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桜井さん その2

 桜井と待ち合わせしているファミレス。ファミレスの駐車場を横切り、店の入り口で待機している人影を由樹は見つけた。

 低い背丈にこの辺で有名な進学校の学生服を着ている男が立っていた。それが桜井だった。

 桜井は学生ではないが学生服を着ている。実年齢は17でいまだに高校生活をしていなければならない年齢である。

 だが学生ではない。本人曰く学校は辞めているだそうだ、なので学生ではない。

 しかし、夜更かしをして朝方学校にも行かずにウロウロとしている。そういうどこにでもいる青年だ。

 桜井は外で待っていた。いつもどおり不満そうな顔をしている。

 桜井が不機嫌なのはいつもどおりだ。

 よくある元から顔がこわいせいで機嫌が悪くないのに不機嫌に見えて友達が出来ずに悩んでいるタイプ、というわけではなく四六時中本当に不機嫌で不機嫌な顔をしている。

 『日常の些細なことがいろいろと気に食わないだけで改善する気はないから触れるな』と本人いわくの台詞。

 不機嫌顔のことに関しては桜井の中ではタブーだ。

 「おい、まずは謝れ」

 「すみませんでした。反省してます」

 「とりあえず許してやるよ」

 許してやると言っている顔は不機嫌だ。

 「許すという割には顔不機嫌ですが――」

 「あたりまえだろう、触れるな。殺すぞ」

 由樹が表情に触れると、なおのこと不機嫌な顔をして桜井は先にファミレスへ入ってしまった。表情のことに関してはタブーなのだ。

 何も言わない褐色の美女を連れ立ってファミレスへ入る由樹。

 「ふた、……三人で禁煙席」

 誰もいない虚空にむかって話しかける桜井。由樹の目には映らないが、ウェイトレスのガガイモに話しかけているのだろう。

 透明なウェイトレスに案内されてそのまま禁煙席へ。桜井と由樹は向かい合って座り、褐色の美女は由樹の横に座る。

 虚空を見て『サラダバーとステーキセット』とつぶやく桜井。

 「お前は?」

 桜井からメニューを受け取りサラダバーだけ頼む。

 「なにか食べる?」

 横にいる褐色にメニューを渡すが受け取ろうとはしない。彼女は真正面を向いたままメニューにも由樹にも目もくれない、もちろん桜井も見ていない。

 沈黙。

 「……以上で」

 美女の前にあるメニューを閉じる由樹。

 「で、誰?」

 褐色の美女に指をさして話をきりだす桜井。単調直入な質問。

 「昨日の夜、目の覚めるような褐色の美女がトイレから飛び出してきて国家権力の手を借りて排斥しようとしたのですが、機能せず主に羞恥心に訴えかける形で退場を願ったのですが、それも叶わずなんやかんやあって昨日はドタキャンしてしまいました。腹減ってるんでサラダ取ってきます」

 「まてぇ」

 サラダバーに向かおうとする由樹を止める桜井。

 『座れ』とテーブルを指差し座らせられる。

 「よくわからないからちゃんと説明しろ」

 ごもっともだと思い、観念して昨日のあらましを説明した。

 不機嫌な顔で聞いている桜井。説明していくたびに徐々に不機嫌になっていく。

 「なるほど。わかった。この今なお真正面を向き続けているこの女は人間だがお前のガガイモなんだな」

 「暫定的ですがそうです」

 「どうする気だ?」

 「どうもする気はないというかお手上げというか」

 そうこうしている間に頼んでいたステーキセットが届き、由樹もサラダバーで山盛りの野菜を皿にもり、黙々と食べる。

 『一つ提案なんだが』と不機嫌な顔をもっと険しくして話し始める桜井。

 切断したステーキを咀嚼しながらフォークを由樹にむけて一言。

 「抱け」

 「は?」

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