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6 歩きます

今話もよろしくお願いします。

本日も2話投稿します。

 師匠との旅が始まった。




 またベレフ師匠が1人でどこかへ行くのかと思ったら、今度は僕も一緒に行こうとか言うし、剣の修行をどうするのかと聞けば、ジュディさんに護衛として一緒に来てもらえばいいとか言うし、この家をほっとくのかと聞けば、清掃婦さんを雇えばいいとか言うし、つまり師匠の中で僕の同行は決定事項のようだった。


 目的地はとても大きな街で、僕がいつも行く街よりもたくさん人がいて、たくさん建物があって、食べ物とか玩具もたくさん種類があるらしくて、行けば絶対に楽しいらしいけど、別に僕は興味無いし、行かなくていいんだけどなあ、と思いつつ、それよりも初めての旅というものに正直言ってかなり興奮していた。


 旅の道中はかなり危険で、野生動物はもちろん魔物にも、さらには人間にさえ気をつけなければならないらしく、ベレフ師匠は絶対に僕を守るとは言ってくれたけど、僕の実力がどれほどのものなのかを知りたい、つまりあからさまな敵に思いっきりやり返してみたくて、誰か襲ってこないかなあ、なんて思ってた。


 そんな僕の期待を知ってか知らずか、特に襲われることもなく、何か問題があるとすれば、初めての旅だからか随分と疲れやすく、しかも僕の脚がずきずきと痛むことで、ベレフ師匠は、慣れないことだし成長期だからしかたないよね、と言ってずいぶんゆっくりと進んでくれた。


 それにしても情けないし、痛いし、こんな状態で襲われたくないし、野営のテントの中で師匠がいない時にぽろぽろと泣いてしまった。



 あってないような予定よりもだいぶ遅れて目的地に到着して、興味無い、なんて思っていたけど、外壁門を潜った先の街並みが、僕の知っている街とは全く違った。


 しばらく立ち止まってきょろきょろと周りを見回したり、口をぽかんと開けていたり、かなり情けない姿をしていたけど、ベレフ師匠はそんな僕を嬉しそうににこにこと眺めていた。


 ジュディさんは宿に、僕とベレフ師匠は別のところに泊まるらしく、師匠に手をひかれるままに街並みを抜けて、一際大きな立派な建物へと入り、いろんな人に師匠が挨拶をしたり、何かを見せたり、僕を紹介したりするのを適当にやりすごし、そのまま階段を上がったり、廊下を曲がったりして、魔物生態学研究室、と書かれた扉の前にたどりついた。


「クリス君、ここは私の研究室なんだ」


 真面目な顔で扉を見つめているベレフ師匠には悪いけど、そうなんだろうなあ、って思ってたし、ベレフ師匠が真面目な顔をしているということは、きっとどうでもいいことを言うんだろうなあ、とも思っているし、さっさと扉を開ければいいのになあ、なんて考えていた。


「2年ぶりにこの部屋に入るんだ」


 2年ぶりということは、前回急に消えた時に、ここに来ていたということだろうか。どうせベレフ師匠のことだから、いろんな本とか資料を読んだり書いたりして、手紙なんかもそこらじゅうに開いたまま投げ出して、挙句の果てには、綺麗なのか汚いのか分からないような服が山盛りに積んであって、ゴミも一緒にしているんだろう。


「とりあえず入りましょうよ」


「うん、そうなんだけどね、ちょっと待っててほしいんだ、片づけないといけないからね」


 やっぱり信じられないほどの汚さなんだろう、もしかしたら片づいていないんじゃなくて、汚れているのかもしれない。そうすると匂いだってすごいだろうし、見た目だって大変なことになっているんだろう、ベレフ師匠は相変わらずだなあ。


「2人でやればすぐ終わりますよ」


「うん、分かってるけどね、ほら、何があるか分からないから」


 ここまで僕を待たせようとするとは、いったいこの扉の先には何が待っているというのだろうか。もしかしていろんな小さな生き物達の巣窟にでもなっているのだろうか、確かに僕は虫を見れば気持ち悪いと思うし、顔を顰めてしまうだろうけど、別に死ぬほど苦手な訳じゃないのに、何を気にしているんだろう。


「今更何を見たって驚きませんよ」


「う、うん、そうだね、でもね、お願いだから待っててくれるかな」


 ベレフ師匠にしては珍しく強張った顔で、口ではお願いしつつも、絶対に入ってくるな、という意思が感じられる強い言い方で、肩をがっしりと掴み、僕と目線の高さを合わせて、目を逸らしたくなるほどの目力でこちらを見られては、さすがに気まずい。


 そこまでして僕を待たせなければならないだなんて、いったいどんな世界がこの扉の先に広がっているというのだろうか、気にするなと言う方が無理だ。でもしかたないよね、待たなきゃね。


 早く終わらせてくださいよ、と言って扉の前から一歩引けば、あからさまにベレフ師匠がほっとした顔をして、ますます気になる。


 鍵を使って扉を開き、といっても師匠がすべりこめれる程度にしか開けずに、さっさと中に入って閉めた扉から、がちゃん、と音がする。もしかして僕は閉め出されたのだろうか。


 試しに扉を開こうとすると、やはりというか鍵がかかっていて、そんなに僕は信用できないかなあ、と悲しいような悔しいような気持ちになって、それならばいっそのことこの鍵を無理矢理にでも開けてやろう、だなんて思ってしまうのもしかたのないことだと思うんだ。


 どうすれば鍵を開けられるだろうか。外側、つまり僕側から開けるにはこの錠に対応した鍵をつくり出すか、壊すかぐらいしか思いつかないし、内側、つまりベレフ師匠側からなら鍵がなくても開けられるだろうけど、どういった造りで鍵をかけたかが分からないから、今すぐにはどうしようもない。


 とりあえず風魔法で扉の隙間から様子を窺ってみようかな、と扉に手を当てた時だった。


「クリス君、バレてないと思ってるの」


 いつの間にか開いていた扉から覗くベレフ師匠の顔に思いっきり唐辛子カプセルを投げつけた。

ありがとうございました。次話もよろしくお願いします。

わんわんおのいないわんわんタイムなんて

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