5 頑張ります
今話もよろしくお願いします。
わんわんおじゃなくてもわんわんタイムです。本日2話目の投稿です。
師匠との生活が始まった。
師匠は去年のように出会いの季節だ!なんて言いつつも突然消えたりはせず、その代わりに森を隅々まで調査しているようだった。時々家で街の偉い人と話すこともあるし、シロとクロが森のどういったところに、どれだけ影響を与えたのか、与えなかったのか、いろいろと聞くことになった。
今まで師匠の修行方針は習うより慣れよで、次から次へと僕に魔法を教えるだけ教えてそれで終わり、だったんだけど、その結果、使えても雑だったり我流になってたりと、僕には基本的な知識が無いからこその、たくさん小さな問題点を抱えていた。
それが僕の魔法の拙さだけでなく、シロとクロが魔物であることに気づかなかったり、それどころか立派に成長させて、すっごく強くしてしまったのかもしれないなあ、と思うと、その尻ぬぐいをしている師匠に申し訳なかったから、それからは真面目に勉強をすることにした。
思えば、師匠が読んだり書いてたりしていた魔術書を速読していたのは、片づけるのに内容ごとに分類する分には役立っていたけど、その内容は全く理解できてなかったんだなあ、なんてことにもようやく気づいたし、師匠が僕に与えた修行の内容だって、勉強してその意味が分かれば、ずいぶんと効率的にできるようになった。
勉強をすればするほど、今までなあなあにしてたことが分かるから、ついつい勉強に熱が入っちゃって、そのうち本が置いてある師匠の部屋に入り浸るようになって、初めは師匠も無理しないようにね、とか、お茶淹れたから少し休憩しなさい、とか言って心配してくれていた。
最近は、私のプライバシーが侵害されているなあ、とか、師弟の距離が急接近で恥ずかしいね、とか言ってたけど、僕はおっさんじゃなくて魔法に興味があるんだけどなあ、なんて思いながらも、いつの間にか師匠の部屋で寝てしまったり、次の日はかなり寝坊してしまったり、その原因が防音の魔法と知ってからは魔法の解除に全力で取り組んだりと、それまでに比べると魔法使いとしては随分と中身のある日々を過ごしていた。
僕が勉強に没頭すればするほど、師匠が家事をするようになってて、その時は、師匠も気が利くなあ、なんて考えていたけど、後から考えてみて、師匠は犬家族を失った僕のことを気遣って、とても優しくしてくれていて、僕は無意識のうちに全力で甘えてたんだなあ、と気づいたときにはものすごく恥ずかしかった。
そのことで師匠にお礼を言った時なんて、クリス君が年相応に可愛かったからいいんだよ、なんていつもは言わないような僕を揶揄うようなことを言ってきて、師匠にしては珍しく照れ隠しってやつをしているのかなあ、なんて考えたら、そのせいで余計に恥ずかしくなってしまった。
季節はさらにもう一巡し、春になった。
勉強をするようになった僕は、一人前の魔法使いとして扱ってもいいかな、ぐらいには成長できたみたいで、師匠から教えられるだけではなくて、助手みたいなことをできるようにまでなった。
そこで師匠の名前が本当にベレフコルニクスだということ、おっさんと呼ぶにはまだ早い20代だったこと、どこかの研究所に知り合いがたくさんいることとかを知ったけど、つまり師匠はわりと偉い人だったみたいで、どうして僕を弟子にしたのかなあ、なんて思ったけど聞かないことにした。
この1年で僕の身長は少しずつではあるもののちゃんと伸びていて、師匠との身長差をじわりじわりと狭めているし、今まで持ち上げられなかった重い荷物だって持ち上げれるようになったし、魔法の実力だって少し認めてもらえたし、嬉しくなった僕はあっという間に調子に乗った。
まだシロとクロのことは忘れていなかったし、いつかケジメをつけるのは、シロとクロを殺すのは僕だと思い、魔法だけで勝つのは難しいと思って、ならば剣を使えるようになろう、と思って、街でこっそり剣を買った。
剣の腕を磨くために、森に狩りに行くときは魔法ではなくて剣で仕留めよう、と思ったけど、ウサギや鳥が近寄るまで待ってくれるわけがないし、今まで一度も握ったことのない剣を思い通りに振れるわけがなかった。
結局その日の僕はボロボロだし、いつもより仕留めた数が少ないし、コソコソと部屋に入っていくしと、怪しい態度をとったからか、夕食のときに師匠が無理しないようにね、って一言言って、それ以外は特に何も言わなかった。何に気づいたのか、それとも気づいてないのか、全く分からなくて心臓が爆発するかと思った。
次の日も一応剣を片手に森に行ってみると、たまたま出会ったハンターが、剣だけで鳥から猪まで、いろんな野生動物を仕留めていて、思わず弟子にしてください!って駆け寄って頭を90度下げてしまった。
あまりにもタイミングが良すぎるし、どう考えてもベレフ師匠が根回ししてるし、快諾してくれてまさかの2人目の師匠だし、そういったことをちっとも考えずに嬉々として師匠に報告しちゃうし、やっぱり僕は子供だった。
剣の師匠は女の人で、ジュディさん。赤毛が印象的なショートヘアで、僕よりも背は高いけど、成人女性としては小柄で、決して剣を扱うのに恵まれた体格とは言えず、手数とか技術とかでそのあたりを補った戦い方をする。
たしかに魔法使いは非力だから、こういう剣の扱い方がいいんだろうなあ、と思う一方で、僕はまだ小さくても男だし、補助魔法で筋力を増強できるし、男の人に頼めばよかったかなあ、なんて失礼なことを考えてもみた。
だけど今の時点でジュディさんに全く筋力が及んでいないことを、毎日これでもかってぐらいに思い知らされて、調子に乗っていた僕はもう調子に乗るのはやめようと思った。
剣の修行が始まってまだ間もないころ、筋肉痛と手にできたマメにひいひい言いながらベレフ師匠と朝食を食べていると、にこにことうさんくさい笑顔を浮かべていた師匠に気づいて顔を上げた僕に向かって、師匠が楽しそうに声を上げた。
「クリス君!出会いの季節だよ!」
僕は唐辛子カプセルをそっとベレフ師匠のスープに浮かべた。
ありがとうございました。本日の投稿は以上です。
わんわんおどこー!