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episode 6 : Edwin

今話もよろしくお願いします。

わんわんデーですよ? わんタイムですけど投稿しますよ? わんわんタイムにもまだ投稿しますよ?

緑黒髪ショートヘア眼鏡の不愛想年上エドウィン!

 認めさせてみせる。



 父は商会の会長だ。

 商会、と言えば聞こえはいいが、商品を仕入れて売っていればそれは商会だ。何を扱っているか、どれだけの規模か、といったことは関係無い。

 父の商会だって、初めは小さかった。



 祖父が古着屋だった。

 古着だけでなく、装飾品、バッグ、雑貨等、布や革でできている物なら何でも取り扱っていた。

 父の兄、俺の叔父は長男だったが、店は継がなかった。古い物を直して使い続けるよりも新しい物を一から作る方が好きだったようだ。

 叔父は仕立屋を開業した。

 次男である父が祖父の店を継いだ。


 祖父は明るい人で、話し上手だった。

 常に店先に立ち、通行人に声を掛け、糸の解れを見つけてはすぐに直してしまう人だったらしい。そんな祖父の人柄に惹かれ集まった常連客で常に賑わっていた。

 裕福ではなかったが、笑い声の絶えない暮らしだった。


 父は祖母に似て寡黙な人だ。

 祖父のように誰彼構わず声を掛けるようなことはない。それでも客1人1人の話を丁寧に聞き仕事に打ち込む姿勢は祖父と違う魅力があったらしい。

 祖父と共に王都の人達の「衣」を支えていた。



 祖父が店先に出なくなり、父が1人で店を取り仕切るようになった。

 父が買い取り続けて溜まっていた古着を試しに仕立て直した。祖父が元通りに直していたのに対し、父は新しく作り直した。父が仕立て直した古着は好評だった。

 それから父の成り上がりが始まった。


 俺が思い出せる最初の記憶はこの頃だ。

 作業場で1人静かに作業台に向かう父の横顔は近づきがたかった。


 祖父が語った父の姿は、俺の知る父の姿と違う。

 祖父は父を職人だと語ったが、俺の父は商人だ。祖父は父を情に厚い人間だと語ったが、俺の父は合理的な人間だ。祖父は父を誇りに思うと語ったが、俺は父を恐れている。


 父が急速に成り上がり始めたのは祖父の死がきっかけだったように思う。

 それまで一緒だった家と店が別々になった。それまで常に自宅の作業場にいた父は常に店にいるようになった。それまで付き合いの少なかった父と叔父がよく会うようになった。



 父が珍しくも俺を店に連れて行った日、アンナと出会った。

 白い肌、オレンジ色の髪、灰色の瞳。つばの広い帽子と袖の長い上着、丈の長いスカートで白い肌は常に覆われていた。全体的に色の薄い彼女は、その儚さの割に気が強かった。


 後になって知ったが、青白いほどに白いアンナの肌は日に弱く、あまり外出できない。外出しなければ、家で家族と過ごすことになる。

 結果、友人ができない。

 思い切って外に出て近所の子供と遊ぼうにも、青白い肌と気の強い性格では難しかった。珍しい外見は揶揄いの対象となり、気の強さは揶揄いを助長させる。初等部に入学しても、変わらなかった。

 悩んだ挙句、取引相手として付き合いの長い父の息子で、同い年だった俺に白羽の矢が立った。



 古着の仲買人であるアンナの父が俺の父と商談や取引をしている間、俺とアンナは共に過ごした。アンナの母がその様子を見守っていた。アンナの性格は母親譲りなのだと分かるのにそう時間はかからなかった。


 アンナの母が仲買人であるアンナの父に古着を売ったのが2人の馴れ初めらしい。

 ちなみに古着の流通には表と裏がある。表では俺の父が一般庶民が古着を買い取り、裏ではアンナの両親が古着を回収している。それは経済的に困窮した人からであったり、盗品であったり、死者が着用していたものであったりする。そのような荒事を含む裏の流通で暗躍していたのがアンナの母だった。

 当時の俺はそんなことは全く知らなかった。


 冒険者あがりで夫の護衛をしていた彼女は、それはそれは気が強かった。

 日焼けした肌、黒茶の瞳、日光に透かすと赤く燃える黒茶の髪。頭皮に沿って編み上げられた髪は、アンナいわくサイドハーフコーンロウという髪型らしい。

 外見も中身も、恐ろしい人だった。



 今でも分からないが、俺は悪かったのだろうか。

 父に似て俺は口数が少なく、自己主張はそこまでしない。それに対してアンナは気が強く、口数が多い。

 アンナは俺と話しているとそのうち怒り出し、何故か喧嘩になることが多かった。

 

 そして俺達はアンナの母に怒られた。

 声よりも手や足、魔法が先に出てくる人だった。いつもアンナが先に怒って引っかいてくるから喧嘩になるのに、俺が一方的にやられてるのに、喧嘩両成敗だと俺にまで容赦なかった。

 その理不尽さに、俺達はアンナの母を前に協力体制を取ることもあった。喧嘩した気まずさよりも、アンナの母の理不尽に対抗する方が優先された。


 初めは怒られないように、または怒られた時にアンナの母を逸早く宥めるための協力だった。

 そのうち怒られないギリギリのラインはどこか、どこまで遊べるのかをアンナが追求するための協力になった。まるで悪戯をしているかのよう、いや、ただの悪戯の時もあった。

 アンナの母を巻き込んで遊ぶのは楽しかった。



 俺達が魔法に興味を持つのは自然なことだった。

 アンナの母はいつも魔法で街路樹を操作し、俺達を拘束していた。

 遊びが次第にアンナの母から如何にして逃げるか、という方向に変わっていた以上、単純に逃げる手段を得たい、そんな気持ちでアンナは尋ねたのだろう。魔法を教えてくれと言われてしばらく考えたアンナの母は、次会う時には準備してくると言った。


 そうして俺とアンナは魔力石に触れ、2人とも魔力があることが分かった。

 それからはアンナの母から魔法を教わるようになった。



 ただ、アンナは魔法が得意ではなかったようだ。

 生活魔法程度しか扱えずに悔しがる娘に対して母は容赦なかった。

 ブッ倒れるまで徹底的に魔法の腕磨いて燃費上げてから文句言うんだね。それが嫌なら教会に行って皆で仲良く教典でも読んで魔力が増えるよう祈ってな。

 何度も聞いた台詞だ。

 アンナの母は、恐ろしい人だ。


 俺はアンナよりも魔力が多かったのか、それとも器用だったのか、攻撃魔法が使えた。

 それでもアンナの母は容赦なかった。

 魔力の量に物言わせりゃ誰にだって魔法ぐらい使えんだ、そんな馬鹿は三流だ。勘と経験だけの阿保は二流だ。頭使って賢く制御できんのが一流の魔法使いなんだよ。

 何度も言われた台詞だ。

 俺は一流の魔法使いを目指していないなどと言い返すことはできなかった。



 アンナの母は魔法理論への造詣が深く、非常に繊細な魔法を使った。

 それが隠密行動に必須の技術だとは後で知った。


 仮に火を作るとしたら、どれだけの温度か、どれだけの大きさか、どのように動かすのか、いつ消すのか。全てにおいて目的に合わせて効率的に、最低限の魔力で作るように求められた。

 特に植物や土など、既存の物質に干渉する時には個々の特性を熟知するよう叩き込まれた。回復魔法も補助魔法も、対象が人間になるだけで根本的なことは変わらなかった。


 魔法の発動原理とその効果はすべて知識で、理屈で説明された。

 いつの間にかスパルタ教育が始まっており、アンナは途中で離脱していた。



 俺が魔法を習っていることを知った父から呼び出された。

 魔法で糸を紡いだり、織ったり、縫ったり、編むように言われ、その通りにした。植物の繊維、あるいは動物の組織を意識し、最も効率的な手順で行った。父から素材の扱いについて指摘されればその都度修正し、最適な方法で行った。完成品を品定めするかのようにじっくりと観察していた父は、細かな指摘と改善法を言葉少なに口にし、その日はそれだけで帰らされた。

 それから、アンナ達が来る日以外にも、父と店に行くようになった。


 家と店が別々になってから見る機会が無かった、開店時の様子を見た。接客や陳列、清掃など、店の運営を手伝うようになった。父の店の経営概要を教えられた。父と叔父が業務提携を行っていることを教えられた。表と裏、両方の経路から買い取られる古着の洗浄や修繕、分類を手伝うようになった。両店の作業場に通い、従業員に混ざって衣服を仕立てるようになった。在庫管理や売上分析を手伝うようになった。

 後継者としての教育が始まっていた。



 学校から帰ればすぐに店へ行くようになり、店にいる時間は次第に延びていった。

 そんな中でアンナ母娘と会える日は、知らず知らずのうちに感じていた重圧から解き放たれ、心が休まる唯一の救いだった。そんな俺の変化に気づいたのは、俺の両親ではなく、アンナ母娘だった。


 アンナの母は俺の魔法を利用し、店に縛り付ける俺の父に憤った。アンナは俺の心労を察し、いつもの気の強さは形を潜め、不器用ながらも気遣ってくれた。

 アンナの母は何度か父に俺の事を訴えたらしいが、父の態度は変わらなかった。むしろ、商人であり、交渉術に長けた父を前にしては、アンナの母でさえも閉口させられたようだった。

 悔しがるアンナの母の姿が、感情を露わにして心配してくれる姿が、嬉しかった。



 初等部を卒業し、父の店での研修や中等部入試に向けての受験勉強をして1年を過ごした。そして冬の入学試験を受験し、合格通知も送られてきた。


 俺は、入学できなかった。

 今後懇意にしたい取引先のご子息が不合格で、来年改めて受験するらしい。

 俺は、同年度の入学を強制された。

 思えば、これが、後継者として、初めて、強制された事だった。

 当時の俺は、淡々と従うだけだった。


 研修と受験勉強がもう1年続いた。改めて入試を受け、合格した。また入学できなかった。

 春になり、ご子息は中等部への入学を諦め、家庭教師を雇うことにしたと告げられた。俺に残された選択肢は、このまま店で修行することなのだと察した。

 そして、アンナの母がブチ切れた。



 俺はいつの間にかアンナの家族と一緒に暮らすようになっていた。研修も勉強も将来のことも、今はひとまず置いといて、ゆっくり過ごすように言われた。

 アンナは中等部へは入学せず、家で留守番と家事をこなす日々を過ごしていた。各地での商談や取引、そしてその護衛を務めるアンナの両親は常に外出しており、特にすることもなかった俺は必然的にアンナと一緒に過ごすようになった。


 アンナは未だ気の強い性格ではあったものの、かつてほど喧嘩っ早くなく、早く訪れた成長期や家事を行う姿も相まって、随分大人に見えた。ずっと直射日光を避けた肌は透き通るように白く、伸ばされたオレンジ色の髪は僅かな光で輝いて、とても綺麗だった。

 どう接すればいいか分からなかった。


 俺もアンナの家事を手伝い、特に市場へと買い出しに行く時は貴重な荷物持ちとしていつも引っ張り出されていた。

 初めは少しでも値切ろうとアンナと店主が言い合っているのをなんとなく見ていた。そのうち他店との価格を比較し、価格変動の理由を聞き出し、店主の性格を把握し、それらを考慮して雑談から交渉に至るまでの方法を変える等して、俺が積極的に値引き交渉をするようになっていた。



 初夏にさしかかる頃、俺の交渉を見ていたアンナまで値引き交渉が上手くなっていた。

 分担して買い出しを行い、どれだけ安く、早く交渉を終え、自由時間とヘソクリを確保するかに馬鹿真面目に挑んでいた。俺は時間も金も興味は無かったが、アンナから協力を求められては断る訳にもいかない。考え抜いた、最も効率的な交渉がうまくいけば、だいたい俺の方がアンナよりも良い結果だった。


 ただ、余った時間と金で何をする訳でもないアンナに、何のためにそんなに必死になっているのかと問うてみた。少し悩んでから返ってきた答えは、目的は無くとも、時間も金もあればあるほどいい、らしい。

 よく分からなかった。


 その日も値切り交渉が上手くいき、手際よく買い集めて待ち合わせ場所で待っていた。いつもより戻って来るのが遅く、心配になって探してみた。すぐに見つかったが、誰かと道端で話しているようだった。

 男だった。

 笑顔だった。



 誰かと問えば、ただの知り合いと答える。仲良さそうだったなと言えば、そうでもないと言う。何を話してたかと問えば、シラを切る。話せないようなことかと問えば、なんで怒ってるのと怒る。怒ってないと言えば、怒ってるじゃんと怒鳴られた。

 驚いて振り返れば、アンナは俯いて、帽子のつばで顔が隠れていた。ただ、細かく揺れる、強張った肩が、鼻声が、表情を見なくとも彼女の感情を表していた。

 数年ぶりに見た泣く姿に、それも初めて俺が原因で泣かした彼女の姿に、頭が真っ白になった。


 馬鹿、と怒鳴り、一瞬だけ見せた潤んだ瞳に、胸が苦しくなった。荷物を放り投げて来た道を走り去っていく後ろ姿に、何も言えなかった。荷物が袋から溢れて崩れ落ちる前に、反射的に街路樹で受け止める冷静さだけは残っていた。

 たまたま居合わせたおじさんの、追え、という言葉を聞いて、俺が持っていた荷物も街路樹で作った籠に放り投げて走り出した。



 アンナは走るのが早かった。

 あまり外に出ないとはいえ、俺と協力して母親に悪戯をするだけあってか、はたまた母親譲りの身のこなしか、人混みの中をロングスカートとつばの広い帽子をはためかせてすごい勢いで走り抜けていた。

 本気で追いかけざるを得なかった。


 補助魔法と風魔法で屋根を伝い、先回りをした俺の姿に気づき、ありえないUターンをして路地裏へと飛び込んだ。アンナも魔法を使って本気で逃げていた。

 本気の追いかけっこが始まった。


 暗い路地裏を走るアンナを光魔法で照らし、屋根伝いに飛んで追いかける。

 木魔法や土魔法で拘束しようとするも、軽やかな身のこなしで躱し、魔法で相殺して突破していく。火魔法で反撃され、火が周りに燃え移らないように消火して追いかける。

 行き止まりへと誘導しても、壁を蹴って弾けるように飛んで戻る。人が1人ギリギリ入れるかという隙間にも容赦なく突っ込んでいき、見失いかける。

 終わりが見えなかった。



 しばらく続いた追いかけっこは、アンナの動きが鈍くなったことで終わりが見えてきた。

 奇しくもアンナの母から仕込まれた俺の魔法は、アンナの魔法とは魔力の消費量が違った。すぐに土魔法で行き場を無くし、それでも逃げようとするアンナの目の前に降り立って腕を掴んだ。振り解こうとするアンナを手放さないように木魔法でしっかりと結び付ければ、ふらふらとその場に崩れ落ちた。


 追いかけるのに伴って自然と湧き出た高揚感と、捕まえた達成感でアンナを見下ろしていた俺に、アンナの泣き声が届いた。

 昂っていた感情が一瞬で叩き落とされ、咄嗟にしゃがみ込んでアンナを抱きしめた。


 謝った。ごめん。酷いことを言ってしまった。傷つけてしまった。そんなつもりじゃなかった。知らないヤツと話していたのが嫌だった。楽しそうだったのが嫌だった。冷たくしてしまった。泣かないでほしい。本当に、ごめん。

 アンナは鼻を啜り、一言、ウチのこと、嫌い、なんでしょ、と消え入りそうな声で呟いた。殴られたかのような衝撃があった。否定した。嫌いな訳が無い。むしろ好きだ。好きじゃなければこんなことしない。

 言ってから、かなり、恥ずかしくなった。



 アンナへの想いを自覚し、今まで置いていた問題に向き合うことにした。

 このままこの家に居座り続ける訳にはいかない。居座り続けていては、目を逸らし続けていてはいけない。向き合わなければならない。ではどこへ行くか。父のいるあの家に戻れば、元の生活に戻るだけだ。それに抵抗できる力は今の俺にあるのか。仮に抵抗したとして、父に反抗したとして、それからどうするのか。

 従うにしろ、従わないにしろ、俺はどうしたいのか。


 中等部に入学できなかったことを思い出す。

 明らかに今までと違った出来事。人生の節目での、大きな出来事。同様の出来事が起こらないと言い切れるか? 今後の人生における、大きな出来事。例えば、結婚。相手を決められる可能性は無いと言い切れるか? 俺はそれを受け入れるのか?

 そんなはずがない。それだけは、絶対に受け入れられない。好きでもない相手との結婚だなんて、できる訳が無い。


 どれだけ強く思っても、今の俺には力が足りない。父に抗うだけの力が、全く足りない。

 父に抗うための力とは何だ? もちろん、腕力や魔法による暴力なんてものではない。知識や技術、金、人脈、権力、そういったものだろう。父を上回ってどうする? 父の店を乗っ取るのか? 叔父のように独立するのか? 全く別の方向に行くのか?

 いや、分かっている。商売の道から外れる気は無い。父の店を単純に継ぐつもりもない。独立するつもりもない。



 実力をつける。そして、父が用意した道を歩まずに、実力で、父に俺を認めさせる。父に勝る経営者となり、俺があの店を今よりもずっと成長させる。父に何も口出しさせない。俺が俺の意志で俺の行動を決める。そこまで登り詰めてやる。

 見ていろ。俺は、操り人形にはならない。

ありがとうございました。わんわんタイムに投稿する次話もよろしくお願いします。

赤毛のアンナです。えっ、アウトですか? またまた、ご冗談を。

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