16 再会します
今話もよろしくお願いします。
中身の濃すぎる休日を過ごしている。
ノワールの顔を見たら余計に安心して、涙がぶわあって溢れてきて、わんわん声をあげて僕が泣き始めるもんだから、ノワールは初めはぎょっとしてたけど、僕を抱きしめて頭を撫でながら、だーいじょーぶだよークリスくーん、なんて歌うように慰めてくれるから、なんだかおかしくてそのうち自然と笑ってた。
泣いて笑って顔はぐちゃぐちゃで、それでも少しずつ落ち着いてきて、そうするとすぐに魔物のことを思い出して慌てて振り返ったら、遠くに魔物だったものが積み重なってて、近くにはレジー達と肉を担いで僕達を見下ろすブランがいた。
「ずるいなあ、俺に野郎達を押しつけて何してんの」
ブランは物騒な物言いのわりに、穏やかな声で喋りながらレジー達と肉を降ろし、慌てて立ち上がろうともたついてる僕を押しとどめてしゃがみ込み、僕と視線の高さを合わせてからふわり、と微笑んだ。
「クリス、久しぶり。元気にしてた?」
2人ともまるで街中で会ったみたいに呑気に話しかけてくるけど、ここは森で、魔物がいて、ついでに僕は死にかけたっていうのに、元気にしてた?ってどういうことだよ、元気じゃないよ、なんてぐちぐち考えてたのがバレたのだろうか、ブランが、ふ、と笑い、そしてすぐに申し訳なさそうな顔になる。
「ごめんね、来るのが遅くなって。大丈夫?」
大丈夫じゃない、ってすぐに思ったけど、そういえば見ないようにしていた腕と脚の痛みが引いていて、そっと視線を下ろして確認してみると、真っ赤に染まった服が視界に飛び込んできて、喉からひっと悲鳴のような音が漏れた。
「いちおー回復魔法はかけたぞ……立てるか?」
ノワールが僕にマントをさっと羽織らせて立ち上がり、僕に手を伸ばしてくれたので、その手を取ってふらふらしながらもなんとか立ち上がって、ノワールを見上げたら、頭1個分ぐらいの身長差があった。
「また助けてくれてありがとう、ノワール、ブラン、ありがとう」
ノワールからは頭をくしゃくしゃっと撫でられ、ブランからは柔らかい微笑みと、どういたしまして、と返してもらい、どうしてここにいるのか、というかすごく強くないか、やっぱり冒険者なのか、とかいろいろ尋ねようと思って、口を開こうとしたところでブランに遮られた。
「ひとまず森を出ようか。この2人なかなか起きないし」
おう、とノワールが返事をしながら肉を背負い、ブランがまたレジー達を担ぎ、手持無沙汰となった僕の手をノワールの空いた左手が握り、手を引かれながらゆっくりと森の出口へ向かった。
ノワールの横顔を一歩引いたところから見上げながら、手を握る強さとか手の平の硬さとか歩くリズムとか、全く違うのに、なんとなくベレフ師匠を思い出した。
森の外に出ると、見知らぬ2人組と気絶したレジー達とともに、泣き腫らした顔で現れた僕を見た採取組が、顔面蒼白で慌てて出迎えてくれたけど、マントの隙間から僕の血だらけの格好を見たポールは気を失い、テッドとアルはひたすら狼狽えていた。
そんな2人を落ち着けようとすると、ブラン達が、この肉どーすんの、とか目を輝かせて聞いてくるし、依頼用だからちょっと待って、って言ってるうちにレジーとエドが目を覚ますし、状況を説明しに行ったら、僕の血だらけの格好のせいですごい勢いで何があったのかって聞いてくるし、もうてんやわんやになった。
ブラン達は肉についた土を水魔法で洗い流すだけで何もしてくれないし、どうにかして4人に説明し終えたころで、意識を取り戻したポールにまた同じことを説明することになるし、その間ポールはずっと青ざめた顔であわあわ言ってるし、ひとまず王都に戻って報告しよう、ってなって王都まで戻る間、ずっと同級生5人はブラン達を遠巻きに警戒してるし、でも僕は2人と話したくてべったりだし、終始めちゃくちゃだった。
ギルドで採取した獲物の品質を見てもらい、肉はちょっとダメになってるのがあったけど、それでもどうにか引き取ってもらって、その報酬を受け取っている間、ブラン達は魔物のことを報告していたみたいで、魔物の残骸の一部をギルド職員に渡していた。
そんな2人をぼんやりと眺めながら話が終わるのを待っていたら、いつのまにか僕の隣に来ていたレジーに小突かれた。
「なあ、何者だよ、あいつら」
レジーを見上げると、レジーは小声で僕に尋ねながらも、警戒した顔つきでずっとブラン達を睨みつけていて、そんなに警戒しなくても怪しい人じゃないと思うんだけどなあ、なんて思いながら、特に何も考えずに口を開いた。
「ブランとノワールだよ、何度も僕のことを助けてくれた恩人で、王都での初めての友達」
「へえ……初めての友達、ねえ……」
ますます険悪な顔つきになるレジーに、どう説明すればいいのかなあ、と困っているところにノワールが駆けつけてきて、目を糸のように細めてにこにこしながら僕の頭にぽんぽんと手を置いて、何度も僕の髪を撫でつけながら声をかけてきた。
「クリス、一旦帰って着替えな。んで昼飯食おう。東広場で待ってるぞ」
それだけ言って踵を返し、ブランに声をかけながら出入り口へさっさと向かい出してて、相変わらず勝手に話を進めるんだから、なんて焦って追いかけようとしたら、レジーに腕を掴まれてて行けなくて、ブランは微笑みながら手を振ってそのまま出て行っちゃって、腕を掴んだままのレジーに不満を込めた視線を突きつけてやった。
「帰るぞ」
レジーはものすごく不愛想に、僕以上に機嫌が悪そうな声でそれだけ言って、そんなレジーの姿は初めてだったからちょっとびっくりしたし、僕の腕を掴んだまま歩き出すから何も言い返せなくて、みんなで慌てて追いかけて帰ったけど、めちゃくちゃ気まずい雰囲気だった。
寮に帰ったら、すぐに血だらけで穴の開いた服を脱いでお風呂に入り、体をさっさと洗って拭いて着替えてたら、僕の服のせいで脱衣所に血の匂いが籠ってるのに気づいて、思わず顔をしかめながらも急いで換気して、そういえば借りっぱなしだったノワールのマントを丁寧に畳んで、急いで部屋に向かうと、僕の部屋の前でレジーが腕を組みながら壁にもたれかかっていた。
「東広場、俺も行くから」
一方的に告げて隣の部屋に入る後ろ姿を見送りながら、今日はみんな僕の話をあまり聞いてくれないなあ、なんて思った。
ありがとうございました。
ブランまでマッチョかよッ!たぶんマッチョ