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68 悔います

 本物の冒険者というものを見せつけられた。




 レジーとテッドはあんなことがあったのにも関わらず、すぐに気持ちを切り替えられたようだった。次の日には何事もなかったかのように依頼を受けに行こうとしていた。僕はまだ完全に乗り越えられていなかったので、ついていくのはやめておいた。


 となると、暇だ。どう過ごそう。何も予定がない。お金も無い。うーん……。あ、クロでも探そうかな。うん、気晴らしに散歩だ、散歩。昼から久しぶりに王都を隅々まで歩いてみよう。お金は無いけど、お茶一杯程度ならどこかで飲んだっていいだろう。うん、そうしよう。



 そんなことを思いついた数時間前の僕を恨む。


「よお、昨日ぶり」


 チャコとアッシュさんに遭遇した。



 先を歩く2人の後を渋々ついて行く。相変わらずチャコは布で目を覆っているし、アッシュさんもゴーグルを着けている。眼鏡とかサングラスならともかく、この2人の格好は目立つ。すごく目立つ。


 チャコに向けられるのは好奇の目だ。何も見えていないはずなのに、通行人をひょいひょい避けながら迷いなく進むその軽い足取りに、すれ違う人は不思議そうな視線を送る。チラ見どころかガン見の人もいるし、中には足を引っ掻けようとする意地の悪いヤツもいる。チャコはそういうヤツら全員の足に一撃お見舞いしてさっさと謝ってすぐに立ち去っている。わざとだな。


 アッシュさんに向けられるのは羨望や欲望丸出しの目だ。すらりと背の高い痩身にさらさらと流れる灰色の髪は嫌でも目立つ。しかもその隣を歩くのは変な格好の少年。まさか規格外に強いだなんて思わない。汚れた思考の男は躊躇なく近寄ってくる。アッシュさんはそういうヤツら全員に何かをしているようで、男は近づく前にすぐに顔を青ざめてそそくさと路地裏へと逃げていく。何してるの。こわい。


 そうやって目立つ2人の陰に隠れるようにして大人しくついていっていると、路地裏へと入った。人通りが一気に少なくなる。僕はいったい何をされるんだろう。ついてこい、と突然言われたかと思ったら、路地裏へと連れ込まれた。僕、今日が命日かな……。


 少し歩いて、チャコが突然立ち止まる。アッシュさんに顔を向ける。アッシュさんもチャコに顔を向けている。どうしたんだろう。


「……バカだー」


 アッシュさんがぼそりと呟く。バカ、って、何。どういうやりとりがあって、その言葉が出てきたの。2人の顔を交互に見ていると、アッシュさんの細い目がこちらを向いた。一瞬だけ目が合うも、すぐに逸らされる。


 特に何かを言われることもなく、再び歩き始める。何だったんだろう……。



 辿り着いたのは、1軒の喫茶店。僕がよく通っていた喫茶店だった。まさかここに来るとは思わず、驚いた。ブランとノワールがいなくなって最近めっきり通わなくなっていたから、久しぶりに来れて嬉しい。隠れた名店っていうのは知られているもんなんだな。


 ここの喫茶店はいろんなカップケーキを作っている。それを1個ずつ良心的な価格で売ってくれていて、持ち帰ることも店内で食べることもできる。店内で食べる場合にはお茶もサービスしてくれるから、ついつい2個とか3個とか買っていた。また食べられる、と少し心が沸き立つ。


「ここでー、いいー?」


「あ、はい」


 アッシュさんがのんびりと尋ねてくれる。好きなお店だから構わないどころか嬉しいぐらいだけど……でも、嫌いなお店でも断るだなんてそんな反抗的な態度、できる訳ないじゃないですか。自分の命は誰だって惜しいですよ。ああ、相手がこの2人でなければ最高だったのに。だいぶ心が沈んだ。



「ほんっとーに、ごめんねー」


 金欠だし2人を前にがっつく気にもなれないので、カップケーキを1個だけ買って席に着いた。座ってすぐ、アッシュさんに謝られる。目の前で両手を合わせて頭を下げている。予想外の展開に何も言えず、固まってしまう。


「チャコ、めーっちゃ失礼だった、ねー?」


 アッシュさんがチャコへと非難めいた目を向ける。チャコは気づいていないかのようにカップケーキを頬張っている。こういう時だけ目が見えていないのを活かすんだね。なんて性格が悪いヤツだ。


 ここまでの道中、ずーっと思ってたけど、足を引っ掻けようとしてきたヤツら全員の足を踏むとか、蹴り飛ばすとか、僕なら内心で思うだけで行動に移さないようなことを次から次へとやってのける。性格悪すぎ。でもとてもじゃないけどそんなこと言えない。命が惜しい。


 何の反応も示さないチャコに向けてアッシュさんがあっかんべーをしている。ちょっと、そんなことしたら、せっかくの美人さんがもったいないですよ。


「雑魚が悪い」


 爆弾発言が飛び出してきた。アッシュさんが唇を尖らせてぶーぶー言っている。この2人、よく一緒にいられるな。


「雑魚と一緒にいていいことあんの、アンタ」


 唇の端についていたクリームを指で拭い、それを舐め取りながら僕へと不躾な質問をしてくる。怒りたいところだけど、怒ったらどんな目に遭うかと思うと恐ろしくて委縮するしかない。弱いって、悲しいな……。


 何を言えばいいのか、いや、何か言うべきなのか、必死に考える。頬杖をつくチャコの視線から逃れるように、俯く。クリームやクッキーで綺麗に飾られているカップケーキを見つめる。つらい……。


「はー、もう、最低だね、チャコ」


 どういう神経してればそういう言葉が出てくるの、とアッシュさんが容赦なく言い放つ。うう、アッシュさん、もっと言ってやってください……。


「でも、実力不足で外に出るのが危険なのは本当だよ?」


「あいつら雑魚だもんな」


「チャーコー?」


 雑魚雑魚言われて悲しくなってくる。学校の中では強いのにな……上には上がいるもんだ……。


「アンタ、魔法使えんでしょ」


 恐る恐る顔を上げる。頬杖をついて斜めに見上げてきている顔には、ニッコリと人懐っこい笑顔が浮かんでいる。僕より小柄ってことは、僕より年下、のはず、だよね……そんなことを考えながら、頷き返す。頷いてから、あ、見えてないよな、いや、分かってるか、なんてどうでもいいことを考える。


「教えてあげよっか?」


 ……は? なんだって? 聞き間違いかな? 意味分かんないぞ?

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