恥ずかしがるくらいなら、クサいセリフ言わなきゃいいのに
珠樹と花蓮がちょうど一室で話をしている頃。渡海・葉菜夫妻もまた、会していた。
「…珍しいですね」
「? 何がだ?」
「珠樹さんのこと」焼酎に入れた氷が融け、カランとグラスを鳴らす。「ずいぶん、気に入っているようではありませんか」
花蓮が友人を連れてくるのは、今回が初めてのことではない。何度も新しい女友達を、少数ながら男友達も、招いたことはあった。人付き合いをしていく上で、絶望的とも言える障害を抱えた愛娘。そんな我が子に関わろうとしてくれる者がいるのは、素直に喜ばしい。…現在、花蓮の周りに友人と呼べるモノがほぼほぼいないということは、彼らではダメだったということなのだが。
渡海が、花蓮の連れてきた友人に初対面で事情を話したことは、一度もない。相手によっては、その場で帰ってくれと突っぱねることもあった。まあ、そういう連中は顔に下心がモロ出ていたなど理由があるとはいえ、だいたいが歳上の男だった。その辺りから葉菜は、渡海が珠樹を気に入った、と判断したのだろう。
「司波のトコの双子と同じようなものを感じてな。あいつらはこのところ忙しいみたいで見ないが」
「佑陸くんと睦海ちゃんですか。お二人共、優秀な術士ですものね」
「…ずっと、変わらず花蓮を気にかけてくれているのなんて、あの子らだけだった。今日知り合ったばかりの珠樹を重ねてしまうのは、俺にもよく分からない。でもな、何かを感じるんだ。単に、神樹の英雄に似ているから、そう感じるだけかもしれない。けれど、充分だろ? 目に見えない障害を打破するのは、いつだって、目に見えない想念なんだからよ」
そこまで言って、一息にグラスを空ける。流しに寄ってグラスを片し、ドアノブに手をかける。
「明日もあるから、先に寝る。悪いが、後片付けは頼む」
「はい、お疲れ様でした。おやすみなさい」
とは言うものの、片付けを頼むとわざわざ言い残すような量ではない。どのみち、すぐに寝室で会うのだ。
しょうがない人、と微笑みながら、もう一杯だけお酒を注ぐ。
「……恥ずかしがるくらいなら、クサいセリフ言わなきゃいいのに」
そういう、意外とロマンチストなところも嫌いじゃないんですけど。