回顧 その6
「…………俺は嫌です」
自分のたったあの一言があの山を隔てた内と外で地獄を作り出しているその事実は由樹の心に冷たく突き刺さった。
それがその傷が痛みが由樹の中で決意に変わった。
「桜井さん、でしたっけ。提案があるんですが――」
そうして出来たのが桜井は外で由樹は内で魔王を滅ぼすという計画だった。
由樹がガガイモとして制御し桜井は外から魔王討伐するための方法はないか探ってもらいつつ、もし仮に由樹を含めた中にいる人たちが力尽きた場合の魔王の処理をお願いした。
そうしてその日から魔王への討伐作戦はスタートした。
とは言っても具体的に何をするかというのは絶望的な方法しかなかった。
ガガイモであるのであれば魔王を制御するしかないが、逃げ惑う人たちに立ち止まって意識統合をさせることすら難しいともいえる。
状況は絶望的。
何から始めていいかもわからず、たった三日で俺はあの地獄に戻ることにした。通信機器と食料を持って山頂まで来る。
外にいる人たちもここまでは来るがこの先にはいかないらしい。
ここからは山道は下りだが、途中で道路が闇に覆われている。
その闇の奥だ。見えない。昼間だというのに全く見えない。光源にまで干渉しているようだ。真っ暗だ。これでは外で観測することもできないはずだ。情報が得られないという話もこうした様々な干渉があるのだろう。
「魔王を見ていないと地鳴りすら聞こえないんだ。目の前に広がるあの闇。無音でも怖いね」
桜井は山頂でその深遠のような闇を見ている。
こんなに近くに来たら嫌でも聞こえる、地面を人を蹂躙している音。これすら他の人間には認識できないのか。
「私たちには聞こえます。姿は見えませんが……」
「ええ」
「じゃあまずは我々一般人に見えるところから始めてください。課題です。それに電波環境もでしょうか」
まずは目標が出来た。
正直無謀ではある。だが内からの情報を外に持っていかないことには打開もできない。
肉眼で外から見えるように、言葉が外へ届くように。
今からあの闇の中へ入る。
足を踏み出そうとした由樹は体が震えていることに気づいた。
ここから震えて一歩も動けない。
「桜井さん、とりあえずしてほしいことがあるんですが、突き落としてくれますか。……さすがに足が動かなくて――」
由樹が言い切る前に桜井の蹴りを背中から感じる。ためらいはなく深く背中に突き刺さりそのまま弓なりで落ちていく。
「たぶん入れないとは思いますがね」
桜井の言葉が遠ざかり由樹は地獄に降り立った。
闇に深く沈みこんだつもりだったがすぐに下る山道に着地して奥へと進んでいく。
見えてくる瓦礫と悲鳴。
魔王を制御できるようになったあと、桜井さんから聞いたがあの闇に飛び込もうとしても誰も中に入れなかったそうだ。川口昇もその他の外から出た生還者もなのですんなりことが運ぶこと事態がびっくりしたと本人の口から告げられた。
元々無茶な計画で案もなかったので入れないと伝えるようも入れないことを見せたほうが早いという考えだったらしい。
ただ、由樹は入れてしまい『残念ですね。別の手を考えましょう』と提案する目論見は潰えたというわけだった。
その結果ほぼほぼ何もできないまま、銃での凄惨な殺人事件や制御を練習しているときにしていたビームなどという経緯を経て、魔王の呪縛が解けるまで由樹が食料を運び、制御になれてきた今でも魔王の風当たりは強いために皆はあそこに閉じこもって生活していたというわけだ。
それが一年の全て。だが川口結によってその一年もフィナーレを迎えた。