51 決めます
お茶会から帰った。
お菓子を食べたから夕食は控える、なんてことはない。いつも通り食べる僕を見てアルがドン引いていた。失礼な。僕は成長期なんだ。いくらでも食べれるんだ。これからどんどん伸びるんだ。今に見てろ。ていうか、それよりも。
「お祭り、行く?」
席に着いてから、いつもの5人に聞く。アル以外の4人の視線が集まる。アル、聞けよ、1人で先に食べ始めるな。腹減ってないんだろ。
「レジどーすんの?」
テッドがレジーを見上げる。愛称が短くされてる。いつの間に。でも、どっちも変わらないな。
「祭りか……」
レジーが目を細め、遠くを見て呟く。え、そんだけ?
警備とかだと俺ついて行けないし、行こーよ、祭り、と笑顔のテッドに言われ、しばらく考えた後に、じゃあ行くか、と少し笑って頷くレジー。なんか、2人の雰囲気が、生徒っていうよりも、冒険者、だな……。テッドはまだギルド員登録すらしてないのに。すごいな。勉強しろよ。
「みんなに合わせるよ」
ポールが笑顔で答える。ポールって、1つ年下のはずだよな。若干見上げながら考える。どんどん伸びてる。その成長、分けてくれないかな。じっと見つめていると、ポールが困ったように笑う。うーん、1つ年下だよな……?
「3日目でなければ」
エドのお約束の台詞だ。今年は何かあげたりするのかな。気になるな。後で聞こっと。エドが一瞬だけ僕の方を見て、すぐに目を逸らして咳払いをする。いやあ、ごめんごめん、気になっちゃって、つい。だから顔を赤くしなくていいからね。ふふ。
それにしても視線を感じる。どうしてかな。いや、分かってるけど。5人に聞いて、4人が答えた。うん、分かってる。それでも、それでも僕はこの視線の主を見たくない。見たくないんだ……!
「クリス、俺な」
くそ、名前を呼ばれた。しかも続きを言わないだと。さっさと言えよ。なんだよ、そんなに僕に聞いてもらいたいのか。めんどくせえ。アルめんどくせえ。
「俺な、3日目空いてねーわ」
「ふーん」
もんのすごいドヤ顔をしていたアルを軽くあしらう。そんな僕の態度も気にならない程に嬉しいらしく、満面の笑みを惜しげもなく見せてくれる。よかったね、はいはい、おめでとおめでと。
「お前は……いや、やっぱ後でいい」
イラつく顔で意味深な言葉を残す。わざとか? わざとなんだな? 小さく、弱く制御した風魔法を額に当てる。いてっ、と額を抑えるアルからみんなに視線を移す。
「今年も1日目にみんなで回る?」
僕の言葉に全員が頷いたのを確認して、楽しみだね、と笑ってフォークを手に取る。それを合図にみんな食事を始める。誰かさんは既に食べ終えようとしている。
さっさと食べ終えて何をするのかと思えば、それはそれは嬉しそうにモニカさんのことを話し始めた。いつどこで見て一目惚れしただとか、伝手を辿りに辿ってエリーゼさんに行きついただとか、どんな話をしただとか、お祭りを一緒に回る約束をしただとか。知らないよ。あれ、そういえば。
「エリーゼさんから最終日のパーティーに誘われてないの?」
「は? 何それ」
立食パーティーのことを軽く説明する。学校の友人を招待するものの、平民の生徒が集まらないこと。僕達3人に参加してほしいこと。おそらく今年が最後であること。説明をし終わると、アルはすぐに口を開いた。
「俺は招待されてないから知らん」
うわあ。バッサリ。僕の伝え方が悪かったのか? 僕はエリーゼさんのことを思うと割と悩んだぞ。若干引いていると、アルが真面目な顔をして、小声で尋ねてきた。
「お前、行くの?」
それは……。まだ、はっきりとはしてない、けど……。僕の表情からなんとなく察したのだろう。アルが椅子の背もたれに寄りかかり、リリも薄情だなー、普通、付き合いの長い俺を先に誘うだろー、と声を上げる。アルが空気を読んだ。珍しい。
少し感心していると、アルに肩を叩かれる。少しドヤ顔だった。どうして僕の感動をそうやって台無しにするのかな。
翌日の朝、いつも通り目を覚ましてから気づいた。夏休みだからもう少し寝てても大丈夫じゃん。とは言ってもダラダラ過ごすつもりはないから別にいいけど。着替えて、顔を洗って、キッチンへ向かう。休みというだけで、随分と静かだ。誰もいない。
鍋に水を入れて、塩漬けにされてる肉や余っていた野菜、豆なんかを適当にぶち込んで煮る。しばらく眺めてから気づく。これ、何人分だよ。まあ置いとけば誰か食べるか。
今日の予定、というか、目標を思い出す。体調は戻っただろうか。さすがに大丈夫か。1週間以上経ったし。それと、連絡は取れるだろうか。まあ大丈夫だろう。昨日の今日だし。
スープができるまでの暇な時間、硬くなったパンを弄る。サマープディング美味しかったなあ。お菓子を気軽に作れるだなんて、羨ましいなあ。予想外の出費があったし、しばらく甘い物は我慢しないとなあ。辛いなあ……。
できあがったスープに硬いパンを浸して1人でもそもそ食べる。……我慢しないといけないと思うと余計に甘味が恋しくなってきた。お金……あ、稼げばいいのか。レジーに相談しよっと。
食べ終わって食器を片付けていると、ようやく1人降りてくる。んー、彼は1年生だったかな。早起きだね、感心感心。僕より背が低いね、よしよし。スープ作りすぎちゃったから、よかったら食べて、と声をかけて部屋に戻る。ありがとうございます、と寝起きの掠れた声が返ってきた。
久しぶりに教会へやってきた。朝から熱心な信徒が教会の中へと入っていく、なんて、一緒に入ってる僕が言えた台詞じゃないな。聖堂で適当な椅子に腰かけ、鞄から教典を取り出す。どこまで読めるだろうか。
待つしかないって、連絡を取る手段が無いって、不便だな。まあ、だから朝早くから来たんだけど。
「おはようございます。珍しいですね、この時間に来られるとは」
顔を上げれば、微笑みつつも、少し驚いたような顔をしたナディムさんがいた。立ち上がって、ご無沙汰してます、と会釈する。いえ、こちらこそ、といつもの穏やかな笑顔を浮かべたナディムさんと一言二言交わし、本題に移る。
「この前の件なんですけど――」
用件を伝えて、すぐに寮へ戻る。午後から少し時間が取れるらしかったけど、断ってきた。その代わり、明日も訪れることを告げた。忙しい。まあ、お祭りが夏休みに入ってすぐだって分かってたのに、今まで返事をしなかった僕が悪いんだ。分かってる。
部屋に入ってエリーゼさんからもらった魔道具を手に取る。魔力を通して、1回、光らせる。しばらくしてから、1回、光る。それを見て、3回、光らせた。しばらくして、1回、光った。
エリーゼさんの侍女に返事を伝え、魔道具も返した頃には、昼になっていた。誰かが全員分の昼食を作ってくれたおかげで、いつでも食べられる。ありがたい。
食堂を見回す。エドとポールがいる。レジーとテッドは外かも。アルは部屋かな。部屋に戻るついでに確認しよう。階段を上がろうとしたところで、寝癖をつけたアルが欠伸をしながら降りてきた。もしかして、ずっと寝てたのか。
「礼服、午後から返しに行くよ」
あいよ、と気怠そうに返事をしたアルを見送り、階段をのぼる。服を返して、それから……。ああ、お金が無くなる。




