15 戦います
今話もよろしくお願いします。
学校での生活はとても充実している。
春組には半年も遅れているから、頑張って勉強しないとなあ、って思ってたら、筆記試験では意外と簡単に学年1位がとれて拍子抜けしたし、平民と貴族の温度差に警戒してたら、貴族らしい人から平民らしい人までいて、露骨に平民扱いされるとちょっとイラっとするけど、ベレフ師匠に比べれば全然めんどくさくないよなあ、って考えればそれなりに仲良くできた。
実技においては、剣は体格差で苦しいときがあるけど、魔法で僕に敵う生徒がいないし、料理とか裁縫とか木工とか、不便な街外れで1人暮らしすれば自然と身につく程度のことはそれなりにこなせた。
でも、それって1年生が勉強するのが、基礎とか一般常識を身につけるような科目ばかりだからかなあ、って思って、まあ頑張らなくても大丈夫っぽいから勉強はほどほどにするとして、1年目は交遊重視で過ごした。
そうなると、意外とお金を使うかなあ、って思ったら、平民の遊びってお金かけないし、むしろお小遣い稼ぎみたいなことも一緒にするから、結局ベレフ師匠に会うのは月に1回ぐらいになってしまった。
研究室に行くと、ベレフ師匠が満足するまで学校の話をしなくちゃいけないし、ジュディさんは修行をサボってないか嬉々として稽古をつけてくれるし、トッシュさんは財布の紐が緩みまくりで、なんだかお祖父ちゃんみたいだなあ、なんて失礼なことを思ったけど、年上に囲まれて過ごすのもやっぱり楽しいなあ、って思った。
王都の外に出て死にかけた。
僕達は、というか僕以外、特にレジーとテッドはすごい苦労して学年末試験を乗り越えて、無事にみんな一緒に進級して2年生となり、6人の中で最年長のレジーは、冒険者ギルドでギルド員登録ができる年齢になった。
レジーは、年齢のおかげもあるけど、背が高くて体つきもがっしりしてて、体を動かしたり剣を使うようなことが好きみたいで、自然とギルドで依頼を達成してお小遣い稼ぎをするような生活を始めていた。
ギルドに興味津々の僕からしたらすごくうらやましくて、お金なんていらないから手伝うし連れていけ、と毎日のように訴えて、部屋が隣なのをいいことに、壁越しに連れていけと唱えてみたり、壁を叩いてみたり、みんなにうるさいって怒られたけど、とにかく頑張って纏わりついたおかげで、休日には連れて行ってもらえるようになった。
初めは人探しとか物探しとか、老人や子供のお世話とか、家の修理とか木の剪定とか、王都内での依頼にしか連れて行ってもらえなかったけど、そのうち薬草や果物の採取とか、野生動物の狩りにも連れて行ってくれるようになって、時々僕以外も一緒に行くようになって、最近では6人で人海戦術のように依頼をこなすことも増えていった。
僕はお金とかはいらない、って言ってるけど、兄貴分のレジーからしたら、タダ働きをさせるのは許せないみたいで、報酬は僕らにご飯を奢るのにほとんど使ってて、申し訳ないなあ、って思って後でこっそり謝ったら、気にすんな、それより次の試験も頼むよ、って笑いながら言われて、少し嫌な予感がした。
その日も6人で複数の依頼をこなしてやろう、ってことで、年上のレジーとエド、魔法が得意な僕の3人で狩猟、年下の3人で採取を担当する、っていう、いつも通りにグループ分けをし、いつも通りに馴染みの森へ向かい、いつも通りにレジーが前衛、エドが中衛、僕が後衛で、鳥から猪までいろんな野生動物をばんばん狩りまくった。
街外れでの暮らしを思い出して、にこにこしながら動物を捌く、っていう、毎度恒例のドン引き映像を垂れ流し、そろそろ採取組と合流しようかな、って時にふと森の奥から何かが匂った。
レジー達は気づいてないみたいで、どちらが何を運ぶかで言い争ってるし、森の奥を見ても、不気味なぐらいに静まり返ってるだけだし、さっさと戻ろう、と2人に声を掛けるのに振り返れば、ちょうど2人がふらつきながら倒れるところだった。
あ、これやばいなあ、って思って、咄嗟に防御魔法と回復魔法と補助魔法を、無理して3人分同時に使ったら、急な魔力消費に視界がちかちかして、何度も瞬きをしていたら、背後からドン、という衝撃とともに吹っ飛ばされた。
視界が失われてたし、突然だったからびっくりして、風魔法で衝撃を和らげれずにごろごろ転がって、別の意味で視界がちかちかする中、僕を吹っ飛ばしやがった不届き者に目を向けると、数年ぶりに見る魔物が地面から姿を現していた。
枝とか蔓とかを振り回して、胞子をバラまいてるみたいで、植物型っぽいから、さっさとへし折って炭にしてやろうと思ったのに、身構えている僕ではなくて、せっかく捌いた肉とか、気を失ってる2人に狙いを定めているところだった。
ふざけんな木偶の坊め、穴だらけにしてやる、って思って土塊をブッ放そうとしたら、何だかうまく魔法を使えなくて、ただの土をぶっ掛けて挑発しちゃって、まあ2人が助かりそうだからいいかなあ、って思ったけど肉まで土だらけになってて泣けた。
なんてふざける余裕が無い、って気づいたのは、地面から木の根っこが僕に向かって飛び出てきたのを、うまく躱せなくて、しかも防御魔法を突破されて、鈍くて鋭い痛みが全身を支配してからだった。
腕とか脚がじんじんすると思ったら、だんだん熱を帯び始めて、あ、これ直接見たらいけないやつだな、って思って、頑張って顔を上げて、魔物をどう倒すか考えようとしても、そういえば1人で魔物を倒すのって初めてだなあ、とか、前回はシロとクロがいたもんなあ、とか、関係ないことばっかり頭に浮かんできて、ふとベレフ師匠の顔が思い浮かんだら、だんだん視界が滲んできて、魔物が動いてるのに、魔法がうまく使えないし、立ってるのがやっとだし、どうしよう、本当にやばい、誰か助けて―――
「よお、また会ったな」
いつの間にか座り込んでいた僕の体を支え、横から話しかけてくれた、その聞き覚えのある声の主に、確認もせずに抱き着いた。
「お?感動の再会に熱い抱擁を、ってか?」
ゆっくりとその声の主の顔を見上げると、にやりと口角を上げた、去年よりも大人っぽくなったノワールだった。
ありがとうございました。
いきなり戦えたら苦労しないよね。