April √B
ーーそういえば昨日、幸助にジュースおごるって約束したなぁ。買いに行ってくるか。
中庭の端の暗がりにある自販機。校舎と校舎の間にあるため、吹き上げるような強い風が吹く。今日はおとなしそうだが。
「りんごジュース、と…爽太のも買って行ってやろう…。」
「透くん?」
「はいっ!」
ピッ、ガタン。
「あ…」
とりあえず、自販機から出てきたものを取りだす。
『ミックス牛肉玉ねぎミルク』
「……。」
「あの、透くん?」
「あ、ごめん、神城さん。」
「そのジュース…すっごいまずいってウワサだよ。みんな一本飲みきれるか競い合ってるんだって。」
「へぇ。」
「もしかして透くん、挑戦?」
「幸助…あー、友達にあげるやつ。」
「なにそれ、ちょっと可哀想。」
そういって、昨日のことなんかなかったような雰囲気で楽しそうにしゃべる。僕もつられて、いつの間にか自然に話せていた。
ーー今なら聞ける。
「でさ、昨日のことだけどさ…。本当は何か言いたかったんじゃない?続き聞かせて欲しいな。」
突然口を閉じる彼女。
「言ってくれた方が僕は気まずくないからさ…。」
顔を上げて、僕を見つめる。彼女の美貌に僕が目をそらしそうになったが、我慢だ。
「あのね…私たち、昔会ってるんだけど…覚えてない?」
「えっ…」
「透くんのお父さんが…その時だと思うんだけど…。」
ーーそんな気がしなくもないが…
僕は首を横に振る。
「そっか、覚えてないよね!短い間だったしね!それだけだったからさ、言わなかっただけだから。」
五時間目の始業五分前のチャイムがなる。
「じゃあ、神城さん。教室戻るけど…。」
「あ、私ちょっと先生に呼ばれてるから。そのジュース…どうだったか聞かせてね!」
黒髪を揺らし、校舎の中へ。
教室に戻ると、幸助と…爽太が。どうやら、20分間で仲良くなったようだ。
「昨日おごるって言ってたジュース買ってきたよ。爽太にも、どうぞ。」
「あぁ、ありがと。」
「おー!サンキュ…って、何だよこれ!」
「え、幸助こういうの好きかと思って…」
「クソまじぃってウワサのやつじゃん!俺が好んで飲むと思ったか?」
ーーよく言うよ。昼、納豆唐揚げマヨおにぎり食ってたくせに。
「それ飲めば君、勇者になれるんじゃない。」
爽太が自分から喋った。大きな進歩だな。
「試してみるか…りんごジュース少し残しとけよ!」
缶からでる茶色く濁ったものが、幸助の口の中へ吸い込まれてく。
「…おい…。みんな何言ってんだよ。うめえじゃねえか!」
僕と爽太は「おぉ」とその姿を眺め、『ミックス牛肉玉ねぎミルク』は全て幸助の胃の中へ…。
「よっしゃあ!これで俺は、学校の勇者へ昇格だ!」
いつの間にかクラス中から歓声が湧く。
爽太は微笑を。
そして、小さな勇者はその日に校内のウワサの元となった。
桜の木も桃色から緑色へと染まり、春が終わろうとしているーー
▽次回
「May」
何話かまとめて掲載するので、毎回間が結構空くかも知れませんが、楽しみに待っていて欲しいです。
それと、バッドエンドは主人公達のちょっとした設定が分かるので、バッドエンドに行ってしまった方でもお得な感じになります。行かなかった人も、時間があれば読んでみてもいいかもしれません。
これからも、よろしくお願いします!