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117 消えない

 ひどいじゃあないか。




 そう、確かにれのせいさ。少し、手を加えたくなったのさ。仕方が無いだろう? 己れはこれでも暇を持て余しているのでね、何か面白いことが無いものかと常に思案する日々なのさ。


 そこで、だよ。己れは君を見つけた。君は己れが見つけた大事な大事な役者だ。己れの暇を潰してくれそうな、とても面白い人材だ。それに、君はとても都合が良い。己れの魔力をこんなにも受け入れる。現に今も……己れの魔力を奪おうと、取り込もうとしている。


 これには己れも驚かされた。そして同時にどうしようもなく楽しくてしょうがない。こんなにも胸が踊るような心地を味わうのは久方振りだ。こうなったならば少しでも愉しいものを見たい、そう思うのも仕方が無いだろう? つまりね、己れが君に介入してしまうのは当然の結果という訳だ。最高の舞台設定と役者の教育は己れの仕事だからね。


 ああ、己れを恨むのは筋違いだよ。


 悪いのは……ヒトだ。



 ……おっと、何かおかしいと思ったら……君、何をしているんだい。早く起きてくれないかな。全く、できもしないことを企むからそうなるのさ。仕方が無いなあ、クク、本当に、仕方が無いね、君ってヤツは……。


 れが代わりに君の愛し人へと会いに行ってあげよう。感謝してくれていいよ?


 ああ、楽しみだ。彼女との――――





 ……ふ、ふざけるな! なんだお前!


 消えろ!


 気持ち悪い!


 勝手なこと言ってんじゃない!


 ていうか意味分かんない!


 消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ!!


 どっか行けええーー!!


「キャンッ」


 うるさい!!


「ワンワンワン!!」


 う…………ん? あれ……手が、動く。ということは……僕は、起きたのか? 手を握ると、ざらざらとしたものが手の平を擦る。これ、砂じゃないか。痛い。え、砂? どうして砂が……僕は外にいるのか。外で……倒れているのか?


「ワン! ワンワン!」


 手の平を開いて、地面に手を当てる。腕を伸ばして、身体を起こす。頭がフラフラする……地面に手をついたまま、気持ち悪い浮遊感に耐える。これって……魔力が無くなった時と、似てる……。


「ウゥゥ……」


 そうだ、魔力が無くなったんだ。部屋の掃除をしたら、ふらっときて、そのまま……でも、いつもならそんな無理しないのに、無理したつもりも無いのに、どうして魔力が無くなったんだろう。


「ハッハッハッ」


 ていうか、さっきから……何かいるよね。犬? うーん、目がまだ見えないから、どこにいるか……音からして、こっちかな……? 左手を斜め前方向に伸ばしてみる。


「……」


 何も無かった。もっと遠くにいるのか、それとも見当違いだったのか、微妙な恥ずかしさにそっと手を下ろす。手の感覚がはっきりとしてきたみたいで、地面の凹凸が、手の平の痛みが伝わってくる。あと、顔と背中もじわじわと痛み始めてきた。


 まだ視覚が治らない。何も見えない。ここがどこなのか、朝なのか昼なのか夜なのか、周りに誰かいないのか……何も分からない。でも、誰かいるなら何かしてくれてもよくない? 僕、ずっと座り込んでるんだけどな……そもそも、倒れてたし。


「ワフッ」


 うっ……! わ、びっくりした。突然耳元で鳴くなよ、あとすごい嗅いできてるよね、ぞわぞわする。やめろ、鼻でつつくな、押すな、待って、お願い、ちょっと、力強くない? わ、わ、わ。


 胸を押されて仰け反ってしまった。地面から手が離れる。やばい。倒れる。この、犬らしき動物め……掴んでやる。適当に両手を前に出し、右手の指先に触れた物体にしがみつく。


「……」


 思ったよりも反応が無い。てっきり怒られるかと……って、わ、後ずさってる。僕の手から逃げてる。あららら、まあいっか。再び地面に手をつく。


 しばらくじっとしていると、また近くに来たのか、嗅いでいる音が聞こえる。居心地の悪さに時々手で払ったりしているうちに、ようやく視界に光が戻ってきた。


 恐る恐る顔を上げ、瞼をゆっくり開いてみる。眩しい。目が痛い。どうしてこんなに酷いのだろう。いつになれば治るのだろう。うんざりしながら、周囲の音に耳をすましてみる。


「フンフンフンフン……」


 犬らしき動物のせいでよく分からない。くそ、邪魔だなコイツ。




 何度も瞼を閉じたり開いたり、犬を追い払ったりしているうちに、ようやく色が分かるようになってきた。


 周囲は緑色。空は青い。影は短い……気がする。そして白い塊が近くをうろついている。うっとうしい。でも、どこにいるかが分かる。闇雲に手を振るう必要が無くなったので、確実に反撃できる。反撃と言っても、殴ったりはしない。捕まえたり押し返したり、その程度だ。


 だからなのか、何度追い払ってもこっちに来る。とてもしつこい。気が紛れてありがたい気もするけど、ここまでしつこいと嫌気がさす。


 まあ……こんな、何も無い、どっかの街道でひとりぼっち、と比べれば、こうやって犬に襲われてる方が良い、のかなあ。


「ワンワン!」


 わ、うるさ。


「ハッハッハッ」


 ……くそう、楽しそうにしやがって。僕の気も知らずに。この、このこの。

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