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100 諭されます

 い、言ったぞ! 言い切ったぞ!!




 僕の問いを受け、腕を組み、難しい顔で首を傾げている。目を閉じて唸る姿をじっと見つめる。テッドの本音、聞けるのだろうか。言ってくれるのだろうか。じゃなくて、聞き出さないといけないんだ。これ以上、誰かが暴走して欠けてしまうのは非常に良くない。それを未然に防がないといけない。そのための質問だ。負けるなよ、僕……。


 しばらく唸っていたテッドが腕を解き、姿勢を正して目をゆっくりと開ける。真面目な顔をしたテッドと目が合う……って、あれ、ちょっと待てよ、テッドが真面目な顔をしている、ということは……。


「意外と……楽だよな……」


 ち、違う、違うよ、テッド、僕が聞きたいのはそういうことじゃないんだ。ああ、力が抜ける……その場に崩れ落ちるかと思った……そうだよね、テッドは真面目な顔で真面目なことを言わない人間だったよね、すっかり忘れていた。なんだろう、どっと疲れが押し寄せてきた気がする……。


「魔物は瞬殺だし、洞穴の中は暑くないし、むしろ快適だし」


 待機中に何も出てこないし、なんだかんだ順調だし、ていうか暇だし。真面目な顔でテッドが淡々と感想を述べていく。僕の質問の仕方が悪かったのだろうか。今回の探索のことをどう思っているのか……確かに、これだけならテッドの返答も間違っていないけど、話の流れ、というのがあるじゃないか。


「水には困らないし、灯りにも困らない――」


「エドとポールは……?」


 これ以上、はぐらかされたくない。言葉を遮られたテッドが口を半開きにしたまま僕を見ている。ド直球な質問をもう一度することになるだなんて……気が乗らない。乗らないけど、ちゃんと聞いておきたい。


「依頼してきたくせに、勝手なことを言ったりしたり、好き放題している2人のことは、どう思っているの?」


 うーん、我ながら酷い言い様だ。でも事実だし。瞬きもせずに固まっているテッドを見つめる。もうひと押し、しておこうかな……?


「予定通りにいってないところって、全部、あの2人が原因だし……」


 真面目な顔をしていたテッドの表情が一気に崩れる。悲しそうに歪められた顔で溜め息を1つ。そうして僕に歩み寄り、両肩に手を置く。悲痛な表情でゆっくりと首を振る。えーっと、何事でしょうか……?


「クリス、そういうことは言っちゃ駄目だよ……」


 あれ、間違えた? 僕、間違えちゃったよね、これ。テッドに諭されているよ? 陰口を言う悪い子を窘める善い子の図ができあがっているよ? そんなつもりじゃないんだけど……あれれ?


 間近にいるテッドを呆然と見上げていると、ゆっくりと目線が低くなっていく。どうやら膝を折って僕と目線の高さを合わせてくれているらしい。これは……説教、されちゃうの? じゃなくて、えっと、違う、こんなはずじゃ、待って、なんで、え、どうしてこうなった……?




「うーん、正論だったよね」


 あの後、妙に優しい言葉で、言い聞かせるようにゆっくりと、悪口についてテッドが語り始めた。その言葉がどれだけの人を、どれほど傷つけるか……そんな、そんなことを聞きたいんじゃないし、分かっているから、やめてくれ、テッド……! そんな僕の悲痛な訴えもなかなかテッドに届かず、むしろ余計に諭され……なかなか話を聞いてもらえなかった。


 どうにかして僕の主張を聞き入れてもらい、互いの認識の違いを正せた頃にはかなりの時間が経っていた。探索の時間が既に半分ほど終えている。惜しいことをした、けど、僕の質問の仕方が悪かったんだ、自業自得なんだ……とにかく、僕が本当に聞きたかったことについて、やっと聞けるようになった。


「やっぱり場所が場所だし、俺もそれなりに緊張していたから」


 まずは、エドについて。友人として依頼を受けたレジーとテッドに対し、冒険者として依頼をしたエド。すれ違いから笑えない喧嘩になりかけたけど、テッドはそのことをどう思っているのか。まだエドが許せないのか。


「あの時はこんなに楽だと思ってなかったし」


 笑いながら頬を掻くテッド。いったいいくらで依頼を受けているのかは知らないし聞く気も無いけど、やはり相当安くしているのだろう。その金額に見合わないほど、今回の護衛はかなり厳しいものになる……と思っていた、らしい。


 ところが実際に北の山脈まで来てみれば……予想以上に、楽。割に合わないと思っていた依頼が、かなりお得なのでは、と思える事態。だとすれば、怒ってしまったのがむしろ申し訳無い……そんな心情のようだ。


「でも、そんなに甘くないよね」


 そして、ポールについて。まさかの暴走、そして気絶。探索に割ける人数が減ったというのに、遭遇する魔物の数は減らない。1人あたりの負担は重くなり、ポールが目覚めたとしてそれが負担の軽減となるか、増加となるかはまだ分からない。


 北の山脈に対する認識が甘かった。確かに想像していたものよりも楽ではあるが、予想外の事態が多い。体力面に余裕はあるものの、精神面の余裕は……テッドはまだしも、レジーは? エドは? それを思うと、楽観的になりかけていた自分に対する怒りが湧いてきた……それが、僕が感じ取ったテッドの怒りのようだ。


「気、引き締めないとな」


 ぐっと拳を握り、鼻息荒く宣言する様子は、嘘を吐いているようには見えない。よかった……テッドがブチ切れて仲間割れ、みたいな最悪な状況になるんじゃないかと思っていたけど、大丈夫そうだ。というか、僕が気にしすぎていただけ、かな。


 ちょうどテッドとの話が終わると同時に、複数人の足音、話し声も僅かながら聞こえてきた。恐らく、探索組が帰ってきたのだろう。土魔法で作っていた椅子から立ち上がる。テッドも気づいたようで、洞穴の外へと様子を見に行く。


 これから昼食を挟んで、エド、テッドと一緒に3回目の探索、か。頑張ろっと。

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