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78 光ります

 クロで体力と精神力を回復したぞ!




 今僕らがいるのは、冒険者ギルドの地下にある訓練場だ。常に開放されており、いつでも誰でも利用できる。利用希望者が多い時には制限時間が設けられるけど、幸いなことに今は順番待ちもなく、適度に空いている。


 というわけで、せっかくだし、少し大きめの試合場を借りた。これなら思いっきり動き回れる。ということは、魔法を使うのに十分な距離を稼ぐこともできる。訓練場を崩壊させない程度の、ちゃんと自分で直せる程度の魔法なら使ってもいいから、その点はだいぶ嬉しい。


「もういいのか」


 レジーがいつもより眉間の皺を増やしている。顔、怖いよ。頷き返しながら、なんとなく気になって、気づけば尋ねていた。


「レジーこそ、体調良くないんじゃないの?」


「……何のことだ」


 しらばっくれようとしている。けど、何か、違うんだよなあ。魔力の流れが、偏っている。こんなの、普通起きないでしょ。


「ねえ、テッド、昨日何したの?」


「え、昨日は、緊急依頼の魔物を狩ったけど」


「レジー、無理したでしょ」


 テッドがレジーの方を見る。テッドだけじゃなく、他の3人も僕らのやり取りを聞いてレジーへと視線を向ける。テッドもレジーも黙っていたけど、しばらくしてレジーが溜め息を吐いた。やっぱり、何かあったんだ。


「今日の試合に影響が出るほどじゃない」


「いざという時は俺が代わりにやるよ」


 レジーの魔力をじっと観察する。普通は、全身に満遍なく魔力が循環しているものだ。それがどういうことか、レジーの魔力は集中しているところもあれば、妙に少なくなっているところもある。こんな、斑模様というか、魔力の澱みともいうべき箇所が体全体にいくつもできるなんて……。


 そこまで考えて、ふ、と表情を緩めたレジーに頭をくしゃっと撫でられる。


「誤魔化せないもんだね」


 僕にだけ聞こえるぐらいの小さな声で囁いたレジーを見上げ、驚く。こんな、寂しそうな表情、今まで見たことが無い。


「今は試合が先だ。この話は後でな」


 頷きつつ、考える。魔力が集中する、とは、どういうことだろうか。今まで他人の魔力の流れを意識することなんてなかったし、というか、そもそも今がよく見えすぎてるんだけど、とにかく、初めて見る現象だ。レジー以外の4人に、そういう現象は見られない。レジーだけだ、あんなにおかしいのは。


 試合の順番をどうするかを話半分に聞きながら、アルに魔力を大量に流し込んで体調不良にさせてしまった、あの日のことを思い出す。レジーの場合は、自分で、魔力を、部位別に、集中させている? 何か不調はあるようだけど、いったい、どんな影響が出ているのだろうか?


「クリスは?」


「……えっと」


「お前、話聞いてなかっただろ」


 うぐ、図星すぎて、何も言い返せない。くそ、アルが嬉しそうだ。すっごい腹立つ笑顔だな。いつの間にこんな風に笑うようになったんだよ。性格の悪さが前面に出すぎだろ。人を馬鹿にするのも程々にしろよ。また魔力流し込むぞ。


「どうどう、落ち着け落ち着け」


 テッドに後ろから両肩を叩かれる。あれ、もしかして、心の声、ダダ漏れだったかな。


「クリス、足元、見ろよ」


 引き攣った笑みを浮かべたエドが僕の足元を指差す。言われた通りに足元を見下ろして……何だこれ。


「おー、こっわ。今日のクリスは危ねーな」


 アルの少し焦ったような声が聞こえるけど、それも納得だ。僕の足元、抉れてるよ。何したんだろう。土? 風? 両方を複合させたのかな? 僕を中心に土が抉られ、物騒な渦巻き模様が出来上がっている。うーん、さっきから、調子が良すぎて、上手く制御できてないなあ……。


「それじゃ、確認含めてもう一度説明するね」


 動揺しているのかしていないのか、いつもと変わらないポールの爽やかな笑顔に救われる。ありがとう。



 試合のルールは簡単だ。降参するか、試合場外に出るか、審判役のテッドの独断と偏見で止められるか、そうやって勝敗が決するまでの真剣勝負。特に制限は無い。あえて言うなら、殺し合いじゃないから、そこは自重しろ、というぐらいだ。


 試合の順番は立候補ですんなりと決まった。1番目がアル、2番目がエド、3番目が僕で、4番目がポールだ。アルとエドが乗り気だった、というのと、ポールが最後を希望した、というのでこうなった。まあ、どこでもよかったからこれでいいや。というか、1番目がアルか。意外だな。アルが真面目に戦うところなんて、見た事無い気がする。


 レジーはいつも通り、あのバカでかい大剣だ。よくあんなの振り回せるよな。それに対してアルは……レイピア? わあ、あんな細い剣で、どうするんだろう。一応、左手にダガーを持ってるけど……武器からして、組み合わせが悪すぎる。


「あーあ、俺、普段から武器使ったりしないのになー」


「随分弱気だな。何を言おうと手加減はしないぞ」


「へーへー、分かってますよー」


 緊張感がちっともない。ぺらぺらと無駄口を叩くばかりで、武器を構えもしない。アル、やる気あるのかな。アルのせいで試合やってんのに。言い出しっぺが先陣を切るのは評価するけど、あっけなくやられたりしたら……ダサいぞ。


「準備、おっけー?」


「いーよ」


「ああ」


 じゃー、開始! とテッドの号令とともに、アルがレイピアの先端をレジーに向ける。ただ、向けただけで、決してレイピア特有の構えをとる訳ではない。何をするつもり……あ、魔力が、レイピアの先端に集中してる。まさか……。


 様子を窺っていたレジーが、腰を落とす。あ、魔力が見えるって便利だな。脚に魔力が集中、つまり、身体強化をしているのが、よく分かる。バネのように縮んで、弾けるように前へと飛び出す。一瞬で距離を詰められて終わりかな、と思ったところで、アルが先程の魔力を放出させる。


 ジュ、と嫌な音が聞こえる。レジーに向けて容赦なく放たれた……あれは、熱光線、かな。ちゃんと反応して大剣で防いだみたいだけど……溶けてるだろうな。あんなのまともに受けたら、生物なら穴が開くんじゃないだろうか。えげつないなあ。


 大剣で熱光線を防いだ分減速しつつも、アルに叩きつけるように大剣を水平に振るう。それをバク転で避けるアル。かっこつけか。と見せかけて、避けながら光魔法を連発してる。目眩しを狙っているのだろうか。遠くから観戦しててよかった。あんなの、間近でやられたくないよ。


 レジーが大きく距離を取る。さすがにあれだけやられたら、何も見えなくなってるのだろうか。間髪を入れずにアルが距離を詰める。レイピアの刃全体に魔力が込められている。武器に魔力を付与するなんて、器用だな。光の球をいくつも出していたときも思ったけど、アルって意外と器用。


 まだ視力が回復していないのだろうか。顔を顰めたレジーが、大剣を投げた……?! そのまま地面を、ぶ、ぶん殴った……。試合場を越えて、訓練場全体に地割れが生じる。これは、ヤバい。


 まさか、こんな力任せのことをしでかすとは……予想外すぎる。観戦している僕らはもちろん、アルも不安定な足場となったことでバランスを崩し、距離を詰められなかった。逆に、レジーがアルへと急接近、腕を振り上げている。アルが憎々しげにレイピアとダガーで受け止めようとする。もちろん、魔力が付与されている、ということは……。


 ジュ、と、先程よりも鈍い音が聞こえる。これは……痛い。レイピアは容易く吹き飛ばされ、アルにはダガーだけが残った。レジーの右手、どうなったんだろう。見えないけど……いつもの無表情でアルへと連打を、一方的な猛攻を始めようとしている。こりゃ、アルの負けだな。


 そう思ったところで、視界が白く反転する。やりやがった。何も見えない。


「もうよくね? 疲れたわ」


 アルの声が聞こえる。いや、試合を終わらせようとしてるけど、みんな、お前のせいで何も見えてないんですけど……。


「降参でしょ?」


「そうだな」


 最終的にそうなったのか。光魔法、上手く使えば強いな。物理的な力ではレジーが圧倒的に上回っているけど、視力を奪える、という点でアルが有利に試合を進めた。どうやって自分に被害が及ばないようにしてるんだろう。あ、目を閉じればいいだけか。


 だんだん色が戻ってきた視界で、レジーの首筋にダガーを当てているアルの姿が見えてきた。

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