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白い世界 その3

 昔のことを思い出す由樹。

 このことを知っているというのだろうか。

 試しに概要をつまんで話してみると褐色本人は興味深く体験談を聞くというよりもなぜだか実際そこに居合わせたかのような態度で時たま由樹の話に訂正を入れてきたりもしていた。

 由樹が疑問がっても『いいから続けて』とうながされて最後まで話し終えた。

 思い出話というか振り返りを話した由樹。

 まだ褐色の言った言葉に疑問はある。

 ガガイモがこの事件を境に見えなくなったということだ。

 「確かに一度外に出たことはあるが魔王はずっと見えなかった。出る前も後ももしこの出来事を境にしているはずならその前から見えているはずだ」

 恐ろしく巨大で建物を崩壊させているのだから視界に捉えられないはずはないのだ。

 「それは単純に見えていたとしても人間と捉えていただけの話でしょう」

 「いやそれこそおかしい。ガガイモなんて人目でわかるじゃないか、寝ずに働けたり食べ物を食べなかったり言葉をあまり話さなかったり定義はそれこそいろいろある」

 「定義がいろいろあるのに特定なんてできるんですか?」

 「は? 数多くの定義があるんだから当たり前だろう」

 「例えば食事をしないというガガイモの定義があります。ですがガガイモは食事を出来ないというわけではありません。口もあれば歯もあり消化器官もあり排泄物を出すこともできます。例えば仮にずっとモノを口にしなかったガガイモがいるとします。ですがそのガガイモは誰も人目につかないところでモノを食べていたらこれは人間でしょうかガガイモでしょうか」

 「え、えーとそれはガガイモの前提である自分から行動しない原理にそぐわないから人間じゃないのか?」

 「ではガガイモの基本的な行動でもある、何も言わないのに後ろをついてきたり、所有者がいないところで仕事が出来たり、いつも通う通勤でトラブルがあってもちゃんと出勤できたり、突然話し出すのは、ガガイモの定義に反するのではないですか」

 「え、だって、ガガイモとは…………」

 由樹は定義を説明しようとして思考が停止していくのを感じる。

 「わかりましたか。ここまで定義があいまいで数が多く区別がつかない生物を見ただけで定義付けすることは不可能だということがわかりましたか、それこそ自己言及のパラドックスやゲーデルの定理のようなものです。研究が進んでいないのもこれに原因があります。実験したところで人間にはガガイモを見分け指標すらないから。誤って人間を調べてしまうことがあるから。だからこそ魔王は高値で売れるんですよ。仮に人だったとしても実験が不利益に運ぶことはない。超人的能力の解明ができるからです」

 「なるほど、でも魔王はさすがに見た目だけでわかるだろう。物凄く大きいんだぞ。2、3メートルくらいなら人の可能性はあるが優に何十メートルもある。そんな大怪獣を人として捉えるほうが難しいだろう」

 「だから見たんですか、巨大な魔王を」

 「見た」

 「……あなたが見たのは瓦礫と粉塵それと地鳴りのするような足音と咆哮。それだけのはずです」

 「いやいやいや、確かに見たって強大な恐竜のようであり蜘蛛のようであり結構前の記憶だが――」

 「石橋さん」

 「ん?」

 「そこまで言ってあなたはまだ自分の矛盾点に気づいていないんですか?」

 「は? なにが」

 「ガガイモを見ていないはずのアナタがガガイモである魔王の姿を見たことがあるといっているんですよ?」

 「え、……あれ、あれ……」

 魔王を見たことはある。四肢が大きく強靭な歯を持ちビルを粉塵と瓦礫の山にあっという間に返る化け物。

 ビームも出せるし怪光線撃てる。かと思えば人間を器用につまむことができるし繊細な作業も出来る。

 石橋由樹はガガイモを見た。

 だが石橋由樹はガガイモを見たことがない。

 いたとしても透明で捉えることはできず、音も聞こえない。いくら叫ばれても怒声を浴びせられても会議室に三対一でいたとしても見えず聞こえない。

 自分のガガイモもそうだ。見えないからいるかはわからないが反応が仮にあったとしても気づかない。それに有益なことも不利益なことも起こっていないからいないのだろうと定義していた。

 石橋由樹はガガイモを見たことはない。

 見たことあるは見たことがないであり、見たことがないは見たことがあるである。

 混乱する。

 理論立てていけばいくほどに思考は泥沼へと。

 底なし沼のようにもがけばもがくほど外へと解答へといけない。

 「答えはその脱出をしてまた地獄に戻れたという事実とこの白い世界にあります」

 真っ白な世界。

 「最初は魔王だけだった。見ることで恐怖していた、その感情を抑制するためだけに生み出されたアナタのガガイモ。しかし干渉する力は大きくなり他のガガイモも見えなくなった。その干渉能力は徐々に広範囲になり、魔王が今まさに魔王となろうとしているときにピークに達した」

 褐色は突然地面を蹴り上げた。

 地面が歪んで波になりその波が回りに広がっていく。色彩が生まれてはじけ飛ぶ。褐色踏み出す足から色が広がり今度は地面をたたく。

 「見えないということは阻害するということ!。物体を捉える光を阻害し伝える電気信号を阻害し果ては見ているはずのもの、認識したものまで阻害されている!」

 たわむ地面。波打つ白いアクリル素材。

 「見えないと怖い!。認識していないと恐ろしい!。恐怖心が虚像を生みそれが現実、真実だと錯覚する!」

 褐色は叫ぶ。

 「世界は滅んではいない!!」

 音も無く崩壊していく白い世界。瓦解していく天井。

 「この白い世界は魔王に恐怖したアナタのガガイモが作った最後の逃げ道。永劫の楽園。永劫の地獄。抜け出すにはアナタが本当に魔王から立ち向かわないとダメです」

 「……魔王を俺が倒せっていうのか?」

 「そうです。打ち勝ってください。チャンスはこれっきりです」

 褐色は発光する。目も眩むようなまばゆい光で由樹は目を開けられずに光が収まったときには世界が変わっていた。

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