35 売ります
今話もよろしくお願いします。
梅雨休み、マーケティングの実習が始まる。
前期は2か月授業を行って、2週間程度の梅雨休み、そして2か月授業を行って夏休みに入る。マーケティングの授業は先の2か月で基礎を学び、梅雨休みで実習、後の2か月で応用を学ぶ、という前期をまるまる使った授業内容になるらしい。
実習で露店を開くのは王都の北東、中央寄りにある中等部からさらに北東に進んだところにある図書館までの通りだ。東西南北の大通りに比べれば人の往来は少ないし通りの幅も距離も短いけど、毎年授業の一環で行われるこの実習を楽しみにしているコアなファンがそれなりにいるおかげで毎年盛り上がるそうだ。
僕は入っていないけど、学校の部活やクラブがこの授業の盛り上がりに便乗して新入部員による発表をするのも大きいのだろう。授業にも部活にもクラブにも、何も関係の無い先生まで露店等を開いているらしい。自由すぎる。
実習は3日間行われる。前もって申請して設置してもらった簡易店舗へ早朝から果物や調理器具を持ち込んだり、受付や調理場等の確認や準備しているが、天気があまり良くない。初日から雨の中の営業になりそうだ。
梅雨休みという名前の通り、この時期は雨が降りやすい。といっても、雨が霧のようになって街並みがぼんやりと霞み、しっとりとした空気でいつの間にかじんわりと湿っているような、よっぽど気にする人でなければコートやローブを羽織って普通に外を出歩く程度の雨だ。
粗方準備が終われば、果物が詰め込まれた保冷容器を魔法でガンガンに冷やす。普通なら魔道具を使うところだけど、屋外用の冷蔵倉庫はかなりお高い。やはり黒字になるように販売計画を立てる必要があるので、魔法の扱いが上手い僕をフル活用することにしたらしい。僕の労働と賃金は見合っているのだろうか。
僕の仕事は果物を冷やすだけじゃなくてジュースを作ることも含まれている。が、そもそも、皮はそのまま、果肉を絞る、なんて簡単に言ってくれるけど、それがどれだけ難しく、そしてできるようになるまでに僕がどれだけの果物を消費したと思っているのか。美味しかったからいいけど。
小型のナイフを埋め込み、果実の大きさに合わせてナイフに魔力を纏わせて回転させ、さらには種や薄皮等も取り出す、って要求されるレベルが高すぎる。僕がどれだけ不器用だったかを思い知らされた。間違いなく魔力制御の精度が恐ろしく向上しているだろう。この苦労の成果を誰かにぶつけたい。
「クリス、大変だと思うけど頑張ろうね」
沸々と怒りを湧き上がらせていると、背後から声をかけられる。振り返れば、いつもの学校の制服ではなく、白いシャツに腰から膝上までの黒のサロンエプロンを身につけたポールがいる。僕も白シャツ黒サロンで、ズボンは自由だけど、7人ともお揃いの格好をしている。
ポールまで当日も馬車馬のように働かせるなんて、同級生を容赦なくこき使うあの5人組が少し恨めしい。確かに、ポールは年下で小柄なところや、灰青の明るい髪色はどことなく品があって目立つし、客引きにはぴったりだろう。でも、ポールの労働と賃金は見合っているのだろうか。
僕は強制的に1日中働きづめなのに、あの5人は交替で休憩を取れるのかと思うと……。憎い……!
着々と憎しみを募らせていると、腕をつんつんと突かれる。はっとして顔を上げれば、ポールが苦笑しながら僕の顔を覗き込んでいた。初日の、しかも朝から僕はなんて黒い感情を滾らせているんだ、危ない危ない。
「ポール、無理しないで、ちゃんと休んでね」
「うん、ありがとう、でもそれってそのままクリスにも言えることだよ」
ですよね。
実習開始早々、てんやわんやになっている。
受付にポールとエドともう1人いるとは思っていたけど、残りの3人はどうやら宣伝をして回っていたらしい。試しに作ってみてほしいと言われてグレープフルーツ、オレンジ、メロンの3つを作った時に、てっきり遊びに行っていたのかと思っていた。
勘違いに少し申し訳なく思いながらも、3人が連れてきた初めてのお客さん達に、僕も少し嬉しくなって実演販売のようなことをしてみせてあげたら、随分と喜ばれた。見た目も調理法も斬新なので計画の段階からウケるだろうとは思っていたけど、実際に反応を目の当たりにすればそれまでの黒い感情も吹っ飛んだ。
それを近くで見ていた人達も買ってくれたり、買わなくても実演しているところを楽しそうに見てくれたり、3人が宣伝しなくても自然と人が集まるようになった。そうなると暇になった3人は遊びに行く訳でもなく、果物の皮に注文した人の名前や一言メッセージを書いたり、イラストなんかを描きだして、それがまた上手くてさらにウケた。
といってもそれができるのはグレープフルーツとオレンジだけなので、スイカとメロンを注文した人にも何かしてあげたいな、と思った僕はついついフルーツカービングの真似事をしてしまった。魔法で飛び回るナイフと出来上がる模様やイラストが、集まっていた人達にますますウケた。
次第にリクエストに応える形で書いたり描いたり彫ったりしていたら、長蛇の列が出来上がっていた。行列の整理にポールは動き回って声を張り上げて、受付のエドともう1人は次から次へと注文を聞いてお金を受け取って、終わりの見えない注文に合わせて3人が書いたり描いて、僕が彫って絞って渡し続けた。
結果、初日に用意していた果物は開始から2時間で完売した。実習は11時から16時までの5時間の予定だったのに、脅威の売れ行き、大黒字だ。
僕らの体力と魔力は尽きた。
ありがとうございました。
ス○バってメッセージ書いてくれるって本当ですか。都市伝説じゃないですか。近所にスタ○なんてありませんよ。




