側は、そんなの知りません。もともと無かったものとして扱われていた不正入試ができなくなったとは、誰も言いません。

 できないのに、何故引き受けるの?父に聞いてみました。

 家の玄関に月給の何倍ものお金を置いていかれて、困ったことがあったから。

 そりゃそうですよね。戦前の日本の社会の仕組みを知っている人が、紹介されて、不正入試の依頼に行った。できないと言われた。報酬をよこせ、としか聞こえないですよね。

 お金を出した。またできないと言われた。金額が足りない、としか聞こえないですよね。

 日本の社会の仕組みを知っている人なら、すぐに気付くはずです。

 ここに、財布を忘れ物していけばいいんだ、と。あくまでも忘れ物をね。

 二つ返事で引き受ける相手に報酬を前金で渡すようなお人よしは、不正入試の依頼には、絶対に来ません。

 引き受けて、

 不合格だったら、点数が足りな過ぎて無理だった、と言えば、誰も報酬を寄越しません。

 合格だったら、素晴らしい成績で楽勝で合格した、と言えば、実力で入ったのにお金なんか払うか!となります。

 もともと不正入試をやっていて、個人情報保護の思想すらない時代にもかかわらず、落ちた人には何も知らせない制度でしたから、嘘をついてもばれません。引き受けるのが一番楽ですよね。

  実は、私も発表の前の日には、高校に合格したことを知っていました。母が父にないしょで知っている教師に頼んだのです。大変素晴らしい成績で合格したと、絶賛されて、母は大喜びしていました。母は何も知りません。そうなりますよね。

 知り合いの不良に、どこの高校か、と聞かれて、答たら、 

 「何でお前がそんなとこ入れるんだ?親は何してるんだ?」

 と言われたので、答たら、

 「裏口入学だ、裏口」と断定されました。当時の人は、感覚として気付いていたのでしょうね。

 戦前の教育や社会を褒め讃え、戦前に戻そうとする人達がいます。そういう人達は、労働組合運動をしている教員を目の敵にします。当たり前ですよね。

 私の父は、一生平でした。理由は明白ですよね。

 私が他の方の教育論を読んでいて、一番驚くのは、

 教師は自分の出世のために、生徒の成績を上げようとする、  

 これです。 

 あなたは、他人の子供の成績を上げてくれる教員と、自分の言うことを聞いてくれる教師、どちらを出世させたいですか?

 ちなみに、私の父が勤めていた高校で最も優秀だと言われている人は、御茶ノ水女子大に行った人です。国立大学の合格者がほとんど出ない学校なので、異論を唱える人はおりません。勿論、父の教え子です。


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