合流 その3
「魔王か」
銃を向ける自衛隊の一人が由樹に問う。
「一部は違います」
「全員連行する」
もはや聞いた意味などあったのだろうか。
「どうする? 連行される?」
疑問文で連行をどうするか聞いてくるぐっちゃん。
「うん、ここは連行されよう。やるつもりならこの段階で銃でも撃っているはずだ」
「はーい」
「俺もついでにいくわ」
桜井もついていくと意思表示。
「おまえら銃口むけられてるのにずいぶん余裕だな」
自衛隊の一人がそうこぼす。
「なにいってんだ。魔王相手に銃口むけて冷静なお前らのほうが俺からしたらよっぽど余裕に見えるわ」
桜井の言葉に静まり返る室内。あきらかに自衛隊の方々の空気が変わった。
「……桜井さんあんま挑発しないで下さい」
「はははっ」
桜井は不機嫌な顔で笑い誰に言われるわけでもなく外へ出ようとする。道をあける自衛隊たち。
「連行してください。建設的な話し合いを我々は望みます」
「……もちろんだ。我々とて認識はしているそれだけの覚悟があってここにいる」
その兵士の言葉を鼻で笑うぐっちゃん。彼女もまた外へと出て行く。
由樹も兵士に従って連行される。外に出て兵士たちに囲まれるような形で移動が始まる。
前方と後方、左右にも自衛隊を配置して中央に由樹、ぐっちゃん、桜井。
だか距離は離れており皆一様にこちらをみて銃をむけている。
「前方瓦礫あり! 距離15!」
前の方で指示する一人が後ろ歩きをしている兵士に障害物を伝令して移動していく。
「向けんなって言ったばっかりじゃねぇか学習能力ねぇな、ったく」
桜井が憎憎しくつぶやく。
そんな銃口と人の群れの中で見えてきたものは一つの仮設テントだった。
やはりというか、浮遊都市にいる魔王の特性上、あまり離れるわけはないということもあちらは把握していたのだろう。魔王の巣にポツリと立つ仮設テント。
ここの中に案内される。
入る三人。
中は薄暗くランタンの明かりだけが狭いテントを照らす。
奥には椅子だけある。人は座っていない。
「います?」
「いるよ、ユキちゃん」
小声で伝える由樹に応えるぐっちゃん。
いつもどおりの由樹の奇病だ。誰も座っていない椅子があるならガガイモがいると思え。きっと由樹の目には映っていないがガガイモが椅子に座っているのだろう。
「司令官だってさ」
「そう」
ガガイモに全権を委託しているとはにわかには考えられないが、別段俺は話を聞かずに物音でも聞いていよう。罠だと警戒してもなんら問題はないだろう。
それ以上は何もいわずぐっちゃんと桜井に話は任せようと由樹は黙った。
「俺は魔王じゃねぇよ」
桜井が唐突に喋りだす。その司令官とやらに魔王かと問われたのだろう。
「……出てけだとよ」
桜井が不機嫌な顔で由樹に伝える。
「当然ではありますけどね」
苦笑いの由樹。桜井を連れ立って由樹はテントの外へ出て行こうとする。だがぐっちゃんに服の袖を握られて由樹だけ取り残される。
「石橋さんは我々の保護者代わりなのでここに居させてください」
強く言うぐっちゃん。
「いいってさ。……石橋さん」
「……俺は外で待ってるぞ」
「わかりました」
『話し振られたら教えてね』とぐっちゃんに耳打ちして由樹はテントの中に残ることになった。
それから由樹はわからない談合に参加することになった。
虚空へ語りかけるぐっちゃんに時折テントの中を見るだけの意味不明な状況が繰り広げられる。
最後まで由樹に話は振られることはなく、不変不動の由樹は最終的には卵なしオムライスのレシピを考えることに没頭してしまっていた。
談合はそれほど長くはなかった。
「はい」「そうですね」「いいえ」などという端的な台詞を繰り返すだけのぐっちゃんなので、隣で聞いていた由樹は会話の内容が把握できない。
そして、終わった後にぐっちゃんが由樹を見てこういった。
「南極に国が作った核シェルターがあるからそこで一生暮らしてくれだってさ」
簡単に言うぐっちゃん。
「ああでも、断ったから全面戦争だってさ。日本だけじゃなく世界と」
そしてまたもや簡単にいうぐっちゃんに由樹は頭が真っ白になってしまい、まずはオムライスってどうやって作るのかというところから考えることにした。