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31 終わります

今話もよろしくお願いします。

 平穏な日常が返ってきた。




 ブランが解放されてからしばらくすると、街中を巡回していた警備隊や騎士団の人達はいつの間にか見なくなり、厳戒態勢の解除も宣言された。どうやら事件に何かしらの進展があったようで、これで王都の雰囲気は完璧に元通りになった。


 ただ、研究所はまだ修繕が終わっておらず、研究員の中には研究設備の整った他の都市の研究所に移籍した人もいるらしい。それを知って慌ててベレフ師匠に確認したところ、そもそもずっと研究室を使っていなかったし、今更使えなくなっても関係無いからね、と笑いながら否定された。


 その返事を聞いて安心はしたものの、1人で部屋を片づけられないくせに、関係無いと本気で思っているのかと小一時間ほど問い詰めたかった。どこか情けないような、頼りがいがあるような、複雑な気持ちになってしまった。



 夏休みが終わり、学校が始まった。


 学校の授業の進み方は、春から始まる前期と秋から始まる後期で少し異なる。


 前期は1科目につき2か月かけて勉強するため、選択できる科目数が少なくなるものの、その分じっくりと時間をかけて学べる。そのおかげで知識は定着するし、授業も教科書に書いてある内容だけでなく具体的な事例や質問への回答なども含まれていて、面白い。


 一方、後期では1科目につき1か月で勉強するため、選択できる科目数は多くなるものの、その分ひたすら詰め込むことになる。そうは言っても、今後の進路において必要でない科目を勉強したいときには厳選された最重要点を教えてもらえるため、かなり効率的だ。


 そういう訳で、僕は勉強しまくることにした。平日が5日間で、1日6科目選択でき、授業は4か月あるから……。全て埋めれば、120科目……。


 さすがの僕でもそんなに勉強できないし、全く欠片の興味も無くて今後の人生に無縁そうな勉強なんてしたくもないので、1日に2,3科目勉強することにした。そもそもまだ必修科目は残っているし、1科目を2時間かけて授業することも多い。つまり120科目選択なんてことは実現不可能だ。


 僕は張り切って楽しく勉強していたつもりだったけど、周りからしてみれば突然ガリ勉になったようで気味が悪かったらしい。勉強に忙しくて依頼に連れていけと言わなくなった僕に、レジーは逆に誘ってくれたし、テッドは僕の部屋に突然押しかけてきたし、アルは妙に不安がっていたし、エドは僕の体調を気遣ってくれたし、ポールはどこか嬉しそうだった。


 みんなは心配してくれたけど、僕は今まで通りにブラン達と週に1,2回は会っていた。それに、レジーの依頼を手伝わなくなったことで稼ぎが無くなり、部屋を片づけないといけないことからもベレフ師匠に会う回数も増えていた。そんなに勉強漬けの毎日って訳ではなく、むしろ、毎日ものすごく充実していて本当に楽しかった。




 授業2か月目が終わった。


 1か月目はなかなか勉強のペースを掴めなくて苦労したけど、2か月目になると慣れたもので、焦ることなく万全の体調で全ての試験を叩き潰してやった。後は何科目で1位が取れているかを確認するだけだ。


 そうすれば、2週間程度の短い休みが、年末年始の休みがやってくる。


 去年の年越しはベレフ師匠と2人きりで研究室で過ごした。日付が変わると同時に色とりどりの灯りでライトアップされた王城を見ながら、新年の挨拶を交わすだけの質素な、だけど満ち足りた年越しだった。


 今年の年越しは残念ながらベレフ師匠と過ごせそうにない。というのも、未だに研究所の修繕が終わっていないのと、師匠の知人に教会で行われる年越しの儀礼に誘われたらしく、それもあまり楽しいものではないから、と僕の同行がやんわりと師匠に断られたからだ。


 残念だけど、それならばブラン達と過ごしたい。すぐに一緒に年を越せるか聞いてみれば2人とも笑顔で頷いてくれた。ノワールに至ってはどう過ごすか、というか、何を食うか、どんな肉を食うか、ということですぐに頭が一杯になっていたけど、いつものことなのでブランと苦笑するしかなかった。



 大晦日、寮に外泊許可をもらい、ブランが予約してくれたレストランへ3人で向かう。


 居酒屋とかでお酒を飲んで見知らぬ誰かと馬鹿騒ぎしながら、っていう年越しは僕が未成年なのでできない。そんなことを言っていると、お酒が無くとも日付が変わるまで僕を連れ回すブラン達が咎められそうだけど、大晦日だしそんな堅苦しいことを言う人はきっといない、はず。


 レストランで案内された席はテラス席だった。ちょうど王城が見える隠れスポットのようで店内はほぼ満席だ。屋根はあっても外であることに変わりないから少し寒いけど、魔法で体を温める、なんて無粋なことはせずに冬の寒い夜を楽しむことにした。


 このレストランはビュッフェ形式のため、自分で料理を取りに行くことになる。決して、食べ放題という訳ではない、のだけど……。ノワールの目が、いつになく真剣で、不安にならざるを得ない。そんなノワールを見るブランの顔が、いつも通りすぎる笑顔で、なんというか、うん、頑張って。


 いくつか料理を取って戻ってくると、常識的に料理が盛り付けられたお皿が2つと、笑顔のブランと、真剣度合の増したノワールが待っていた。一方からものすごく見られている気が、いや、気持ちは分かるけど、えっと、隣の張りついた笑顔に気づいてほしい、かな。


「ごめん、待たせた?」


「いや、気にしないで。ゆっくり楽しもう、ね?」


「クリス、ゆっくり、だぞ」


 僕を見る2人のうち一方の目と口が訴えてくる内容に相反するものを感じるけど、僕はどうすればいいのだろう。2人のどちらかに味方する訳にもいかない。何というジレンマ。辛い、辛すぎる。


 一瞬で無くなる料理と真剣な目に負けて、次の料理取ってきたら、と言ってしまった。ノワールが満面の笑みになって一瞬で姿を消すのとブランが一瞬で笑顔を消して溜め息をつくのを見ながら、我慢しないのが一番だと自分に言い聞かせた。


 それからのノワールは何度も姿を消してはいたものの、いつも通りだった。レストランの料理に舌鼓を打ちながら、王都の流行や外国の噂などいろんな話をした。


 今年が、少しずつ終わっていった。

ありがとうございました。

ビュッフェとかバイキングとか食べ放題とか、意味が違うらしいですよ。ビビりました。

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