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 やらかしてすごくしょんぼり。




 ポールに連れられてアルの部屋に入ると、アルだけじゃなくてエドもいた。この2人が一緒にいる光景って、珍しい。アルは口に手は当ててはいないものの、顔色がかなり悪い。唇が紫色。毒キノコ率が上がってる。そんなどうでもいいことを考えてないと、僕の方を見てくれないのが、少し、辛い。


「アルの魔力、見てほしいんだけど、できる?」


 ポールに言われて、とりあえずアルの魔力に意識を集中させてみる。させてみるけど、そんな、動かされてない魔力の察知なんて、できる気が……しない、はず、なんだけど……?


「やっぱり、おかしい?」


「……ちょっと、待って」


 何と表現すればいいのだろう。そもそも魔力の察知自体が僕の感覚的なもので、説明しづらい。僕は説明できないし、みんなは察知できないし、正しいかどうかなんて誰にも分からない。そんな眉唾物を信じるだなんて、ポールは人が好過ぎる。


 とにかく、アルの魔力は、何か、違う。そもそも簡単に察知できる時点で、違う。例えるなら空気みたいなものだ。動いていなければ確かにあるはずなのにその存在を感じられないけど、動けば風となって感じられる。今のアルの魔力は、感じられる程度に動きがある状態だ。


 その動きがどうなっているかといえば、アルの周囲で、こう、もやもやっと。なんというか、掴みどころのない、ふわふわっと、ゆらゆらっとしてる感じ。意識的にどうこうしようとしている訳じゃなくて、無意識的に動かしてしまっているような、ぼんやりとした、意志の無い動き。それを言葉にするならば……。


「……魔力、ダダ漏れ?」


「……ああ、なるほど」


 ずっと黙っていたエドが何かに納得する。ポールも、やっぱり、って呟いてる。何を2人で納得してるの。話についていけないじゃないか。エドが僕の顔を見て笑う。


「アル、もう一回だけいいか」


 エドがアルに何かを手渡す。石? いや、石ということは……。アルが素直に頷いて石を受け取ろうと指先が触れた瞬間、石が光った。やっぱり、魔力石か。エドがアルから魔力石を受け取りながら、また笑う。


「クリス、俺が持ってても光ってるんだぞ、これ」


 言われて、エドの手の中にある魔力石を見る。いや、どう見ても消えてるじゃん。


「よく見ろって」


 エドが魔力石を持っていない手で影を作ってくれる。そうしてもらえば、確かに、光ってるなあ……。みんなは初等部とかで一度は直接触れて光らせたことがあるらしいから、これで光ってるんだって分かるんだろうけど、僕はそんなことしてないからなあ……。意外と光が弱い……ん?


「アルはもともとあんなに光らせられなかったらしい」


 言っとくけど、俺が光らせられないんじゃなくて、アルが光らせすぎだからな、とエドが付け加える。あー……。光量の差、ねえ……。最近聞いた話だなあ……。


「と言っても、さっきの光り方はクリスほどじゃないし、クリスみたいにフラつくこともない。むしろ、繰り返すごとに体調が良くなってる」


 ふうん、僕より光らないんだ。それで、魔力がダダ漏れで、魔力石を光らせる度に体調が良くなる。なるほどねえ。エドが視線を下げ、魔力石を弄りながらゆっくりと、思い出すようにして話し出す。


「魔力石が魔力に反応するっていうのは、魔力を出し入れしているってことで、その時に光を生じる」


 これは一般的によく知られていることだ。ちなみに魔力石とは魔鉱石、つまり鉱山から掘り出したままの原石を精錬したものを指す。しかし、精錬したことで魔力を失うものもあり、そういったものは精錬前の、魔鉱石の状態で魔力石として扱われる。つまり、魔鉱石と魔力石は厳密に区別されている訳ではなく、掘り出されたものは魔鉱石、実際に使われているものは魔力石、といった程度の認識となっている。


 魔鉱石が多く採れる鉱山は淡く発光しているらしく、これは環境中の魔力を常に吸収もしくは放出しているためではないかと言われている。魔鉱石の採れる鉱山は魔鉱山と呼ばれ、有名な魔鉱山は大陸の北側、つまりここ王国と、西隣の共和国にある。特に王国の魔鉱山はかなり大きく、大陸に出回っている魔力石のほとんどは王国産と言ってもいい。


 ついでに言うなら魔力石は魔道具の動力源となっており、魔力石内の魔力を利用することで誰でも同じ効果を安定的に得られる。ただ、魔道具の起動には、魔力を持っている人なら魔力を流し込むだけと、手順が少なくて済む。その分魔道具の構造自体も簡易になるため、魔力持ちの人を対象とした、手間のかからない魔道具ばかりが作られるようになった。


 また、魔力持ちの人というのは高所得の人が多く、魔道具を持つことは上流階級の人間の象徴のようになった。結果、実用性よりもデザインが重視されるなどして無駄に高価な魔道具なんかも作られている。


 ちなみに、魔力石内の魔力を使い果たせば、魔力石は普通の石になってしまう。そうなる前に魔力を補充することで、魔力石は使い続けることが可能だと言われている。


 しかし、実際は魔力を補充する技術が未発達で、大金を払って中途半端に補充してもらうか、もしくは新たな魔力石に交換するかして魔道具を使い続けることになる。魔力石はほぼ使い捨てと言ってもいい。あと、魔力石によって魔力の保有量は異なり、大量の魔力を保有できる魔力石は高く売買される。


 つまり、魔力石の主な使い道である魔道具は、買うのはもちろん、使い続けるのにも金がかかる。とても平民には手が出せない代物だ……って、あれ、何でこんなこと考えてるんだ、今の話に関係無いじゃん。まあいいや。とにかく、魔力石っていうのはそういうもので、えーっと、うん、魔力石は、光る。


「強く光る時っていうのは、その出し入れが通常よりも多い時、もっと言えば、魔力を入れる人の魔力量が多い時、だったか」


 ああ、そうそう、環境中の魔力の量、というか濃度は高くない。だから魔鉱山は淡く、ぼんやりと光ってる、らしい。そして、僕の魔力量は多いらしいから、発熱するほどに、僕の気が遠くなるほどに魔力を入れて、というか奪われてしまい、強く光る。ところがアルの魔力はもともと多くないのに、何故か強く光らせてしまう、と。


「アルは何かをきっかけに一時的に魔力が急激に増え、体調が悪くなった。そして、魔力石に魔力を入れたり、少しずつ放出することで体調が次第に良くなっている」


 その何かっていうのは、僕の魔法だよね……。エドが手元から視線を上げて、僕を真っ直ぐ見つめる。


「クリス、もしかして、アルに、魔力、流し込んだんじゃないのか」


 うん、僕もそれ思った。

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