表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/197

12 受験します

今話もよろしくお願いします。

 王都での生活を変えようとしている。




 受験の申し込みも過去問の研究も何の問題も無く進み、それなりに余裕をもって試験の日を迎えることができて、いったい受験の意志を告げたあの日の緊張は何だったんだろうなあ、とぼんやり考えながら、少し前まで住んでいた街外れよりも若干暖かい空気を吸い込んで、試験会場へと向かった。


 待合室へと案内されると、既に座席の3分の1程度に受験生が座っていて、とりあえず空席を作らないように詰めて座り、受験生達を一通り観察してみる、が、やはりブランとノワールはいないようで、そんなに都合よく会えるわけがないよなあ、と少し残念に思いながらも、周りに倣って参考書を広げておく。



 受付時間が終わり、試験官から試験について、すでに確認したとおりの注意事項などが告げられ、呼び出されるまで待つことになり、何十分待ちかなあ、暇だなあ、と思いながら、この待ち時間中に速読技術を駆使して何度も何度も読んだ参考書の、速読9週目を始めようかなあ、なんて考えていると、隣の席に座っていた女の子がふらふらしているのが視界の端に映った。


 ちらり、と横目で顔色を窺うと、いかにも体調悪いです、と言わんばかりにマスクをつけ、真っ青な顔をして目も閉じていて、今にもイスから崩れ落ちそうで、どうしてこんなところにいるんだよ、馬鹿だなあ、いや馬鹿じゃないから風邪をひいてるのか、なんて考えて、気づけば咄嗟に手を出していた。


「きみ、顔色悪いけど、大丈夫?」


 小声で尋ねてみると、肩を支えているのでふらつきは治まったものの、閉じていた目をうっすらと開けるだけで、明らかに意識が朦朧としていて、もう一度、大丈夫?と尋ねたところで女の子の体から力が抜け、この子は不合格決定だなあ、もしかして僕も巻き添えかもなあ、なんて考えながら片腕で抱きかかえ、手を上げて試験官を呼ぶ。


「体調が悪そうだったのですが、たった今気を失いました。どこか休ませるところはありますか」


 駆け寄った試験官に告げるついでに女の子を両腕で抱き上げ、所謂お姫様だっこで待合室の出入り口へ向かうと、慌てて試験官が扉を開けてくれたのでそのまま廊下へと出て、そのままお姫様だっこで保健室まで運ぶことになった。


 それにしても僕って受験生なんだけどなあ、試験までに間に合うかなあ、早く戻りたいなあ、とぼんやり考えながら、気休め程度に回復魔法をじわじわと効かせて、荒かった呼吸がいくらか落ち着いて、顔色もなんとなく良くなったかなあ、ぐらいにまで治したところで、保健室に辿り着いた。


 後は養護教諭に任せてさっさと戻ろうとしたのに、彼女の症状を聞かせろ、と言われたら答えるしかないし、道中あまりに辛そうだったからつい回復魔法を使っちゃったことまで言わされるし、その証言の記録を取ったり確認したりでどんどん時間が経って、師匠ごめんなさい、不合格です、って心の中で呟いたところでやっと解放された。


「今回のことは、再試験を受けられるようにこちらで申請しておくから、安心しなさい」


 待合室まで戻る道中、微笑みながらそう告げてくれた試験官に、僕は神を見た。




 僕は合格した。


 どうやら再試験を受けるのはあの女の子の方だったようで、僕はというと、待合室に戻ったらすでに受験生全員が試験を終えて帰っていたから、そこには試験官が全員そろっていて、そんな場違いなところに僕が華麗に参上してしまったのだ。


 そこで集団リンチかなあ、ってぐらいに保健室と同じようなやりとりを強制され、続けざまにいろんな試験官が好き放題に質問しまくってきたけど、ベレフ師匠の荒唐無稽な発言に比べれば筋が通ってるから難なく答えられた。


 すごく体育会系な試験官が威圧的に質問してきたけど、ジュディさんの無言の圧力に比べれば怖くないから難なく答えられた。


 不愛想な試験官に淡々と質問されたけど、トッシュさんに比べれば優しい顔だし言葉が多くて分かりやすいから難なく答えられた。


 この試験のおかげで、僕の周りには極端な個性を前面にぐりぐりと押し出してる、変な人ばかりだったんだなあ、ってことが分かったんだけど、どうやら試験官には好印象だったみたいで、最後にはみんなで軽く雑談とか討論をして、笑顔で校門から見送ってもらった。


 どうしてこうなった。



 後日届いた合格通知には、新入生代表の挨拶を務めてほしい、とか書かれてて本当に意味が分からないし、ベレフ師匠はそりゃそうだ、私の愛弟子なら当然だ、ってにこにこしてるし、ジュディさんも嬉しそうでその日の剣の修行が心なしかちょっぴりキツかったし、トッシュさんも全く表情を変えないくせに、その日の外出では随分と財布の紐が緩んでいた。


 なんだかできすぎてて気味が悪いなあ、としか思えない僕はもしかして反抗期なのだろうか、いやそんなことはない、のかなあ。


 その日の夕食は、研究室に引きこもりすぎて、前回外に出たのはいつだったかなあ、ってぐらい引きこもってるベレフ師匠が、お祝いだ、って言ってすごく雰囲気のいいレストランを予約して、今まで食べたことのないような高級な食材を使ったコース料理を食べさせてもらえたり、久しぶりにお酒を飲んだ師匠がにへらっと情けない笑顔を見せてくれたりして、たったそれだけで、やっぱり合格できてよかったなあ、って思うんだから僕も大概だ。



「クリス、私の大事なクリス。私はずっと、君の味方だから」


 酔ったベレフ師匠はいつもよりのんびり歩くから、研究室まで連れて帰るのに引っ張り続けないといけないし、研究室まで戻ってきてからは、いつもより変なことを言いながら僕に絡んでくるっていうのに、ついうっかり仮眠室への侵入を許してしまい、追い出すのにとても苦労した。

ありがとうございました。

マッチョかよッ!いいえ、魔法です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ