回顧 その2
そうして公園をうろつきまわり、早い段階で体力が底をつき気絶するように地面に倒れこんだ。
荒い呼吸で空を見上げる。涙が止まらない。心臓の鼓動が大きくなり環境音が消えうせて耳にはその高鳴る鼓動だけが聞こえてくる。
「ちょっと待っててください」
寝転がる由樹に川口昇は駆け足でなにやら持ってきた。
「はい、どうぞ」
ペットボトルに入ったスポーツ飲料を渡される。受けとらない由樹に無理やり川口昇は渡す。飲まない。仕方がないので川口昇はペットボトルを奪い取り、キャップを外してどぼどぼと由樹にかける。
上から降り注ぐ吸収性の高い水分。
反射的に口を開けて飲み込む由樹。
「落ち着きました?」
「……はい」
スポーツ飲料でべちゃべちゃになった顔をぬぐい、落ち着きを取り戻す由樹。
「かわぐちさーん」
「あ、どうもー」
由樹の視界の片隅でなにやら誰かと談笑している川口昇。
「こんにちわ」
不機嫌面に浮かぶ笑顔。気持ち悪さが目立ちその浮かべた人の感情がよくわからず怖かった。
それが後の桜井だった。
「桜井です、よろしく」
そうほほえましい挨拶をするもなぜだか蹴られる由樹。みぞおちにつま先が入り痛みで転げまわる由樹。
「な、なにやってるんですか! 桜井さん!」
慌てて制止する川口に桜井は告げた。
「なにって殺してくださいって依頼したのはアナタじゃないですか」
その言葉に由樹は逃げ出すこともできずに恐怖で震えていた。
「とりあえずとりあえず縄で縛って誰もいないところへ移動しましょう。魔王が外に出て警察がかけつけてくるかもしれませんから早く」
とりあえずと提示した妥協案が恐ろしく怖かった。
そのまま縄で縛られて『逃げ出そうとしたら首を折る』と桜井に脅されて目隠しまでされて完全に拘束されている状態で由樹は二人に搬送された。
真っ暗な視界のままになにやらどこかへ移動される由樹。
時間がいくら経ったかはわからない。
運ばれている途中でもう開き直って由樹は寝てしまったからだ。
暗いと眠いのだ。久しぶりの栄養を口から摂取したために睡魔が確実に寝首を狩っていったそのせいである。
どうやっても精神力が持たなかった。
寝たら死ぬ、まさにこの言葉を地でいく状況なのだがなによりも死んだ方が楽になるのではないかという意識が強かったために由樹は寝た。
不意な事故や油断ではなく、寝るぞというもう自暴自棄でもある硬い意志の元に行った行動。
目覚めると椅子にくくりつけられておりコンクリート打ちっ放しでドアもないガレージのような部屋にいた。
天井には裸電球薄暗く部屋の隅までは見えない。
暗がりから現れてたのは、川口昇と桜井。
「石橋先生、ご紹介します。桜井さんです」
「どんも桜井です。年齢は16歳。高校生です。あ、いやこないだ学校は辞めてきたので正確には元高校生です。今は処刑人をやっています」
不機嫌そうな面で桜井は由樹を見ている。『高校生がどうしてこんなことを』と思った。
「では処刑を始めます」