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92 張り詰めます

 僕が悪かったんで許してください……。




「魔物、か」


 レジーが目を細めて北の空を睨みつける。みんなの視線も旋回している鳥の影へと向けられる。僕はまだテッドに後ろから抱き着かれている……。


「言われてみれば、確かに大きいよね」


「それでも、断言するには……まだ、早くないか」


 ポールとエドが呟く。うん、その通りだと思う。影が大きいだけだからね。この距離じゃ体毛の色までは分からないし、魔法使っていたりとか、明らかにおかしな挙動をしている訳じゃない。魔物だとは言い切れない。でも。


「山から飛んできたんだろ? なら魔物だろ」


 フードを被り直したアルが腕を組んでつまらなそうに言う。そう。短絡的ではあるけど、山脈に生息していた生き物だ。普通の野生動物とは考えづらい。あの環境は、普通の野生動物には酷すぎるはずだ。


「じゃあしっかり警戒しましょ、ってことでいいのかな?」


 テッドが体を左右に揺らしながら尋ねる。僕も一緒に揺れている。止まってくれないかな。それか、離れてくれないかな……。


 そうだな、とレジーが相槌を打つ声が聞こえる。今まで通りに追い払った方がいいの、とアルが尋ねている。レジーやエド、ポールがいろいろ話している。うう、テッドに捕まっているせいで話に入りづらい……。


「ね、クリス」


 頭の後ろからテッドの声が聞こえてくる。何でしょうか。


「みんなを頼っていいんだよ」


 ……うん? そりゃ……そう、そっか、先走るな、って、そういうことだよね。さっきの僕は、独断で、みんなに何の説明もせずにいきなり魔法を使おうと……。


「リラックス、リラックス」


 テッドが体を左右に揺らす。また、僕も一緒に揺れる……うーん、僕、緊張していたかな。みんなの方が緊張しているように見えたけどな。ははっ、と耳元で笑い声が聞こえる。


「もーちょい、力抜いて、適当にね」


 クリスったら、過保護なんだから、と続けられる。過保護……。


「みんな、戦えるんだからね」


 う、うん……。



 移動が再開する。もちろん僕もテッドから解放されて、アルの隣を歩きながら索敵を続けている。索敵をしつつ、テッドの言葉を考える。過保護か……。


 索敵自体はこの探索以前から、依頼を手伝っていた時からやっていた。今日も最初からいつも通りにやっていた。それで、野生動物の気配をテッドに告げた時、テッドよりも先にアルが動いた。アルが光の球を飛ばし、野生動物を追い払った。僕もテッドもアルの予想外の動きに面食らったけど、テッドがいちいち跳んでいくより早くていいか、とアルに任せることにした。


 アルの光魔法は便利だ。正確な距離が分からなくても、外敵の正体が分からなくても、方向さえ分かっていればどうにかなる。目眩しのあの強い光を見て逃げなかった外敵は今のところいない。直接見なければ僕らには何の被害も無い。


 アルも発動させる場所に気を使ってくれているのだろう。何度も追い払っているけど、逆に僕らが目を眩まされたとか、こっちに逃げてきて戦わざるを得なくなったとか、そういった問題は一度も起きていない。


 光魔法が得意なアルだからこその、この対応。そして、身体強化以外の五感の強化のような補助魔法が一番得意で、魔力を察知できる僕だからこその、この索敵。


 みんな戦えると言っても、索敵を疎かにすれば対応が遅れるし、そうなると戦わないといけなくなる。戦闘は疲れるだけだし、避けたい……そう思っていた。さっきの巨鳥も、僕が一番魔力が多いから、魔法を遠くまで撃てるだろうから、それですぐに終わらせられるなら、って……。


 ここまで考えて、ようやく気づいた。僕、魔力が多いからって、少し、傲りがあったのかな……チャコとアッシュさんと話した影響があるのかもしれない。試合で本気を出したレジーを上回った影響もあるのかもしれない。


 チャコじゃないけど……強いヤツが、弱いヤツを、護る。僕が、みんなを、護る。そうすればいい、なんて思っていた、のかな……。


 視線を上げる。山麓でゆっくりと旋回する、巨鳥。まだまだ距離はある。まだ、あの鳥が僕らに何かをしようとする様子は見られない。


 みんなを頼る。力を抜いて、適当に。テッドの言葉を反芻する。本当に、それでいいのだろうか。いまいち腑に落ちない。でも、過保護なのは間違いない。みんなを頼っていない、確かにその通りだ。その通りだけど、適当って、どうなの。力を抜くならともかく、適当というのは……違うよね?


 忍び寄る魔物の息遣いに神経を尖らせつつ、テッドの短い茶髪を睨みつける。




「止まれ」


 レジーの低い、鋭い声が響く。みんなが足を止める。レジーが背負っていた大剣を手に取る。


「動きが変わった」


 視線を上げる。巨鳥がこちらに飛んできている。でも、それだけじゃない。


「アル」


 そっと、囁く。


「何だよ」


「囲まれているみたい」


「……は?」


 クソ、やられた。思わず歯嚙みする。魔物の位置が分かったらすぐにアルに追い払ってもらっていたのが裏目に出た。ずっと気配がするとは思っていた。まさか、位置を特定されない距離を保ちつつずっと並走していただなんて。


 魔物が……よく頭が回るみたいじゃないか。人間と知恵比べ、ってか。そんなことができるだなんて、聞いてないぞ。ふざけやがって。


「おい、クリス……」


 何体いる。どこにいる。隠れてないでさっさと出て来い。それとも……僕に、見つけてほしいか。


 かくれんぼか。それともおいかけっこか。面白いね。鬼は……僕だよね?

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