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40 騒ぎます

ツーわんデーです。

ところがどっこい、通常の投稿です。

 食堂で寮生達が狂喜乱舞している。




 それからは質問攻めだった。見た目、性格、声、会話の内容、胸の大きさ……。分厚いローブの上から見て分かる訳が無いのに、まあワンピース姿を見たから分かるっちゃ分かるけど、それを話す訳にはいかない。情報を一通り提供した後は、聖女様とは何なのかを、それはそれは詳しく教えてもらった。


 どうやら今年になって教会から明かされた存在らしく、神から深い寵愛を受けているとか何とか。僕が会った日のように、街中を巡回して困っている人や貧しい人に手を差し伸べているそうだ。といっても、喧嘩であればそれを仲裁するとか、怪我であればそれを治療するとか、悩みがあればそれを聞くとか、その程度らしい。


 教会の権力を使って問題を解決する訳ではない。1人の聖職者として、ただ、手を差し伸べ、耳を傾け、心に寄り添い、神の愛を説く。教会への奉仕や献金を強要する訳ではない。1人の聖女として、ただ、その身に与えられた神の寵愛を人々へと広く分け与える。


 それにこの可愛さ、まさに聖女様、と詳しく語ってくれている寮生がセルマさんを描いたと思われる絵画を取り出す。まじまじと見ながら、常に持ち歩いているのだろうか、それにしても若干美化されてないか、ていうか神の寵愛ってただの魔力だよな、等々口に出せば怒られそうなことを考えていると、アルが僕の名前を呼ぶ。


「聖女様はな、神様に身を捧げた人だ」


 何を突然語り始めてるんだ。そりゃ、聖職者ならそうなんだろう。それがどうかしたのか。アルの顔をよく見れば、どこか憐れんでいるような、嬉しそうな、つまり僕に突っかかってくる時によくしている少しイラつく顔だった。


「好きになっても……無駄、だぞ」


 はあ?


「それにしてもクリスも男だったか……。全く女の子に興味持たねーから安心、いや、心配してたが……」


「ねえ」


 何を勘違いしているのか。どんどん嬉しそうな、イラつく顔になっている。隠しきれてないぞ。いや、隠す気がないのか。しかも僕が呼びかけたのに気づいてないな。それともわざと無視してるのか。めんどくせえ。アルめんどくせえ。


「よりによって聖女様か……。叶わぬ恋、ね。ぷっくく、ふうん、そうかいそうかい」


「おい」


「どうやら大人になるのは俺の方が早……ッ?! い、や、やめ! ごめん、ごめんって!!」


 アルの形をした綺麗な火柱が出来上がる。火魔法だけではなく、周囲とアル自身を燃やさないように風魔法も使わなければならないのでとても難しい。風、火、風の三層を薄く、広く、アルの周囲に展開し続ける。アルの動きに合わせて火柱が揺れる、揺れる、揺れる。そこで頭を殴られて魔法が解けた。痛い……。


「やりすぎだ」


 振り返ればレジーが腕を組んで僕達を見下ろしていた。気づけば僕とアルとレジーを中心に、寮生達がだいぶ離れたところで人垣を作っていた。セルマさんの絵画を見せてくれた寮生もちゃんと避難している。ああ、寮で、しかもよりによって謹慎中に攻撃魔法を使うだなんて、僕らしくもない。やってしまった。


「くそ、そうだぞ! 図星だからって! 脱童てッグ、ウオエェ……ッ?!」


 テッドがすごい勢いで飛んできた。綺麗な飛び蹴りがアルの腹部に突き刺さって、そのまま椅子ごとブッ飛んでいく。2人がゴロゴロ転がっていき、アルが蹲って震えている隣でテッドが飛び起きる。言わせねーよ! と満面の笑みと謎のポーズでアルを指さす。


 蹲ったまま呻いているアルとうひゃひゃと笑うテッドを呆然と見る。後ろから、馬鹿と阿保が、と呟く声が聞こえる。しばらくしてエドがテッドを背後から拘束し、ポールがアルの背中を擦る。これだけ騒いでもおじさま管理人が来る気配は無い。ひとまず僕は助かった……かな。


「げほっ、くそお、何だよ、ひでーよ、エドだって彼女いんだろ、ちくしょう……」


 エドの片眉がぴくりと上がる。人垣がざわつき始める。テッドがするりと拘束から抜け出して僕達の方に来る。この状況でも笑ってる。すごいな、テッド。それにしてもアルはどうしてこのタイミングでそんなことを言うのかな……。


「エドが言ったんだろ、クリスが聖女様に見とれてたって、エドが……。え……?」


 あー、エド、そんなことを……。まあ、しかたないよね。実習を機に僕がおかしくなったんだから、そりゃ何があったか聞かれるに決まってる。本当のことを、男のことを言う訳にはいかない。でも嘘を言う訳にもいかない。そしたら自然とセルマさんのことになる、のかな。


 それにしても、エド、怒ってるのかな。きっと怒ってるよね。ゆっくりとアルに歩み寄るその表情の冷たさ、トッシュさんには負けてるけどなかなか怖いよ。彼女さん、いや、幼馴染さんのことは秘密だもんね。去年の夏から少しずつ、だもんね。ところで、これ以上、みんな、魔法を使うのは、やめた方が……。


「あれ? ちょっと待って、え、なんで? 俺、怒らすこと言った? あ、ポール、待って、あれ?」


 パキパキパキ、と蹲っていたアルの両手首と両足首の周りが輝いている。エドは土魔法が得意なんだよね、とぼんやり眺める。きっと寮中の砂が今この場に集まって結晶化しているんだろう。ポールが困ったように笑ってエドの後ろに移動している。可哀想なアル。しかたないけど。


「あ、ごめん、エド、ほんと、ごめん、悪かった、だから、ちょ、ま、誰か! 助けてッ!!」


 エドがアルの前にしゃがみこみ、黒く、鋭く尖った針をゆっくりとアルの目に近づけ始めたところで、ようやくレジーが動き出す。補助魔法による身体強化のおかげでかなり動きが速い。


 同じ身体強化で速くしていても、軽いテッドに対して、レジーは重い。メキ、と床の沈む音、ぶわ、と感じる風圧、バリン、とアルの手枷と足枷が壊れる音、バキ、と針が握りつぶされる音、最後にカシャン、と眼鏡が転がる音がほぼ同時に耳朶を掠める。


「阿保の相手してんじゃねーよ」


 針があったところにレジーの握りこぶしがある。ヤンキー座りでガン飛ばしてる。本人にそのつもりは無いだろうけど、随分と様になってる。目を見開いていたエドが視線と肩を落として、手を擦りながら申し訳なさそうに口を開く。


「……すまん」


「え、阿保って、俺のこと……?」


 喧嘩、ってほどじゃないけど、久しぶりに騒いだな、と感慨深く眺める。ぽん、と肩に手を置かれ、驚いて体ごと振り返れば、笑顔で青筋を立てたおじさま管理人が立っていた。


「クリス君、説明してね」


 そうなりますか。

明日は今日の代わりに7つ目の挿話を投稿します。

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