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エドとポール、いらっしゃーい。
「今、いいかな」
ポールが爽やかに尋ねてくる。ええ、もちろん、いいですよ。心中穏やかではございませんが、それでもよろしければ、ええ。クロを抱えて椅子へと移り、2人にベッドを譲る。先に入ってきたポールがベッドに腰かけながら爽やかな笑顔のまま口を開く。
「ちょっと、お願いしたいことがあって。ね」
ポールの視線を受け、エドが頷く。僕にお願いしたいこと?
「クリスにはもちろん、レジーとテッドにも後から話そうと思ってるんだけどな」
レジーと、テッドと、僕。3人の共通点と言えば、王都の外へと出て行ってるぐらいな気がする。そのことに関わるのだろうか。それしかないよね。
「単刀直入に言うと、外に用事がある。連れて行ってくれないか」
「護衛の依頼、ってことになるかな」
やっぱりそうか。固い表情のエドに、笑顔を保ちつつも真剣な目をしているポールの顔をそれぞれ眺める。そんなに改まることなのかな。もうちょっと、気軽にお願いしてもいいと思うけど。レジーに対して僕はそうだったし。それにしても、うーん、2人を外に、か。僕は構わないけど……。
「レジーに言ってみないと分からないなあ。僕もお願いして連れて行かせてもらってるし」
「あ、そうなんだ」
「ごめんね、たぶん大丈夫だとは思うんだけど」
「いや、こっちこそ、突然すまん」
2人が表情を緩める。この2人も一緒に来るとなると、5人か。さらにアルも加われば、久しぶりに6人で外に出れるのか。まあ、アルは来ないだろうけど。それでも、楽しみだな。去年と同じ感じなのかな。それとも、もう少しだけ難しかったりするのかな。あ、そうだ。
「外に用事って、何かあるの?」
「ああ、えっとな――」
聞いてから後悔した。きっと、いつもなら理解できたはずだった。ところが僕はいろいろと考えすぎて頭が疲れていた。そんな状態で、ちょっぴり専門的な小難しい話など、理解できるはずもなかった。
とりあえず、エドもポールも、外で採取したいものがあるようだ。エドは鉱石、ポールは高山植物。エドは師匠からの課題、ポールは実物を採取したくて、つまり興味があって、ということらしい。エドの言う師匠ってのは、きっと、弟子入りするって言ってた鉱物商のことなんだろう。つまり、2人とも王都の北にあるあの山へと行きたい、ということだ。
ちなみにあの山は基本的に教会が管理している。無断では入れない。というのは一部だけで、一般に開放されてもいる。開放はされているけど、魔物との遭遇率が平地とは比べ物にならなかったり、そのくせかなり強かったり、あと道が険しすぎたりと、誰があんなところへ好き好んで行くか、というようなところだ。
誰が行くかって、こういう人だよね。目の前でいつもの調子で僕にいろいろ説明してくれているエドを見る。課題として持って来るように言われた鉱石について、その特徴や過去の発見報告から、採取できるであろう箇所をいくつか推測してくれている。
その隣で、決して正確とは言えない山中の地図を真剣な顔で見つめているポールを見る。高山植物、とは言っていたけど、たぶん、薬になるのかな。地図に描かれているのは現在の最終踏破地点までの道程と、簡単な地形や植生のみ。そして今エドから語られている地質も含め、どこで目的のものが得られそうか、いろいろ考えているんだろう。
つまり、明確な目的があり、あの山脈を探索することが目的達成の手段となるならば、多少の危険を理解しつつもそれを理由に諦めようとはしない。そういう熱意のある人でなければ、あんなところ行こうと思わない。他に行く人がいるとすれば、前人未踏という言葉が大好きな変人か、強い魔物に惹かれる戦闘狂か、といったところだろう。
それにしても、まさかこの2人が山へ連れていけと言い出すとは。たぶん大丈夫、と気安く言ったのは間違いだったかな。山は危険、というのは話には聞いているけど、どれだけ危険なのか、というのが分からない。
レジーとテッドは、弱くない。ただ、強くもない。それはこの前のチャコとアッシュさんの件で思い知らされている。そうなると、危険すぎるから、と断りそうな気もする。だけど、そう考えるのは僕が弱いからかもしれない。もしかしたら、不屈の精神でもって喜んで引き受けるかもしれない。レジーとテッドはどちらだろう。分からない。
「心配?」
ポールの声に、僕はそんなに情けない顔をしていたのだろうか、そう思いながら顔を上げてポールの顔を見て、驚いた。いつもの優しいだけではない、自信に溢れた、力強い笑みが浮かべられていた。
「大丈夫だよ。僕らも、戦えるよ?」
「ああ。だから、心配するな」
エドへと視線を移すと、お、おお、悪人面……? 勝算があるのだろう、その、目と口元に浮かんだ、獰猛な笑みに、若干引いてしまう。えーっと、うん、商人って、こういうもの、なのかな? エドが僕から視線を逸らして、口を手で覆う。あ、ごめん。
「ふふ、エド、やっちゃったね」
ポールが可笑しそうにしている。やっちゃった、って、さっきの、あ、悪人面のこと、かな……? エドが気まずそうに、ちら、と僕の方へ視線を向ける。口は手で覆ったままだ。
「その、すまん、何というか、た、楽しいと、な……」
「……悪人面になっちゃうの?」
ポールが、くくっ、と喉を鳴らして笑う。その様子を恨めしそうに見てから、エドが口から手を離す。先程の獰猛な笑みは、消え去っている。
「……まあ、そう、だな……」
「感情的なエドって、珍しいよ。よかったね、クリス」
よかったのか? 相変わらず可笑しそうに笑みを浮かべているポールと、少し不貞腐れたように視線を逸らしたままのエドを見る。この2人、仲が良いなあ。
「……クリスに似てきただろ、コイツ」
待って。エド、それはどういう意味かな?




