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 どうも、頑固者です。




 1人欠け、2人が不仲の気まずい雰囲気での長距離行軍。唯一の救いはみんなのおかげで戦闘を最小限に抑えられたことだ。ただ、最小限であって、ゼロではない。北上すればするほど僕の監視網に引っかかる外敵は増えたし、さらにはアルの光魔法を避けて接近してくる魔物まで現れ始めた。


 それでも、はっきりと姿形が見える範囲まで近づいてきた魔物はレジーとエドによって瞬殺された。この前の試合がどれだけ本気でなかったのかがよく分かる瞬殺ぶりだった。


 まずエドが魔物を地中に埋める。そしてレジーが首を飛ばす。いつの間にこんな見事な連携ができるようになっていたのかと感心するほどに速く、正確に、綺麗に首が飛んでいった。時々エドの魔法を避ける魔物もいたけど、レジーが必ず止めてくれる。そしてエドがトドメを刺す。やっぱり見事な連携だった。


 次々と視界に現れる首に死体に、血飛沫と血溜まり。仮にポールが気を失っていなくても、この光景を見続けていたらどちらにせよ倒れていたかもしれない。


 そのポールはというと、結局目を覚まさなかった。うなされていたり、脈が弱まったり、ということは無いので心配はしていない。しかし、何が原因で眠り続けているのだろうか。まあ、なんとなく、その原因に思い当たってはいるけど……。


 そんなポールを背負い続けていたテッドの表情は優れなかった。レジーとエドの戦闘を見るその顔は不満気で、つまらなそうで、戦闘が終われば笑顔で出迎えるけど、それはレジーだけで、エドには話しかけないで……まさかここまであからさまな態度を取るだなんて、驚いた。


 レジーとエドも気づいてはいた。あからさますぎればレジーがそっと注意していたし、エドから話しかけてもいた。しかし、テッドもなかなかの頑固者なようで、ちっとも態度を改めそうにない。どうやらもうしばらくこの気まずい雰囲気は続きそうだ。


 ところで、どうしてアルはここまで周りの雰囲気に無関心でいられるのだろうか。僕はこんなにも心中穏やかでないというのに……そんな僕の視線に気づく度に、アルは心底嫌そうに顔を顰める。さすがの僕でも怒りそうだ。何度木魔法で足元に草の罠を作ってやろうかと、こけさせてやろうかと思ったことか。僕の寛大な心に感謝してほしい。



 あの巨鳥との遭遇以外で特に危険な目に遭うこともなく、僕らは無事に北の山脈の入口に、さらには目的地であった洞穴にも辿り着けた。その洞穴が魔物の巣になっていたり、白骨化している遺体が散乱していたり、なんてこともない。1日目は概ね予定通りに終えられそうだ。


 手際よく野営の準備を進める2人と、手伝う1人と、サボる1人。そんな4人の姿を視界の端に入れつつ、未だに目覚めないポールを見る。洞穴の壁を背に眠る表情は穏やかだ。その隣に腰かけつつ、焚き火の炎に照らされるお綺麗なお顔をじっくりと観察する。うん、よく寝ている。


 銀色の巨鳥と対峙していた時の様子を思い返してみる。雷魔法を纏い、爆発的な加速で巨鳥へと飛び込んでいた。その表情はさながら戦闘狂のように歪んだ笑顔。その後しばらくは放心状態で何を言っても反応せず、ようやく会話ができたかと思ったら気を失った。


 まるで……僕じゃないか。無理して魔法を使い、その間はすごく好戦的になる。そして魔力を消費しすぎた反動で視力や聴力が麻痺する。最悪は失神。僕だけの症状だと思っていたけど……まさか、僕以外の人間が、それもポールが同じ症状に陥るなんて……。


 予想外すぎて気が動転してしまったけど、僕もああなっているってことだよなあ……周囲の人間の立場になってみて、どれだけ心配させてしまうのか、というのをこれでもかってぐらいに理解した。


 放っておけばそのうち治る、というのは僕が身をもって証明している。しているけど……ポールも、治るのだろうか。


 ちなみに僕が野営の準備を手伝っていないのはポールの様子を見るためであってサボりではない。僕はアルとは違う。


 レジーは様子を見ていてくれ、と言っただけだったけど……できれば、治してあげたいなあ……要は魔力がカツカツなんだから、魔力を補充してあげればいい。たったそれだけの話だ。


 言葉にするなら簡単だけど、どうやって補充するというのか。どれだけ補充するというのか。成功すれば目を覚ますけど、仮に失敗したら……? 気を失っている相手にこんな実験紛いのこと、するもんじゃない。でもなあ……。


 それよりも、まずは魔力がどれだけカツカツか、というのを明らかにしていないと何もできない。つまり、魔力が見られれば……よし、本日2度目の挑戦をしようじゃないか。


 前回と違って落ち着いて集中できるし、意外とあっさり成功しちゃったりして!




 そう思っていた時期が僕にもありました。


「声かけてよ……」


 隣にはいつもの爽やかな笑みを浮かべているポールが座っている。


「ごめんね。すごく集中していたから、邪魔しちゃ悪いかと思って」


 魔力を見ようといろいろと試行錯誤していた。最初は集中するためにも、見えるものに影響されないためにも、目を閉じてポールの魔力を探っていた。しかし、いくら集中しても、気配はするというのに魔力の量や位置を明確に捉えられない。


 じゃあ位置だけでも五感に頼ろう。そう思ってポールの手首を掴んだ。最初は片手で、次は両手でポールの手を包み込み、最後は祈るかのようにそのまま額に当てていた。それでもやっぱり魔力が見えない。諦めかけて目を開ければ、困ったように弱々しい笑みを浮かべて僕を見ているポールが目の前にいた。


「元気そうだからいいけど……」


 驚いていつから起きていたのかと問えば、僕に手首を掴まれた辺りからだと言う。だいぶ前から起きているじゃないか! 僕の謎の儀式をずっと見ていたのか! 恥ずかしい! 僕が羞恥心に苛まれている間にエドが気づいて駆け寄ってきて、レジーも様子を見に来てくれた。


「ご迷惑をおかけしました。まさか半日も気を失ってただなんて……本当にごめんね」


 体調は、気分は悪くないか、食事は摂れそうか。本来僕がすべきであった質問をエドとレジーがしてくれた。ここはどこか、今何をしているのか、どれだけ気を失っていたのか、その間何があったか。そんな話も2人がしてくれた。僕は隣で羞恥心に苛まれていただけだった。


 苛まれてはいたけど、その代わりに気づいたこともある。エドとレジーが意識的に避けていた話題がある。あの銀色の巨鳥の件だ。その時のポールの様子を僕から聞いていたからだろうけど、何があったのか、一切触れなかった。目覚めたばかりだからなのか、それとももう聞く気は無いのか、どちらだろう。


「おーい! お2人さーん! ご飯ですよー!」


 テッドがいつも通りの満面の笑みで両手を振っている。ご飯とは言うけど、匂いが出るから料理はできない。待っているのは携行食ばかりの味気ない食事。悲しい。だからこそのあの振る舞いで、みんなで一緒に食べることにしているんだろうけど。返事をしながら立ち上がり、隣で座ったままのポールに手を伸ばす。


「ねえ、クリス」


 僕の手を取りつつ立ち上がったポールは真剣な表情をしていた。


「話したいことがあるんだ」

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