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出会い その5

 「あー」

 絶望的だ。

 もう一度顔を見る、やはり変化はない。

 と、思ったが美女はプルプルと動いている、小刻みに動いている。

 動いているというよりは震えている。突然カタカタと震えている。

 「……ん?」

 震えが大きくなる。

 「な、なんだ。モールス信号的なアレか、振動でわかるのか? 俺にはわからん」

 由樹はなんだかわからず困惑する。

 顔を見ると目が真っ赤だ。

 充血したように真っ赤になっている。

 数秒後、涙を流す彼女。

 「え、なに、え、え、俺なんかやらかした?」

 包丁を投げるぞと脅したり、半裸でビールジョッキを股間にあてがって踊った以外思い当たる節がない。

 「いや思い当たる節は大いにあったが、それが原因ではないだろう」

 そう思いたいと心でつぶやく。

 美女はいまだプルプルと小刻みに震えている。涙も流れて胸元まで落ちている。雫が天井の照明で光って流れる。

 「え、ほんとになんなの……」

 困惑していると、一つ思い当たることがあった。

 「訂正する。思い当たるのは一つではないが、確信した」

 目からあふれ出る涙。充血し始めた瞳。涙を流しているのにそれをぬぐうことはない。

 そしてまぶたを閉じることも無い。

 彼女は一回もまばたきをしていない。

 由樹と出会ってからずっとまばたきをしていないことに気が付いた。

 「なに、なんなの? まばたきぐらいいいじゃんか。もうバレてるから人間なのバレてるから。まばたきしてもしなくてもガガイモとして認めないから最初から」

 そういっても彼女は徹底している。

 震えは無意識で行っているのだろう。涙をだらだらと流しながらこちらを見ている。

 まばたきは一回も行われていない。

 「まばたきしろって! 涙が出るのはしょうがないだろ、生理現象だから! 人間だから、仕方がないよ!」

 彼女は頑なだった。

 自分はガガイモなんだ。まばたき一つしちゃいけないんだという強い意志を感じる。プルプルと震えてはいるが。

 「なんでそんな強固な俺ルール、貫いてんじゃねぇよ!!」

 叫びながらティッシュをちゃぶ台に置き、物凄い勢いで外に出る由樹。

 扉を閉める。

 「見てないから涙拭け。タオルは戸棚に入ってるから好きなの使っていいから」

 扉越しに彼女に話しかける。聞こえただろうか。

 声量が小さかっただろうかと不安になるが、数秒後どたばたと部屋から足音。

 どうやら台所まで走ってきたようだ。蛇口をひねる音にシンクに水が落ちる音が聞こえる。

 バシャバシャと水音が聞こえてくる。どうやら一人の女性をドライアイの魔の手から救ったようだ。

 「まばたきはちゃんとしないと駄目だぜ……」

 かけていない架空のサングラスを外して柄を噛んで虚空を見る。

 アパートから見える空は曇天で月は見えなかった。

 余裕をもって玄関の玄関の扉を開けようとした。

 が、開かない。

 「え?」

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