表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/197

23 振り返ります

今話もよろしくお願いします。

 夏が、休みが、お祭りが始まった。




 いつもの6人組で1日目を回ることになった。初日で僕の楽しいお祭りが終わってしまうのかと思うと朝起きたときから悲しかったけど、全力で楽しんでやろうと張り切っていた。といっても、全力で食って遊んで騒ぐだけだ。たったそれだけでも6人でいればいくらでも楽しくなれるし馬鹿になれる。気づけば夜で、寮のベッドで寝ていた。


 どうして楽しい時間はあっという間に過ぎるんだろう。こんなに明日を迎えたくないと思ったのは初めてだ。



 僕が先輩や同級生に囲まれたあの日、僕を待っていた先輩が、その場にいた誰よりも鬼気迫った顔で、みんなを代表して僕に言った。


「クリス君、この手紙を出した女子達と、俺達の、恋のキューピッドになってくれ」


 眩暈がしたかと思った。恋のキューピッドって、いったい僕に何をしてほしいのだろう。いや、恋のキューピッドなんだろうけど、何だよそれ。僕は弓矢を携えればいいのか。それとも羽根を生やせばいいのか。それとも実は僕の外見を馬鹿にしているのか。どういうことなんだ。


「弓術は習っていません……」


「は? いや、何を勘違いしているか知らんが、そういうことじゃなくてな」


 先輩が呆れた顔で僕が抱える手紙を指さす。呆れたいのは僕の方ですよ。


「それらの内容、全部、一言で言えば、一緒に祭りに行きましょう、だ」


「はあ……それと僕が半裸になって羽根を生やすことに何の関係が……」


「クリス君にはそれを全て受けてほしい」


 ついに僕のボケという名の無駄な足掻きが無視されるようになって辛い。しかも、僕は1人しかいないのにこの大量の手紙の数だけ分身しろだなんて、魔法でさえ実現不可能なことを要求されて本当に辛い。


「祭りは朝の9時から夕方7時までの10時間、3日間あるから30時間、そして手紙は全部で18通、つまり1人当たり1時間40分、交代の時間を考えれば1時間30分付き合ってくれれば――」


「ちょっと待ってください、なんで3日で計算してるんですか。空いてないですよ」


「そんなバカな?!」


 淡々と述べていた先輩が驚愕の表情を浮かべ、周りも一気にザワつき始める。いったい僕はどれだけ暇人だと思われていたんだ。失礼な人達だな。僕より年上でも学年が上でも背が高くても、そんなの関係無しに、いや、だからこそ余計にイラついてしまう。見下ろしやがって。


「3日間のうちのどれか1日と最終日の最後の1時間だけは絶対に譲りません」


「な……ちょっと待て、どれか1日って、半日ではダメなのか?」


 先輩が苦しそうに顔を歪めている。どれだけ無茶な要求をしているのか自覚が無いんですね。見下ろしやがって。


「譲りません」


「ぐ……せめて、午前中、3時間だけでも……」


「譲りません」


 僕はいつの日かの無表情のブランを思い出し、仮面を貼りつけたイメージで顔の筋肉をガッチガチに固めた。先輩が妥協点を探して問いかけてくる間、氷点下の冷たさを声に纏わせて淡々と返答し続けた。気づけば先輩は随分と顔色が悪くなり、周囲のザワつきは治まっていた。


「分かった、クリス君、それで、3日間のうちどの1日がいいとか、希望はあるのか?」


「それは約束している皆次第ですのでこの場での返答は控えさせていただきます」


「それは、レジナルド達か?」


 僕が頷くのを確認した先輩が、すぐに周囲の人垣へレジー達を呼ぶように告げる。直後に人垣からすごい勢いで人影が飛び出して階上へと姿を消した。きっと伝令や斥候というのはああいう感じなんだろうな、なんて思った。その間に先輩が条件を確認する。


「3日間のうち1日は、絶対に、全て、俺達のために使ってくれるんだよな?」


「最終日の最後の1時間は無理ですが、そうですね。もっとも、内容次第でしょうが」


「それは大丈夫だ! ちゃんと考えている! クリスにだけ負担させるつもりはない!」


 そこで階上からドタドタと走る音が聞こえてくる。さて、彼等は僕に有利になるように動いてくれるのだろうか。


「レジナルド達と今からどの日で回るかを決めてもらっても構わないか?」


「はい」


 いったい何を言われたのか、レジー達5人は顔を強張らせて階段から駆け下りてきた。先輩たちに囲まれている僕の姿を確認してポールが気を失いかけたのをテッドが咄嗟に支え、そのまま担ぎ上げて僕の近くに集まってきた。


「みんな、ごめんね、急に集まってもらっちゃって」


「お前、何したんだよ」


 僕の場違いなほどにのんびりした言い方に、レジーが眉を顰めながら周囲を見渡して僕に尋ねる。ふるふる、僕は悪くないよ、と笑顔で頭を左右に振る。


「レジナルド、すまん、実はな――」



 先輩によって現状に至るまでの経緯が説明され、どうにか意識を保ったポールを含めて6人で話し合う。といっても、3日目でなければ、と開始早々エドが言って、ちょっと待てそれはどういうことだ、と聞きたいのに聞けれない、非常にもやもやした空気になり、1日目でいいんじゃね、っていう適当なノリですぐに決まった。


 そして、僕が恋のキューピッドになるのはお祭り2日目の10時間、3日目の9時間、合わせて19時間となった。2日目は1人1時間で10人、3日目は1人1時間が6人と1.5時間が2人の計8人、2日間で合計18人の女の子達と回ることが決まった。


 それをまた伝令のような素早さを誇る先輩が女子寮へと伝えに行く。男子寮では誰がどの女子と回るかを賭けて一気に騒がしくなった……つまり、僕は女の子達と先輩や同級生達の恋のキューピッドになるべく、全てのペアの仲立ちをする役目を負ったということだ。


 僕の負担を考え、お祭り当日は女の子はもちろん僕の分の代金も先輩や同級生達が払ってくれるらしい。お祭りが終わればさらに何かしらの物的報酬もいただけるということだ。こうなったら露店で食いまくってみんなの財布をすっからかんにしてやろう、と覚悟を決めた。

ありがとうございました。

「キューピッド」で画像検索すると小さなクリス君がいっぱい出てきますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ