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episode 4 : Aldous

今話もよろしくお願いします。

今日はスリーわんデー、ですよ……!

童顔アルダス君は語る……ッ!

 普通がいいんだ、普通でいいんだ、普通なら、皆と同じなら、それだけでいいんだ。



 王都の南、湖畔の街で育った。湖で魚を捕り、森で木を伐り、畑で野菜を育てる。そんな普通の家の、3人姉弟の、真ん中。

 湖や森や畑で手伝うか、遊ぶか、教会で勉強するか。長男だから、お兄ちゃんなんだからしっかりしろ、と叱られることは何度かあった。けど、姉ちゃんがしっかりしてたから、大きな期待がされてたりとかは特に無かった。自由気ままに、普通に暮らしてた。


 そんな俺が、普通じゃなくなった日。10歳で魔力を測った日。俺が触れた魔力石が光ってから、普通の暮らしが変わった。

 両親は喜んでいた。家族から魔力持ちが出る事は自慢できる事らしい。当然のように王都で中等部に通うための準備が始まった。俺は受験勉強のために教会に通うことになった。いきなり両親の期待が圧し掛かってきた。


 街からは毎年数人が王都に行く。魔力持ちに限らず、中等部で勉強したい、という変わったヤツを含めて、同い年は6人集まっていた。今年の受験を目指して勉強している年上組は5人いた。真面目に勉強してるヤツらについていけなくて、時々サボって遊んでいた。両親からはよく怒られた。姉ちゃんも冷たかった。家に帰りたくなくて、仕方なく教会に居座った。


 その年の冬、年上組の5人が街の大人と護衛と共に王都に出発した。頑張ってきてください、と声をかければ、自信満々の笑顔で頷いてくれた。皆で笑顔で見送った。

 数週間後、1人減って帰ってきた。魔物に襲われたらしい。死んだのは魔力持ちの人だった。家族の人が泣き崩れていた。俺の両親もその姿を見て、声をかけて、慰めていた。それでも俺に受験をやめるようには言ってくれなかった。

 俺は、死にたくない。死ぬくらいなら、この街で一生を過ごしたい。両親が自慢するために、命懸けで王都を目指す意味が分からなかった。


 1年間の本格的な勉強が始まった。合格通知書が届くまでは年上組の4人から、届いてからは不合格だった1人と神父さんから勉強を教えてもらった。1つ年上の、先日死体も無しに静かに行った葬儀で別れを告げた、あの魔力持ちの人の事を思うと、どうしてもやる気になれなかった。



 次の冬が始まる頃、6人と引率の大人、雇った護衛と共に王都に向かった。何日も歩いて、野宿して、襲われて、どうしてここまでして王都に向かってるのか理解できなかった。王都が見えた時、やっと旅が終わったのかと安心したし、どっと疲れた。

 試験まで何日かあったけど、しばらく宿で休んだら、毎日王都を探索した。俺と一緒に出かけるヤツも時々いたが、ほとんどが宿で勉強していた。王都には湖畔の街に無いモノで溢れてるのに、もうあの街に帰れないかもしれないのに、勉強しかしないだなんて、つまらないヤツらだ。


 そして試験を受け、俺達はまた湖畔の街へと何日も歩いて野宿して襲われながらも、1人も欠けずに帰ってこれた。



 久しぶりに訪れた、普通の暮らし。外で雪合戦をしたり、氷の張った湖に度胸試しで乗ってみたり、そんな普通の暮らしが、王都から街に届いた6通の手紙によって再び変わった。

 今か今かと手紙の到着を待ち望んでいた両親はすぐに飛びついた。その場ですぐに開封された6通の手紙のうち、ある手紙には合格、ある手紙には不合格。そして俺の両親に渡された手紙に書かれていたのは、不合格の文字だった。


 その年、街からは俺以外の2人の魔力持ちと、1人のガリ勉の計3人が王都へと行くことになった。3人を笑顔で送り出した俺に待っていたのは、冷めきった家庭だった。些細な事で喧嘩をする両親、すぐ叱られる姉弟、俺を冷たく睨む姉、泣く弟。家にいたくなくて、教会に居着いた。



 春を迎える頃、始めは俺を迎えに来ていた両親も来なくなり、俺は教会に住み着いていた。いつものように教会の清掃、朝の祈り、朝食、子供達の勉強の面倒を見たりしていると、王都から巡礼に来たという司祭さんや助祭さん、修道士さん達一行が訪れた。

 その司祭さんが行った夜の祈りは、いつもと全く違った。洗練されている、といえばいいのか、纏う空気が違った。教会に住み着いてから、初めてちゃんと祈れた気がした。

 司祭さんはその威厳の割には、俺にも優しくしてくれた。気づけば、司祭さんにいろんなことを話していた。今まで溜めこんでいた悩みを、不満を、怒りを、全て吐き出してしまった。司祭さんは静かに聞いてくれて、最後に一言、大変よく頑張りましたね、そう言ってくれた。久しぶりに人前で泣いた。


 聖職者は、魔力のことを神からの贈り物、神の寵愛、神力、そういった言い方をする。俺の話を聞いて俺に魔力があることを知った司祭さんは、その日以降いろんな話をしてくれたし、魔法も教えてくれた。光とか熱に特化していたけど、それでも初めての魔法に興奮した。教えられて、努力して、習得するのが楽しかった。


 司祭さん達一行が街を発つ日が近づいてきた頃、司祭さんから王都に来ないかと提案された。中等部の入試が夏にもあり、仮に中等部に入学せずとも聖職者としての道もあると言われた。街に居辛かった俺にとって嬉しい提案だった。

 久しぶりに訪れた実家で、再受験するという名目で司祭さん達と王都へ行きたいことを告げた。それまで俺を邪険に扱っていた両親の態度が一変し、喜んで賛成してくれた。

 合意を得られた俺はすぐに実家を後にして教会に戻り、神父さんや司祭さんに王都に行きたいことを告げた。司祭さんは巡礼の最後に再びこの街を訪れ、俺を王都に連れて行ってくれることを約束してくれた。それまで、俺は手付かずだった受験勉強に真面目に取り組むことにした。



 春から夏へと季節が移り変わる頃、約束通り司祭さん達が再び街を訪れた。王都へ向けて出発する日、どこから聞きつけたのか家族が見送りに来ていたが、家族は無視して神父さんにお礼と別れの言葉を告げて街を出た。

 王都への道中は、何度か野生動物に襲われたが、光魔法による目眩ましを中心に、できる限り殺生を避けて進んでいった。何度も走って逃げることになったけど、数人の護衛を頼りに戦いを見ることしかできなかった半年前に比べれば、全員で協力していた今回の旅の方が断然安心できた。



 王都では見習い修道士という形で教会で過ごすことになった。やることは湖畔の街の教会にいたころと変わらない。清掃や炊事といった下働きと朝と夜の祈りに参加するだけ。試験までの1か月弱、勉強と見習いを続けつつも、毎日のように司祭さんの元へと通った。魔法はもちろん、相談だとか、説教だとか、普通の雑談なんかも、とにかくたくさん話した。

 ある日、試験内容について何気なく話した時、司祭さんが真面目な顔で、声を潜めて教えてくれた。面接では、学校では教会との接点をあまり語らない方が良いらしい。王立学校、つまり王宮と教会というのはあまり相容れないもので、王国の統治に関わらないくせに王宮が育てた人材を掠め取る教会が気に入らない、とか。大人の事情というヤツだ。司祭さんが苦笑しつつ、巻き込んでしまいすいません、と言った。


 試験は、正直上手くいった気がしなかった。教会との接点を語らないように、と言っても嘘を語る訳にはいかない。受験の理由を聞かれた時、どう答えればいいか分からなかった。受験することが決まった最初のきっかけ、両親のことを語る気になんてなれない。司祭さんとの話をボカしながら語るしかなかった。

 初っ端から酷い手応えだ。ただ、仮に不合格になっても聖職者の道がある。そこまで必死になる必要は無い。おかげで少し気が緩んで、熱魔法で室温を整えたり、魔法実演用の人形の心臓部に光熱魔法で穴を開けたりと、やってしまってから後悔するようなこともした。

 それでも、教会の代わりに孤児院に届けてもらった手紙に、合格、の文字が見えた時、嬉しかった。司祭さんに一番に報告した。喜んでくれた。



「ナディムさん、本当に、今までありがとうございました」

「こちらこそ、アルと出会えて毎日が楽しかったですよ」


 寮へと移る前に、ずっとお世話になった司祭さんにお礼を告げる。


「……これからも、会いに来て、いいですよね」

「もちろんです。いつでもお待ちしています」


 いつもと変わらない、威厳のある佇まい、優しい声音。


「アル、貴方に神のご加護のあらんことを」

「ナディムさんにも、神のご加護がありますように」


 笑顔で別れて、寮へ向かう。

 中等部、俺は、普通に過ごす。

 ありがとうございました。

 お上りさん組を紹介するぜ! メンバーはレジナルド、アルダス、クリス! 農業のことなら農村出身、レジーにお任せあれ! 泳ぎに関しちゃ湖畔出身、アルの得意分野だ! 田舎暮らし全般においては森出身、クリスに敵うヤツは誰もいねェ! こいつらが俺の、いぬヒトでの最高の仲間達だ……!

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