59 黙ります
僕は謝ったぞ。アルも謝れよ。そう言いたい。
「はあ?」
いつもの調子を取り戻してきたアルを見て、エドとポールは部屋を出て行った。できればちゃんと医者に診てもらいたいけど、今回のような症状だと魔法医学を修めているような医者でなければならない。そしてそういう人に診てもらうには、それはそれは高い診療代を払わなければならない。つまり諦めるしかない。
とにかく、しばらくは無理をしないように、とポールが念押しをして、部屋を出ようとドアへと向かった。僕も一緒に出ようと後に続こうとしたところで、アルに肩を組むようにして止められた。話は終わってないぞ、と囁かれ、鳥肌が立った。ひえーこわいよー。
まあ、確かに、話は終わってない。でも、このまま有耶無耶になると思っていたのに、アルからは逃れられなかった。どうして覚えてるんだよ。忘れろよ。いろいろあっただろ。
そして改めて、セルマさんとエリーゼさんと、どちらとも仲良くしていることに対して、アルからの言及が始まろうとしていた。僕は黙秘権を行使した。
「そんなに話したくねーのかよ」
アルが呆れたような顔をしている。呆れられても僕は喋らないぞ。黙って頷く。アルが大きな溜め息を吐いた。
「堂々と秘密にされる俺の気持ちにもなれよ」
いや、それ、アルが言う? 他人の気持ちになれって、人に言う前に自分でやろうよ。ここまで自分のことを棚上げされるといっそ清々しい。清々しいほどのクズだ。やーいアルのクズ。
「誰だって秘密にしてることの1つや2つあるでしょ」
すぐに言い返されるか、もしくは心の声が表情に出てしまいそれを指摘されるか、とにかくアルはすぐに何か言うだろうと思っていた。なのに、アルが、黙ってる。やめろ。黙ってるアルは気味が悪い。喋れよ。
「俺が秘密を話せば、お前も話すのか」
アルが真顔でまっすぐ僕を見つめてくる。いや、喋れよって、そういうのじゃない。何その態度。やめろ。真面目なアルは気味が悪い。ふざけろよ。というか秘密を話させるために自分の秘密を話すって、何それ。こわい。どういう交渉術だよ。
本気か冗談かよく分からないからとりあえず引いておいた。アルの表情がふっと緩む。
「秘密主義もいいけどよ、また勝手にふざけたことし出したら、殴るからな」
ええ……反応に困る。殴ってでも僕を止めてくれる存在がいてくれることに喜べばいいのか、それとも今日のように感情的になってすぐに殴ってくる存在がいやがることに悲しめばいいのか、どっちなんだ。
「それに、お前が話さなくても俺とモナの話は聞かせてやるから。安心しろ」
何を安心しろというのか。ちょっとよく分からない。
アルの追及を逃れることができた2日間、何があったかと言えば、まあ、2人の本音の片鱗を見てしまった。それだけなんだけど、それだけだと一言で片づけるには少々重い話だ。一度落ち着いてよく考えるべきだと思った。そしてこのことは僕自身の問題とも言うべきで、あまり他人に話したくなるものではない。
まずエリーゼさんに関しては、今後はお世話になることが多くなる、かもしれない。貴族という上流階級の人達の生き方というものを少しずつ教えてもらうことになる、かも、しれない。僕が勝手にそう思っているだけだから、もしかしたら全く関わらなくなるかもしれない。とにかく、エリーゼさんを通して、とある貴族と、ランカスター家と、会う約束を取りつけようとしているところだ。
そしてセルマさんに関しては、ちょっと距離を置こうかと思っている。今まで世間ずれした、箱入り娘の、演技派純粋天然っ子だとは思っていたけど……。聖職者というのは、いや、聖女というのは、根っからの信徒であり、その危うさというものを、見てしまった。もしかしたら縁を切るべきなのかもしれない。だけど、そこまで思い切ったことができずにいる。
どちらも、僕の非凡さに関わる話だ。望んでこんな魔力量を持って産まれてきた訳ではないけど、それでも自分自身の魔力のことを理解せずに好き放題してきた責任というのは、ある。きっちりけじめをつける必要がある、というのは漠然と感じている。
それに僕の出生が明らかになる、かもしれないんだ。ここ最近不安に思っていたことが解消されると聞いて、嬉しくない訳がない。
そんな感じで、良いことと悪いことの両方を体験した2日間が終わり、ベレフ師匠からの手紙を読んでいた。その時にアルが部屋へと押しかけてきて、怒鳴られ、殴られ、魔法をぶっ放して、落ち込んだ。中身の濃い週だった。
そして、改めてベレフ師匠からの手紙を読んでいる。最近はジュディさんとトッシュさんも手紙を書いてくれる。師匠にとっては、手紙を奪われて書けない、らしいけど。
返事、どうしようか。送られてきた手紙の内容に対する返事だったり、僕自身の近況はもちろん書くけど、全てを書く訳じゃない。それに、どうしても何事もなく元気で過ごしているように書いてしまう。嫌なことは書いてない。あと、セルマさんのことも、聖女であることを考えればやっぱり書けない。というか、女の子と仲良くしてるなんて、わざわざ伝えなくていいでしょ……。
今一番嬉しいことと言えばランカスター家の存在を、僕の家族かもしれない存在を知ったことではあるけど、それをベレフ師匠に伝えるというのも……。いや、もし本当に血の繋がった家族なら、今後のことも考えて伝えるべきだろうけど、手紙で、っていうのは、なあ……。
というか、ベレフ師匠は僕の事をどれだけ知っているんだろう。そのあたりも、直接聞いてみたいんだけどな……。
あと半年。ブランとノワールも、ベレフ師匠達も、あと半年で帰ってくる。




