合流 その2
「リアルあさ●山荘」
「●さま山荘はフィクションじゃねぇけどな」
由樹、ぐっちゃん、桜井はポータブルテレビに映し出される自衛隊の映像を見ながら魔王たちを待っていた。
もう夜、日がとっぷりと落ちて、どこからもってきたのか桜井の携帯ランタンの明かりでテレビを見ている。
特番を組むテレビの出演者は自分たちなのに今まさに杭の傍まできた自衛隊を見ても自らがこれからこの兵たちと対峙するとは思えない。
夢見心地のような悪夢のような。
桜井は銃を持つ兵の人数をテレビを見て数えている。膨大な人数だ。テレビを通してなので全体数は把握できないが一目で多いとわかる。
なんせ魔王の巣を結界のように敷き詰めていた杭が少なく感じるのだ。
ヘリで空撮されている姿は、人ではなく規則正しく動く波。
それが杭と杭の間をぬって押し寄せてくる。あと数十分もすればこの大部隊が訪れるのだろう。
テレビが切り替わる。浮遊都市を取り囲む戦車に戦闘機。浮遊都市の魔王への攻撃ももうすぐのようだ。
「こねぇーぞ」
不満げに声をあげる桜井。
依然としてぐっちゃん以外の魔王は誰も来ていない。
誰もこない。
こうして何もしていなければ確実に自衛隊が来る。いや警察の特殊部隊か機動隊かなんにせよ戦場になる。
無防備にここにいてはジリ貧だ。
「ひとまず建物などに入りましょう。合流地点は変更すればいい」
トランシーバーで魔王を呼ぶ由樹、しかし返事はかえってこない。
「おかしい。時折こうなんだ……」
「ユキちゃん、もうみんな捕まってるんじゃない? 根拠はないけど武力鎮圧ってことならみんな散会してるはずだから――」
「いやそれはないな」
桜井が否定する。
「魔王の力を持っているのに捕まることがありえないだろう」
「いやそれもおかしい」
もう馬乗りにも慣れたのかそのままの状態で反論するぐっちゃん。
「魔王を武力鎮圧できるっていう選択肢で行動を行っている時点でこちらの能力を無力化できるのかもしれない」
「勝てる保障がなければ戦わないってことか?」
「そう」
「そこまで頭良くねぇだろう、あいつら」
「とりあえず場所を移しましょう、もう暗くなってきたのに室外で幼女に馬乗りになっていては他の容疑で確保されてしまう」
「悪いが俺は馬乗りを解除するつもりはないぞ」
ため息をついてぐっちゃんが指を鳴らす。
いつもどおりの便利な移動方法。
どこかの一室に飛ばされたようだ。中は薄暗い。薄暗いがかすかに家具や壁についたスイッチが見える。スイッチが発光している。
電気を由樹がつけるとそこは見覚えのある一室だった。
いつもの食堂。さっきまでいた食堂だった。そしてソファーの上で寝転がるぐっちゃんの上に馬乗りになっている桜井。
地面にさしていたポータブルテレビもちゃんと飛ばされてきたようでニュース番組が実況中継をしている。
『今! 魔王の巣へと自衛隊が足を踏み入れました!』
ヘリの空撮でうごめく自衛隊の人たち、標的は俺たち。テレビ越しだととても現実とは思えない。
「腹減った。石橋なんか軽いもんでも作ってくれよ」
「私オムライスがいい」
状況は殺伐としていた。
由樹は食堂とよばれた狭い一室においてある冷蔵庫をあける。
魔王全員分の胃袋を養う食材の山。そこからオムライスの材料をあさる。冷凍ご飯にケチャップ、鶏肉。次々とキッチンへ並べていく。
「卵がない……」
由樹は卵なしオムライスという全く未知の存在を創造することを余儀なくされた。
「いや作るなよ。状況考えろ」
桜井から鋭いツッコミが入る。
「別に作りたくて作ってるんじゃないんだからね! 自衛隊が殺しにくるっていう非現実的な状況で心の整理を少しでもしたいから料理を始めようとしているだけなんだからね!」
「ユキちゃん、はやくつくってー」
フライパンに油をひいて火をいれる。
「動くな!」
扉が突然開き、銃をもった屈強な男性たちが部屋に入ってくる。向けられる銃口。反射的に手を上げる由樹。
コンロに落ちて跳ね上がるフライパン。
火はついているので今もなお熱せられている。
「危ないだろう! 火を消せ!」
自衛隊の一人が由樹に銃口をむけて一喝する。命令に従って火を止める由樹。