episode 10 : Reginald
うおおおツーわんデー!
ギリギリわんわんタイムだから! 許して!
レジーの話! 聞いたげて!
気をつけてた、はずだった。
冒険者ギルドでのギルド員登録は自称15歳以上でできる。
自称であるため、少しぐらい盛っても意外とバレない。
俺はやらなかったが、そうやって早くから依頼を受けているヤツはごまんといるだろう。
もちろん、あまりに実年齢とかけ離れた年齢を言えばバレる。
初っ端から信用を失うようなことをしては、今後の活動に影響が出かねない。
そんな危険を冒してまで、少しでも早く活動を始めたいもんかね。
ま、年齢を盛らなくても疑われそうなヤツが手伝わせろとうるさかったが。
俺は産まれた年も日付も親から教えられて知っているが、誰もがそうとは限らない。
そういったヤツらは年齢を自称するしかないし、誕生日だって勝手に決めるしかない。
だからと言って本当に誕生日を決めているヤツは少なく、せいぜい誕生月、普通は誕生年しか決めていない。
王都の平民にはそういった習慣があるため、どうやら誕生日に対するこだわりがあまり無いようだ。
誕生日ではなく年度を基準に年齢を言うのに最初は戸惑ったりもしたもんだ。
出生が明らかでない人間が多い、スラム街やマフィアといった裏社会の存在が関わっているのかもな。
推測にすぎないがね。
で、ギルドから依頼を受けるのはギルド員にしかできない。
が、依頼の達成はギルド員でなくてもできる。
もちろん、ギルドにバレればめんどくさいことになる。
ギルドにバラされるかどうか、依頼内容や依頼主の見極めが重要になる。
ギルドにしてみれば不正ではあるが、依頼主にしてみれば人が多い方がありがたい場合だってある。
依頼内容や補償の程度により手数料が変わる以上、手数料を抑えるために依頼内容を控えめに説明したり、必要最低限の人数を申請するようなことはよくあるからな。
もしくは素材の採取みたいな依頼なら、他人の手を借りようともギルド側だって不正と言いづらい。
俺はやっちまってるが、そうやって依頼を達成しているヤツもごまんといるだろう。
しかし、依頼を受ける際に、誰がどう見ても非ギルド員のガキを大量に連れていてはギルド側からお咎めを受けかねない。
人数が多い時にはギルドホールの外で待ってもらったりもした。
ま、受付からは見えてるだろうしバレてるだろうが、ちゃんと俺が依頼を受けて達成している、という格好だけでも取るべきだろう。
配慮、ってやつだ。
依頼主とギルド員をギルドが仲介するのにはもちろん利点がある。
依頼主はギルドに手数料を支払えば、依頼内容に合ったギルド員を探し、仲介してもらえる。
人を探す手間が省け、しかも達成率の高い人材を得られ、依頼を失敗された時の補償もある。
ギルド員はギルドに登録して依頼を受け、結果を報告していれば、実力に合った依頼を仲介してもらえる。
こちらも依頼を探す手間が省け、希望に合った依頼の斡旋やそのための支援も受けられる。
もちろん、不正をしていなければ、だが。
誰かを連れて依頼を受ける時には、王都内での依頼や素材の採取みたいな危険性の低いものを選んできた。
そういったものは報酬が少なくなりがちだが、危険な目に遭わせることに比べればどうということはない。
それに最初から危険性の高い、難易度の高い依頼を受けられるはずもない。
実力と信用を積み上げるためにも、難易度の低い依頼を、時には不人気な依頼を受けざるを得なかった。
それをアイツらと乗り越えられたのは、正直ありがたかった。
初めは6人だったが、次第にテッドと2人でやるようになった。
偶然か必然か、その頃から紹介される依頼の難易度も上がってきていた。
それでも2人でやる時には危険な依頼は受けないようにしていた。
しかし皮肉なことに、テッドがいない日はほとんど無く、着々と依頼を成功させていくことになった。
結果、だんだんと討伐や捜索といった王都外での難しい依頼を紹介されるようになってしまった。
初めは断っていたが、そのまま断り続ければ信用を失うことにもなりかねない。
テッドに促されたこともあり、受けてしまった。
護衛の、依頼。
いつかやる時はくると思っていた。
だが、それは1人でやるものだと、コイツを連れて行くものではないと思っていた。
できれば、コイツの目の前でこういう類の依頼は受けたくなかったんだが……。
案の定と言うべきか、テッドはついてきた。
そして、依頼主はそれを喜んで受け入れた。
「2人とも学校の生徒か。すげーな」
「こういうことばっかりやってて勉強の方はからっきしだがな」
「ベイルだって働いてんだろ? その方がすげーよ!」
「へへっ、たいしたことねーから」
依頼主は少し南に行ったところにある農村から王都へと出稼ぎに来ているベイル。
テッドと同い年なのもあってすぐに打ち解けていた。
「何持って帰んの?」
「んー、いろいろ。道具全般。食い物は作れるかんね。それ以外」
「へえー」
ベイルの荷物の多さは異常だった。
背負っているバッグのデカさはもちろんだが、両手にも布に覆われたドでかい荷物の塊がぶら下がっている。
どう見ても1人で運ぶ量じゃない。
護衛じゃなくて運び屋の依頼かと思ったじゃねーか。
「いかにも出稼ぎの帰りでーす! 金持ってまーす! って感じっしょ? 狙われんだよねー」
「うわあ、そりゃ大変だ」
「頑張りゃ1日で帰れる距離だと思って護衛代をケチった結果襲われた――」
「うっそお?!」
「のが俺の向かいん家のにーちゃんな。バッカだよなあ、あっはっは」
「わ……らえねーよ! あっははは!」
「笑ってるじゃねーか! あっはっはっは!」
嫌な予感のする会話だな。
ベイルの言う通り、目的地の農村はあまり遠くはない。
が、1日で行くには少し無理がある。
出発も野営の準備も早めに行う、余裕のある日程での旅路となった。
「レジナルドの剣でけーな」
「ああ、これか」
街道脇の、見晴らしの良い場所で野営の準備をしている時にベイルから話しかけられた。
テント脇に置かれていた大剣を手に取る。
「か、片手で持てんのか……」
「さすがに生身の身体じゃ無理だぞ? 魔法使ってんだよ」
「はえー……」
俺が使っているのは、正直、武器じゃない。
幅広で、長く、重い。
店で見た時も、コレは飾られていた。
つまり、置き物だ。
恐らくコレを作ったヤツも、まさか武器として使われるとは思っていなかっただろうな。
戦闘でこれほど実用性の欠片も無い剣は他に無いだろ。
「人間と同じくらいのデカさじゃねーか」
「そうだな」
幅も長さも重さも、普通の剣の何倍もある。
腰にぶら下げれる訳もなく、普段は背負っている。
こんなものを扱える人間は他にいないんじゃねーの。
「よくこんなの使おうと思ったな」
「ま、一目惚れだ」
斬るのではなく、潰す。
俺の性に合っていた。
「これ見ちまったら襲う気になんねーだろーな!」
はたしてそうなのか。
軽く大剣を振る。
鈍い風切り音が耳朶を掠める。
覚悟を、決めないとな。
夜になり、順に見張り番をする。
テッドには日没後と日の出前の数時間ずつを、夜中は俺が担当することにした。
暗い、襲いやすい時間帯だ。
来るなら来やがれ。
さっさと終わらせてやる。
絶えず補助魔法で身体強化を施し、大剣をいつでも振るえるように柄を握り締め、感覚を研ぎ澄ませる。
焚き火を絶やさないように薪をくべながら、周囲を警戒し続ける。
俺の番がちょうど半ばを迎えようかという、かなり夜が更けた頃だった。
足音が確かに聞こえた。
こんな時間に近寄ってくるヤツが敵か味方かなど、考えるまでもない。
足音だけじゃない、気配すら消そうとしないなんてな。
ナメられたか。
視線だけで周囲を探れば、焚き火と月の僅かな光でぼんやりと気配の主達の姿が浮かび上がっていた。
立ち上がり、正々堂々、正面から迎え撃つ。
賊が、4人。
後悔する間もなく終わらせてやる。
「やる気じゃねーかコイツ」
賊の1人が下卑た笑いを浮かべる。
「おい、ガキ。悪いこた言わねえ、大人しく荷物を――」
一瞬で間を詰め、脳天から大剣を叩きつける。
骨を砕き、脳が、顔が、首が、潰れる感触が大剣越しに伝わる。
「……クソガキが。やるぞ」
すまんな、ついに、人間まで、お前で殺した。
死体に埋まっている大剣を振り上げる勢いで右隣にいた賊の脇腹へ叩き込む。
また、砕かれて、潰れて、引き千切れる。
賊の1人が、がら空きになっている俺の左側から斬りかかろうとしている。
遅い。
魔法が使えないヤツが、俺に勝てる訳がない。
左手を大剣から離し、賊の得物を殴る。
相手が怯んだ隙に右手だけで強引に大剣を引き寄せ、水平に斬りつける。
首が飛ぶ。
残り、1人。
「ひっ、ま、まて――」
首を飛ばす。
大剣をゆっくりと下ろし、身体強化を緩める。
周囲に他の賊の気配は無い。
静かな夜が戻ってきた。
死臭で、満ちている。
大剣を見下ろす。
4人、か。
「レジー」
驚き、振り返る。
テッドが、立っていた。
「ありがとう。おつかれ」
「……ああ」
火魔法で賊の死体が一瞬で焼き尽くされる。
炎に照らされる横顔に、特別な感情は見られない。
……コイツに、見せてしまった。
罪悪感のような感情が、沸々としていた。
次の日は特に襲われることもなく、ベイルを無事に村へと送り届けた。
ベイルが持って帰った、安っぽい衣服や食器、調理器具、薬、本、筆記用具、その他諸々に村人が集る。
明日にはすぐ村を発ち、野営をせずに王都へと戻ることになる。
ずいぶん慌ただしいが、出稼ぎの農民がこうやって帰れるだけの休みをもらえる時点で十分恵まれているらしい。
夕方頃に王都へと辿り着き、ギルドへの諸々の報告を終わらせて寮へと帰る。
既に夜になっており、ほとんどの寮生が眠る準備を始める頃になっていた。
適当に残っていた晩飯を食ってさっさと寝た。
次の日、朝起きて部屋を出た時に、寮内の雰囲気に違和感があった。
「ちょっといいか」
目の前でちょうど部屋から出てきたポールに尋ねれば、クリスが消えたらしい。
何やってんだ、アイツ……。
クリスの捜索で走り回り、そのくせ本人は何食わぬ顔で戻ってきて、管理人からえらく怒られていた。
当然だ。
その姿を見ながら、安心とともに気を紛らわせられたことに感謝しつつ、外に出ていた寮生を呼び戻しに再び走り回った。
部屋へと戻らされたクリスの後を追うように、外から帰ってきたエドが真っ先にクリスの部屋へと行くのを見送る。
そのまま自分の部屋へと入ろうとしたところで、部屋から出てきたアルと目が合う。
随分情けない顔をしてやがる。
「なあ、クリス、戻ってきたんだよな……」
「今部屋にいる、が、待て、エドが入ってる」
情けない顔のままクリスの部屋に入ろうとするのを止める。
コイツ、どんだけ心配してたっつーんだ。
「あ、ああ、そっか……」
「落ち着け」
挙動不審になっているアルにしばらく付き添い、そのままエドが部屋から出たのと入れ替わるようにしてクリスを訪ねることになった。
「おい、お前、ふざけんなよ、消えるとかバッカじゃねーの、せめて書置きの1つぐらい残せよ、どんだけお前のせいで俺らが走り回されたか分かってんの、クッソ疲れたじゃねーか、全員に頭下げる覚悟あんの」
「うん、ごめんね」
「はあ? ごめんの一言で許されると思ってんの? だったら警備隊も騎士団もいらねーよ」
ある意味いつも通りのやりとりに、特に変わった様子が無さそうなクリスを眺める。
いつも通りの笑顔に、いつも通りの口調。
今なら、なんとなく、分かるかもな。
それがお前の処世術か。
「次やったら許さねー、覚えてろよ」
「分かった、ありがとね、アル」
「知るか」
アルは相変わらず情けない顔だったが、いくらか落ち着いたようだった。
タイミングを見計らい、クリスの頭を撫でる。
「またな」
「うん、レジーもありがとう」
アルをクリスの部屋から連れ出し、互いの部屋へと戻る。
ベッドへと横になり、考える。
最近、自分のことばかりだったな。
テッド以外、全く面倒を見れてないじゃねーか。
そのテッドでさえ、俺はちゃんと見れているのだろうか。
いや、見れてないね。
今日のクリスと言い、アルと言い、きっとポールもエドも、不安定な年頃だっつーのに。
気をつけねーとな。
え? なんだって? 中二病?




