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42 訪れます

 教会に来ている。




 授業が始まってから半月、ようやく謹慎期間が終わった。謹慎期間中にやらかすと追加の処分は重くなる、というのを身をもって理解した。次からはちゃんと気をつけよう。


 放課後に自由に歩き回れるとなれば、真っ先に思いついた行き先は教会だった。というのも、セルマさんにまた行くと言ってから3週間近くも経ってしまった、というのが理由の1つ。そして、相談という名目でエドからいろいろ話を聞いてみて考えた結果、セルマさんにまた会いたいと思ったのがもう1つの理由だ。



 エドの後ろめたい気持ちを利用したようで悪いけど、幼馴染さんとのことをたくさん聞いた。エドのお父さんが商会を経営していること。親同士が旧知の間柄である取引先に同い年の娘さんがいること。商談の度に遊んでいたこと。次に会える時が楽しみで仕方なかったこと。


 どんどん綺麗になる姿に照れてつい素っ気無い態度を取ったこと。知らない男の子と話しているのを見てカッとなったこと。詰問して泣かせてしまったこと。逃げる幼馴染さんを抱きしめて謝ったこと……。


 去年の夏休み、お祭りの最終日に一緒に花火を見る約束をして……。まあ、事件のせいで台無しだったけど、怯える幼馴染さんと避難して安心させて、最後に手づくりのアクセサリーを、イヤリングをプレゼントしたこと。


 使った素材は何てことないシルバーのチェーンやガラスだし、ガラスのカットだってまだまだ上手くないけど、幼馴染さんは喜んでくれて、エドがそれをつけてあげて、幼馴染さんのオレンジ色の髪の中で揺れるガラスが月明かりにキラキラと輝いて……って話すエドのあの優しい顔、何度思い出しても僕が照れる。


 何日かに分けて何度も聞きに行って、イヤリングのお礼でもらったというイヤーカフも見せてもらった。実際に付けてもらうと、エドが一瞬でガラの悪い男になって驚いた。かと思えば、恥ずかしそうに耳を赤くして俯いていたりもして、ほっこりした。


 何故かついでにレジーも一緒に聞いてたけど、表情が全く変わらないし反応もしない。試しにレジーにそういう経験が無いか聞いてみたら、遠い目で、ガキ共にはモテてたがな、と言ったきりだった。レジーが少し心配になった。



 いろいろ聞いてみて思ったのは、会っている時、会っていない時、会う回数を重ねていった時、その時々でいろんな感情があるのだ、ということ。相手の言動1つでその感情が掻き乱されるのだ、ということ。何より、そういった諸々を全て合わせてとても幸せなのだ、ということ。


 僕はセルマさんに対してそういう感情があるのだろうか。会いたいか会いたくないかで言えば確かに会いたい。でもエドほどに強い気持ちだとは思えない。まだ2回しか会っていないからだろうか。とりあえず会ってみれば何か分かるかもしれない。



 そういう訳で、謹慎期間が終わったその日の放課後、教会に来てみた。まだ日が昇っている、明るい時間帯に見た教会は、大きいの一言で済ましていいものではなかった。


 白地の規則的に並ぶ石壁は周囲と明らかに異なる雰囲気を醸し出している。教会正面に精緻な彫刻で装飾された扉、その真上にある一際大きな窓が日の光を受けて輝き、左右に一対の塔を携えている。そのまま奥へと続く教会の背後には無骨な王都の外壁、そして連なる猛々しい山々へと自然と視線が誘導され、その一体感が教会そのもの以上の存在感となって圧倒してくる。


 一度、トッシュさんと見たはずなのに、2年前はここまで圧倒されなかったな。しばらく教会の前で立ち尽くしていた。どうして2年前の僕は興味を持たなかったのだろう。もったいない。


 扉を潜れば、玄関、という表現は正しくないんだろうけど、正面から見えていた一際大きな窓から差し込んだ光で照らされたスペースが広がっている。そこからさらに奥の回廊へと続く扉が開かれている。


 ふと見上げてみれば、天井がとても高い。柱や壁にまで意匠を凝らしているのが分かる。外からでは日の光を反射していただけに見えたあの大きな窓は、中から見れば色とりどりに輝いており、これがステンドグラスか、と見とれてしまう。


 床の大理石は窓からの光でその幾何学模様を怪しく浮き上がらせている。その模様が続いている奥の回廊への扉を潜れば、左右に分かれてたくさんの長椅子が並べられ、その最奥にセルマさんが洗礼の儀をしてくれた彫像と祭壇が、ステンドグラスに囲まれて色とりどりに照らされながらひっそりと佇んでいる。


 ぽつぽつと長椅子に座っている人達の横を通りすぎ、奥へ奥へと進みながら内装をまじまじと見る。回廊も天井までが非常に高く、いくつもの柱とステンドグラスが奥まで続いている。最奥にある彫像がよく見えるところで長椅子に座る。浮世離れした空気に当てられたのか、しばらく呆然としていた。


 長椅子が置かれている回廊と祭壇の間にはスペースが設けられ、より一層高い天井と大きなステンドグラスが日の光をこれでもかと教会内へ取り込んでいる。モザイク状の、カラフルな空が、刻一刻と変わる日の光と共に、様々な表情を見せる。


「いかがいたしましたか」


 声をかけられ、はっとして視線を下ろす。白いローブに身を包んだ壮年の男性が穏やかな笑顔で手を組んで立っている。教会とは声をかけられるものなのだろうか。それともあまりにも僕が怪しすぎて声をかけざるを得なかったのだろうか。慌てて居住まいを正して口を開く。


「あ、すいません、ステンドグラスに見とれてしまって……」


 僕の返答を聞いた男性がより笑みを深め、なるほど、そうでしょう、と鷹揚に頷く。


「ここは最も神に近い地と言われていますからね。畏れ多いことですが、神の御許で、より主に近い場所でのお導きを願い、天上からの恵みをより多くお受けできるよう建てられたのが、この教会ですので」


 確かに、ここのステンドグラスは数も大きさもすごい。夕方になってだいぶ日が傾いているはずなのに、魔道具の灯りが一切無くても教会内はこの明るさだ。そういえば夜でも月の明かりだけで十分見えていたし、本当にすごいな、と改めてステンドグラスを見上げる。


「より正確に言えば、教会の奥に見えるあの山の頂が最も神に近い地なのですがね。主がかつて下界に降り立ち、光を、大地を、水を、命を創り、そして再び天上へとお帰りになられる時、あの山頂から帰られたのです。その時に――」


 あれ、なんか話し始めたぞ。えっと、これは、神話? 神話が始まった? このタイミングで? ええ、そんな、そうなっちゃうのか……。

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