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9 モメます

今話もよろしくお願いします。

本日2話目の投稿です。

 王都での生活が充実してきた。




 トッシュさんって研究員じゃないの、こんなことしてていいの、ってすごく聞きたいけど聞いていいのかなあって悩んでたら、それを察した優しいトッシュさん曰く、ジュディさんもトッシュさんも元々ベレフ師匠の助手だから問題ない、ってどういうことなんだろう、ジュディさんからそんな話聞いたことないんだけど。


 それからは毎日トッシュさんと王都を探検して、王都の地図を頭に叩き込んでたんだけど、王城が中央でそこから東西南北に大通りが伸びて、同心円状に通りがあって、っていう蜘蛛の巣みたいなすごく分かりやすい造りになってるから、東西南北の代表的な建造物が把握できていればどうにかなるなあ、って感じだった。


 ちなみに研究所は北にあって、他に僕が密かに興味をもってる冒険者ギルドは南、露店は東西南北の各大通りにたくさんあるけど、店舗を構えてる立派なお店は東、素朴なお店は西にあるらしくて、そういえばあの喫茶店はどこにあるんだろうなあ、また行きたいなあ、なんて思った。


 学校が北西と北東にあって、それぞれ初等部と中等部らしい。もっと勉強したい人はそれぞれ専門機関にある研修部に行くらしくて、例えば僕だったら秋に中等部に入学して、卒業したら王立研究所の研修部に入る感じらしいけど、どうしてトッシュさんは聞いてもいないことを具体的に説明しているんだろう。


 王城の周りは貴族の居住地で、王城から離れれば離れるほど貧しい人の居住地らしくて、北で言えば研究所は中央に近くて、北上していくと北広場があって、さらに北上すると教会本部があるから、他の区画に比べれば治安は良い方らしい。ちなみに北から王都の外へ出る門は無いんだって。


 北から時計回りに大通りと主要な通りをじわりじわりと探検していって、気になった露店とかお店を冷やかしてみたり、食べ歩いてみたり屋内で落ち着いて食べてみたり、気に入った雑貨を買ってみたり、ってことをする以上はお金が必要なんだけど、いったいこのお金はどこから湧いて出てきてるんだろう。


 ちなみに唐辛子カプセルが残り1個だったから、わさびカプセルを5個買うのに、街外れに住んでたときに自力で稼いだお金で買わせてもらったんだけど、お店の人もトッシュさんもすごく微妙な顔をしていた。自分の身は自分で守るってだけなのになあ。




 王都で一悶着あった。


「おっと、嬢ちゃん、すまんな」


 南側、冒険者ギルドが近くなると、防具だったり武器だったりを身につけた人がたくさん歩いていて、やっぱり僕が目指すのはこういう姿だよなあ、なんて思いながら周りをきょろきょろ見ていたからだと思う、軽装の男の人が腰にぶらさげていた短刀の鞘が僕に当たって、つい驚いて声を上げてしまって、それに気づいた男の人が謝ってくれたけど、まあ僕も前を見てなかったし、ごめんなさい、ってなるはずだったのに、嬢ちゃん、って…。


「おい、訂正しろ」


 一瞬固まってしまった僕を心配して立ち止まった男の人に対して、トッシュさんのこの言い様、あまりにも口下手すぎですごく嫌な予感がしたから、慌てて補足しようと思ったのに、それよりも男の人が口を開く方が早かった。


「はあ?何言ってんだテメェ」


 僕の頭上で緊迫した空気があっという間に出来上がり、どうしてこんなことになったんだろう、もう僕が女の子でいいから仲良くしようよ、こんな空気の中で発言するような、毛の生えた心臓はお持ちじゃないんだってば、なんて頭の中ではぐるぐるしてるけど、僕はひたすらあわあわするだけなんだなあ。


「訂正しろと言っている」


「そのローブ……チッ、学者様は頭が固すぎて会話もできやしねえな、さっさと北にお帰りくださいませんかねえ」


 緊迫した空気に気づいた人たちが立ち止まり、野次馬になって男の人の言葉で笑っているし、男の人と一緒に歩いていた人達は、一歩引いたところからにやにやしながら見てるし、僕が男だって誰も気づいてくれないし、トッシュさんは相変わらず険悪な目で眉を顰めるだけで常に不機嫌顔だし、誰か助けてください死んでしまいます。


「おい、こいつ男だぞ」


 あああああっ!ありがとうございます神様!僕の理解者が今ここにいらっしゃいました!これで僕は男として生きていけます!!


「ははっ、そんな顔してたら女みてーだぞ、やめろやめろ」


 声のする方へ振り向くと、僕より背が高くて結構年上っぽい2人の男の子が歩み寄って来ていて、お揃いの灰色のマントにフードを被った2人は、髪色が真っ黒と真っ白っていう対照的な、だけど双子なのかどこか似た顔つきで、黒い子がさっきから僕に救いの言葉を投げかけてくれていたみたい。


「僕は、男、だよ!」


「わーってるって、だから男って言っただろー」


 黒い子が僕の頭にぽんぽんと軽く手を乗せて、髪を撫でつけるように後頭部をすっと一撫でしている間に、周りの野次馬は笑い声からざわつきに、男の人は僕の顔をまじまじと見て、トッシュさんは分かったかと言わんばかりに堂々とし、そんな周囲の様子をさっと見まわしていた白い子が男の人へ口を開いた。


「つまり嬢ちゃんじゃなくて坊主ってことですよ、お兄さん」


 なーんだつまんねえなあ、って今にも聞こえてきそうな、というか誰か言ったな、周りの野次馬が次第に崩れていく中で、男の人はばつが悪そうに、すまんな、坊主、怪我ねえかって聞くから、早くこの場から解放されたくてうんうん頷いて見せれば、じゃあな、気をつけろよって苦笑しながら手を振って立ち去ったし、トッシュさんも何も追及しなかったし、僕は無事生き延びることができました。神よ、感謝します。


 救世主となってくれた2人組にお礼を言おうと思ったのに、すでに人混みに紛れてて結局お礼を言えなくて、あの2人は格好からしてやっぱり冒険者なのかなあ、またいつか会えるかなあ、お礼ができるといいなあ、って少し浮かれた気分でトッシュさんにもお礼を言いつつ、でももう少し言い方は柔らかくしてくださいね、なんて言いながら研究所へと向かった。



 その晩ベレフ師匠に、僕って女の子に見えますか、って聞いてみたら、きょとんとした顔でこっちを見て、それから何を察したのか視線を彷徨わせ始めたから、わさびカプセルを顔面に投げつけて仮眠室に逃げ込んだ。

ありがとうございました。本日の投稿は以上です。

次話以降、更新ペースを緩めます。

んなことより野郎はいらねェんだよォッ!わんわんお寄越せェッ!!

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