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62 問われます

2016/11/10、20 誤字訂正

 クロがついてくる。やめてほしい。




 クロはだいたい大人しい。ただ、僕にくっついている時に他人に引きはがされそうになった時のブチ切れ方が半端ない。初めは物珍しさからか、それとも女の子の前では隠している可愛い物好きな面が出てきているのか、クロの周りに寮生が集まることが頻繁にあった。ただ、クロのブチ切れ方が知られると、すぐに集まらなくなった。


 腹黒の使い魔ヤベエって言ったヤツ、誰だ、出てこい。


 とにかく、そんなクロを僕から離すというのは不安、というか離せない。クロがくっついてくる。なんで僕は懐かれてんだ。意味分かんない。そんな状態だから、玄関ホールから先に入れない、とは何だったのか、というぐらいにガンガン奥まで入ってきている。いや、入れざるを得ない。じゃないと僕が部屋に戻れない。


 それは寮内だけでなく、街へと、さらには王都の外へと出る際も同様だった。危ないから連れ歩きたくなかったけど、思えばクロがいたのは森の中だ。大丈夫だろ、というか大丈夫であってくれ、という期待とともに、常にクロと行動することになってしまった。これは予想外だ。


 そんな感じで、謎の黒い影の依頼と野草の採取、時々別の依頼を受けながら、お小遣いを稼ぐ日々が何日か続いた。こうやって夏休みが終わっていくのかな、なんてぼんやりと部屋で1人考えていたある日の晩、視界の端で何かが、いや、エリーゼさんから再び借りていたあの魔道具が、光った。



 つ、ついにランカスター家、と思ったのに、ランカスター家から提案された面会の日と担任と面談をする日が被った。サボろうかと本気で悩んだけど、エリーゼさんに止められた。平民の事情なんですからいいじゃないですか。駄目?


 面談は事前に行われた進路調査をもとに行われる。調査自体は簡単なものだ。卒業後の希望進路を3つほど書けばそれで終わり。ほとんどの人が家業を継ぐ、といったことを書いているはずだ。


 僕はブランとノワールと一緒に冒険者になる。それ以外は考えてないけど、埋めないといけない感じだったから、次は研究者ということにしておいた。ベレフ師匠と一緒にできたら、楽しい、かなあ。3つ目は……ああ、あの時は知らなかったからな……。まあ、うん、聖職者、って。セルマさんの影響だよね。



 とても気分の乗らない面談の日、全く人の出入りの無い、静まり返った学校へと行く。指定された教室へと向かい、ノックをして教室の扉を開ける。先生が眉間に皺を寄せて、机の上に広げた資料を見ながら待っていた。


「失礼します」


「ああ、クリス。そこ、座……ん?」


 先生が対面するように置かれた椅子を示し、僕を見て固まる。でしょうね。


「にゃあ」


 クロが肩に乗っている。先生が固まっている。僕は悪くないぞ。クロが離れてくれないのがいけないんだ。だから来たくなかったんだ。ただ、このままでは気まずい沈黙が続く。先手必勝だ、謝るぞ。


「すいません、先生……」


 肩に乗っているクロに手を伸ばし、抱える。クロは相変わらず大人しい。それでも全力でしょんぼりした顔を作る。もう、謝るしかない。これに関しては、理由も何もない。僕は猫を校内に連れてきている。それ以上でもそれ以下でもない。平謝り作戦しかない。


「懐かれちゃって……」


「あ、ああ、そう。まあ、いいんじゃない。誰もいないし。他の先生には黙っとくよ」


「ありがとうございます……」


 理解のある先生が担任でよかった。クロを抱え直して椅子へと向かう。椅子へ座り、改めて先生と向き合うと、先生の眉間の皺がなくなり、机の上の資料を、見て、ない。クロを抱え直してみると、先生の目もそれに合わせて動く。も、もしかして……。


「撫でます?」


「……ほんと? 後で、いい?」


 本当に、理解のある先生でよかった。




「んー、興味、無い?」


「無いですね」


 そっかあ、と先生が椅子の背もたれに寄りかかり、眉間を指で揉んでいる。さっきから定期的にこのやりとりが続いている。


 冒険者なの? から始まり、研究者はどう? 聖職者はそうでもない? という先生の本音を隠し切れていない質問からの、宮廷魔術師は? を何度も繰り返している。先生曰く、宮廷魔術師なら有事以外は全然忙しくも危なくもないのに高給取りのウハウハ、僕ならさっさと宮廷魔導士にもなれる、らしい。


 いや、別に、そういう、お金とか、いいんだけど……。ただ、ずっとこのやりとりを続けていると、だんだん自信が無くなってくる。どうして冒険者を希望したのか、と聞かれた時、すぐに答えが出てこなかった。なんでだろう? どうして僕は、冒険者になりたいんだろう?


 咄嗟に思いついたのは、ブランとノワールと一緒にいろんなことをして、いろんなところへ行きたいからだ。じゃあ、ブランとノワールが冒険者じゃなかったら、僕は冒険者にならない、ということなのだろうか。たぶん、そうなんだろう。え、そうなのかな。いや、嘘でしょ、僕。それはさすがに……。


 こんな微妙な動機なら、そりゃ先生だって他の進路を提案したくもなる。あと、僕、それなりに成績優秀、だし。どうせなら、いいトコ行ってくれた方が、嬉しい、のかなあ。


「もっかいだけ、考えてきてもらっていい?」


 なぜ冒険者であって、宮廷魔術師でないのか。はっきりさせないといけない。そうでなければ、先生だけでなく、僕もすっきりしない。納得できない。後悔しないと、言い切れない。


「分かりました」


「うん、じゃあ次の面談はねー……」


 日程調整をしながら、ベレフ師匠と、ブラン、ノワールのことを考える。僕1人で考えることじゃないでしょ、これ。相談したいんだけど。なんでいないのかな、みんな。


 いや、そうじゃなくても、これって、僕が平民だからこういう話になってるんだよね。貴族だとしたら、この時間も、全部無駄になるのかな。


 あーもう。めんどくさい。

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