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episode 2 : Tosh

今話もよろしくお願いします。

わんわんデー、2話目を投稿しないわけにはいかない……ッ!

トッシュ君だって語りたい!!

 俺はどうも人に嫌われる。いや、怖がられる。原因は分かっている。この目だ。


 今でも覚えている。

 物心ついた頃、一番最初の記憶と言ってもいいだろう。

 母を訪ねてきた叔母が俺を見て言った一言。


 まあ! 人を殺したみたいな顔ね!


 叔母がどんな顔をしてその一言を言ったのか、はっきりとは覚えていない。ただ、酷く歪んだ顔だった気がする。そして嫌悪感を惜しげもなく出していたのだろう、幼心に酷く傷ついた。それはトラウマになるのに十分だった。


 外に出て目が合えば、大人でも顔を顰めるのに、子供ならほぼ間違いなく泣かれた。

 その度に叔母の、人を殺したみたいな顔、という声が聞こえてきた。

 外に出て顔を見られれば、大人でも眉を顰めるのに、子供ならほぼ間違いなく怖がった。

 その度に叔母の、人を殺した顔、という声が聞こえてきた。


 顔を見てはいけない、顔を見られてはいけない。そんな風に思って常に俯いて、伸びた前髪が切られそうになるとギャン泣きして抵抗したりもした。フード付きの服ばかりを好んだ。目元だけを隠す仮面収集は俺の趣味になった。

 積極的に外に出ることはなかった。出るとしてもフードを深く被って顔を隠した。同年代の子供達に遊びに誘われることもあったが、目を合わせると逃げられた。複数人で楽しそうに走り回っている彼等の姿を遠くから眺めた。人を殺した顔ではその輪に入れなかった。



 年を重れば重ねるほどに目つきは悪くなっていった。

 初等部に入学すると、俯き続けるのが難しくなってきた。


 教師に顔を上げろと怒られて、なんだその目はと怒られる。

 その度に叔母の、人を殺した顔、という声が聞こえてきた。

 同級生にどうしたのと覗かれて、ごめんなさいと謝られる。

 その度に叔母の、人殺しの顔、という声が聞こえてきた。


 俯いていても不自然でないように本を読んだ。常に本を読んでいたら次から次へと本が読み終わった。必死になって本を読んだ。読むまで時間のかかる難しい本を読んだ。どの本もいつの間にか読み終わってしまった。同じ本を繰り返し読んだ。

 同級生に揶揄われるようになった。俺と何秒目を合わせていられるか、というゲームのようなものを始めていた。心無い罵倒を浴びせられることもあったが、耐えられずに顔を顰めると離れていった。次第に話しかけてこなくなった彼等の声が遠くから聞こえた。人殺しの顔は輪から弾かれた。



 身長はどんどん伸びて、目つきもどんどん悪くなった。

 初等部を卒業するころ、俯いていても顔を隠せなくなった。


 俺の正面で向かい合って立つ人はいなかった。

 俺の横からしか声は聞こえてこなかった。

 いつまでも叔母の、人殺し、という声が耳から離れなかった。


 初等部5年、最高学年で魔力の有無を調べる検査で、俺が触れた魔力石が光った。俺には魔法の適性があるようだった。それからは魔法に関する本を読んだ。己の体に魔法をかけて身体機能を強化できることを知った。俺は目つきを和らげる方法を探した。

 教室内は魔法の話題でもちきりだった。皆して教え合い、競うようにして魔法を習得していた。何が使えるか、どれだけ使えるか、誰が最も使えるか、卒業までその話が尽きることはなかった。全て本に書いてある魔法だった。俺は1人で魔法を習得していった。



 相変わらず目つきは悪かったし、効果的な魔法は見つからなかった。

 中等部に入学してから、俺の身長が平均より高めだと気づいた。

 眼鏡をかけてみた。


 俺の正面に立つ人が現れた。

 俺の顔を見る人が現れた。

 俺と目を合わせる人が現れた。


 誰も泣かなかったが、その目に浮かぶ怯えの色は隠しきれていなかった。

 叔母の、人殺し、という声は消えなかった。


 補助魔法を始めとして、攻撃魔法や回復魔法も、目つきを和らげる手段にならないか試した。繊細な目周りで魔法を使っていると魔法の制御が上手くなった。驚異的な燃費の良さを獲得した。目つきの悪さは変わらなかった。

 同級生に話しかけられるようになった。同じ授業を受け、共に勉強し、語り合う人ができた。彼は俺の知識を、魔法の技術を認めてくれた。卒業する時、親友と呼ばれた。彼の目には怯えの色は見られなかった。俺の耳には人殺しという声が聞こえた。



 目つきは悪かったが、魔法の研究がしたかった。

 研究所の研修部に入り、目つきを気にする人が減った。

 眼鏡をはずした。


 俯く必要がなくなった。

 前を見るようになった。

 視界が広がった。


 すれ違う人の顔が見えた。

 誰も俺の顔を見ていなかった。

 叔母の、人殺し、という声は無視できるようになった。


 俺の魔力消費の燃費の良さはずば抜けていたが、魔力の量はずば抜けて少なかった。一般的な魔法の研究にはある程度の魔力量が必要で、俺の魔力量では歓迎されなかった。俺に残された魔法の道は魔物生態学研究室だった。それでも研究ができるなら、と不満は無かった。

 同期達とは話しやすかった。俺の魔法技術だけを見て話しかけてくるような人達ばかりだった。彼等との研修は楽しかった。俺の目つきを和らげる方法を徹夜で議論することもあった。魔力量だけで判断する研究者達を批判してくれた。人殺しであることを忘れられた。



 目つきが悪いと思っていたが、上には上がいた。


 研究室に所属したが、主任であるベレフコルニクス先生が長期出張のため、別の研究室で助手をしていた。

 2年後、先生がお帰りになられた。

 先輩にあたるジュディさんも戻られた。

 クリスという子も共に来られた。


 ベレフコルニクス先生がお帰りになられたその日に挨拶をしに行った。

 眼鏡ははずしていた。

 目線の高さはほぼ同じか俺が若干高かった。

 目が合うが、恐れは抱かれなかったようだった。

 叔母の、人殺し、という声は無視できた。


 別の研究室での仕事の引き継ぎに1週間を要し、その間にクリスに出会ってしまった。

 眼鏡をはずしていた。

 身長差から見下ろすしかなかった。

 目が合うと、少し引き攣った顔をしていた。

 叔母の、人殺し、という声が聞こえてきた。


 正式に助手としての仕事が始まってジュディ先輩に会った。

 眼鏡はかけていた。

 身長差から見下ろしてしまった。

 目が合うと、口角をつり上げ、ギラギラとした目を返された。

 叔母の声が聞こえなかった。



 街で絡んでくる荒くれ者の目つきは悪かったが、叔母の声が聞こえた。

 ベレフコルニクス先生の穏やかな顔でも、叔母の声が聞こえた。

 クリスが向けてくれる屈託のない笑顔でも、叔母の声が聞こえた。

 ジュディ先輩のギラギラした目を見ると、叔母の声が聞こえなかった。



 俺の目つきは生まれつき悪い。

 目が合えば、普通の子どもならば泣いて、普通の大人ならば顔を顰める。

 顔を見られれば、普通の子どもならば恐れ、普通の大人ならば眉を顰める。

 目つきの悪さを意識させなくて、ようやく会話ができる。

 叔母は未だに俺を苛んでいる。


 今日も研究室に向かえば、すらりとした小柄な体に似合った、こじんまりとした顔が、さらさらとした軽やかな赤毛のショートヘアに包み込まれ、2つの綺麗な丸い瞳を映えさせている。


 丸い瞳は、ベレフコルニクス先生を穏やかに見つめる。

 丸い瞳は、クリスを愛しそうに見つめる。

 丸い瞳は、俺をギラギラと見返す。


 彼女の目つきは俺にだけ悪い。


 彼女の目だけが俺を救ってくれる。

ありがとうございました。本日の投稿は以上です。

仮面(黒歴史)

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