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52 遊びます

 お祭り前日まであちこち忙しく動き回った。




 やっときました、お祭り初日。いつもの5人と練り歩く。3回目ではあるけども、街を包む、この熱気。いつもと違う、この風景。自然と気持ちが高ぶるな。たくさん並ぶ露店から、鼻をくすぐる匂いや香り。ゲームに燃える客が狙うは、あの高そうな景品か。お面や雑貨に玩具やお菓子、色とりどりの品が並ぶ。思わず目移りするけども、僕の財布の紐は固い……はあ。


 気分が上がりそうで、上がらない。リズムよく情景を歌ってみても、お金がギリギリなのを考えるだけで萎えてくる。ベレフ師匠がいれば、すぐにお小遣いがもらえるのに。まさか、金欠に悩む時がくるとは思わなかった。


「あは、ねえクリス、見てよアレ。懐かしいね」


 ポールが指差す先では、ストローの刺さったオレンジが店主から客へと手渡されていた。ストローに口をつけ、吸い込み……ん? あ、種を吹いた。なるほど、あれが噂の偽物か。


「うーん、完成度が低いなあ」


「ふふ、辛口。クリスの技術が高すぎるんだよ」


「今なら高く売れそうだな」


「ええ、でも結構キツい、し……」


 いや、待てよ。高く売れるということは、稼げるということか。もしや、これは、僕の金欠が解消される、またとない機会なのか……? ここであの店主に一声かければ、僕があの命を削る魔法を披露すれば、僕の財布が膨れる……?


「あっははは! すっげえ考えてる! おーい、帰ってこーい!」


「やめろ馬鹿。クリス、大丈夫だからそんなに心配すんな」


「……うん、ありがと、レジー」


 テッドに頬をペチペチ叩かれ、それを止めたレジーにくしゃっと頭を撫でられる。さすが、頼りになるぅ! どこまでもついていきやすぜ、アニキィ!


「ぷっくく、仕方ねえなあ、何か欲しいもんがあったら言えよお? その分返してもらうけど」


 出た。このイラつく笑顔。お金の量で勝ったぐらいでよくそこまで見下してこれるな。くそ、アルにだけは借りを作りたくない。ていうかなんでそんなにお金に余裕があるんだ。うらやましい。めんどくせえ。アルうらやまめんどくせえ。




「なあ、あれ……」


 立ち止まったテッドの視線の先には……輪投げ? 棒が何本も並び、それぞれに景品であろう雑貨や玩具なども一緒に置かれている。今まさに遊んでいる客を観察してみる。棒も輪も、小さい。難しそう。ていうか、下手だな。全然入ってないじゃん。あんなに上手くいかないものなのか。本人も複雑な顔をしている。


「すごくね? 景品、武器じゃん」


 あ、そっちね。武器、って、あ、あれか。あれは……手に付ける、えーっと、ナックルダスター、だっけ。他の景品よりも少し離れた高台に置かれ、かなり目立ってる。きっと、目玉なんだろう。遠目でよく見えないけど、あの金属光沢、質がよさそう。たぶん。


 結局何も手に入らず、数人の連れと立ち去ろうとしている客を改めて見る。もしかして、冒険者だろうか。大人だし、男だし、物理で殴るのが似合いそうな、引き締まった体をしている。その割には投げるの下手だったな。


「へえ、太っ腹じゃねえか」


「ん~、欲しい! ちょっとやってくる!」


 テッドが露店へと走り出し、みんなでその後を追う。追いついた頃には既に説明を受け、輪を3つ受け取っていた。うん? この輪、光ってる……?


「不正防止に特殊加工してんだって」


 僕の視線に気づいてテッドが説明してくれる。魔力石を使って作った輪らしく、魔法の効果を打ち消すらしい。そのため、風魔法による軌道修正や補助魔法による身体強化などが無効化されるそうだ。魔力石をこんなふうに使うだなんて、斬新。お金かかってそう。エドが興味深そうに見てる。


「自前の運動能力が試されるってことか」


「へえ、面白そう」


「おいおい、運動音痴がバレるぞ?」


「へへん、見てろ、これが俺の実力、だ!」


 テッドが輪を投げる、が、奥にあるナックルダスターには届かず、少し手前の、景品が並んでいない場所に落ちる。レジーが向きは合ってたな、とフォローする。アルが嬉しそうに笑ってる。テッドはそんな周りを気にもとめず、首を傾げている。


「どしたの?」


「んー……。これ、全然イメージ通りにいかない。違和感ヤバい」


「おや? テッド君、あの威勢の良さはどこへ? もしや、運動音痴かい?」


 うっせ、とテッドがアルを小突く。エドが残りの輪のうち1つを手に取り、まじまじと見ている。その様子をポールが覗いてる。いや、気持ちは分かるけど、今は輪じゃなくてテッドを気にしようよ。僕を間に挟んで何やってんの。


 もう少し強め、と呟いたテッドが2つ目の輪を投げる。今度は距離はいい感じだったけど、向きがズレた。棒の左側に輪が落ちる。いつもの笑顔が引っ込んで、眉間に皺を寄せるテッド。惜しいな、と呟くレジー。晴れやかな笑顔で肩を叩くアル。また小突かれるぞ、懲りないヤツだな。


「すっげー、変。気持ち悪ィ……」


 テッドが右腕を擦る。そんなに違和感が酷いのか。少し気になってきた。最後の輪を未だに手放さないエドから輪を受け取ろうと右手を伸ばし、指先が輪に触――



「クリス? ねえ、クリス、大丈夫?」


 あれ? ポールに支えられてる? なんで? え? 力が入らないぞ? フラフラする……? えっと、輪に触れただけ、だよな……?


「どうした」


「クリスが急にフラついて……」


「はあ? おい、しっかりしろよ。女か」


 うるさい、僕は男だ。すぐに僕の傍に来て肩を支えてくれて、かと思えばふざけた事を言うアルに、言い返すことすらできない。どうなってんだ……。



 幸い、すぐに感覚が戻ってきた。直接触れたと思われる右腕は相変わらず力無く垂れ下がってるけど、脚の方は自力で立てるまで回復した。若干呂律の回ってない、ごめん、ありがとう、という僕の言葉に怪訝な顔をされたけど、もう大丈夫、と笑顔で言えば、やっと離れてくれた。


「本当に大丈夫か?」


 テッドに顔を覗き込まれる。笑顔で頷けば、ならいいけど、と曇った顔をしながらも僕から離れた。無理するなよ、という念押しを残して。


「……あー、エド、それ、ちょーだい」


「す、すまん」


 ずっと固まっていたエドがテッドに3つ目の輪を手渡す。


 ……どうしてこの2人は普通に持っていられるんだろう。


 右腕にじんわりと、止まっていた血液が再び流れ出すかのように、少しずつ感覚が戻ってくる。それでもまだ、力が、入らない。こんなの、投げるどころの話じゃない。右腕を左腕で抱え、最後の一投に意識を向ける。



 距離も、向きも合っていた。ただ、角度が足りなかった。棒にあたった輪は勢いよく跳ね返り、手前にあったガラス玉の棒に入る。嘘だろー、としゃがみこむテッドに、笑顔の店主がガラス玉を渡す。くそー、キレイだなー、とテッドがガラス玉を摘んで日光に晒す。まあ、うん、キレイだけど、僕が邪魔しなければ、成功してたかもな……。


「俺もやる」


 レジーがお金を払い、輪を受け取る。テッドとアルが期待に満ちた目を向ける。たぶん、片方は真っ直ぐで純粋な期待だろうけど、片方は歪んだゲスい期待だろうな。


 レジーが輪を右手に持ち、軌道をイメージするかのように何度か素振りをして、一投目。わ、結構高く投げるんだな。ゆるーく放物線を描いた輪が、ナックルダスターの元へと、真っ直ぐ、落ちた。おお?


「入りやがった……」


「うおおおお! レジ! さすが! すごい! 大好き!」


 アルが呆然と呟き、テッドが満面の笑みでレジーにじゃれつくように抱きつく。ニヤリと笑ったレジーがテッドの頭を押しのける。すごい。ていうか、レジーも平気なのか。しかも、一発で入れた。店主も驚いてる。


 その後も、僕らに何か欲しい物があるかを聞いては、それを取ってくれた。結果、テッドにはナックルダスター、エドにはハンカチ、ポールには木製のコップが渡された。すごい。みんなが欲しいのを聞くのもだけど、本当に手に入れるなんて、すごすぎる。


 最後にアルも挑戦して人形を手に入れていた。反応に困るからやめろ。

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