ツインテール その3
ツインテールと一緒に瓦礫の中へと進んでいく。
「足元気をつけて」
ガラス片などもそこかしこに落ちているため、ツインテールに注意を払い進んでいく。
血もさきほどまで腕まで伝っていたがそれも収まっている。
止血は成功しているようだ。
「離そうか?」
さすがにもう握っている必要はないだろうと由樹がハンカチから手を離そうとする。
「に、握ってて! 不安だから」
恥ずかしそうにいうツインテール。
「はい」
そんな姿にどぎまぎしてしまい、言うことを聞く由樹。
かわいい。
元々容姿にしても本当にお人形さんのような整った造形で美女といって間違いないレベル。
そんな彼女にこんなことを言われて揺るがない男はいない。
もはや馬鹿だのと罵倒していたことは過去のものとして記憶から消し去ろうとしている由樹。
「あ、ユキちゃん」
気持ち悪い考えをめぐらせている由樹の目の前に、現れたのはぐっちゃん。
やっと会えたと安堵したかった由樹だが気になる点があった。
ぐっちゃんは真っ赤だった。顔とか表情ではなく頭からつま先にかけて血だらけ。滝のようにまさに浴びるような流血でもなければそうはならない。
「ちっ、ぐっちゃん」
「何それ舌打ち? 感じ悪いけど」
「いや血ね血。どうしたのそれ」
血だらけのぐっちゃんに冷静な由樹。
理由の一つとしては、体に浴びるようにかかっている血は確実にぐっちゃんの血ではないからだ。
まず魔王と重火器でやりあったとして魔王のほうが無傷で勝利できるのは自明の理。
核とかならわからないが、戦闘呼べるものなら別。
物理法則を捻じ曲げる相手に物理的手段で勝てる通りはないのだから負けは必至、勝利は必然。
だからこそ怪我などとは問わないが、不安にはなる。
自分の血ではないということは他人の血ということだ。
体中が血だらけになるぐらいの量ということはそういうことだ。
大方、陽動をしていたツインテールの仲間が捕まったのだろうと推測する。
「まぁーちょっとね」
誤魔化すぐっちゃんの顔はなにやら疲労感が見える。
「牛でも解体してたの? 食料はまだまだあるのにさ」
「うん。うん、そうだね。そのとおりだ」
馬鹿な発言である。そんなこと発言した由樹にも理解はしている。
当たり前だ。
そんなことを言うより『人殺ししてきたの?』なんていう馬鹿馬鹿しい問いはしたくなったからだ。
「でさ、ユキちゃん、横のソイツは誰?」
ツインテールを指差すぐっちゃん。
冷静な声音。冷静な瞳。雰囲気が確実に違っていた。
ツインテールを誘拐犯だと一瞬言おうか迷ったが、やめることにする。
「見てのとおり怪我人だ。俺のせいで指を切ってしまってな。血は引いたんだが――」
「わかった」
由樹の言葉を最後まで聞かずにこちらに近づいてくるぐっちゃん。
「……治療してくれるんだよね」
「なにそれ。……馬鹿にしないで、ちゃんと治すよ」
不安げに聞く由樹に不機嫌な顔をしてツインテールに『どかして』とハンカチを外すように言うぐっちゃん。
先ほどから小刻みに震えているツインテール。
「ち、ち、どばどばーってどばどばーって」
涙目で拒絶するツインテール。
由樹は手を外そうとしたがツインテールが無理やりつかんでくる。
「傷口見えないと治療も出来ないから見せて」
「いやそ、そうじゃなくてあなた血が……」
「ああ。いいのこれは気にしないで。……返り血だから怪我してないから」
「か、返り血!? え、どういうこと……」
返り血に反応するツインテール。
いやいや、いやいやいや!。
心の中で由樹はツインテールにつっこんでいる。
「どういうことなの!? まさかとは思うけど人を殺してきたの? あなた」
由樹はツインテールの言葉に度肝をぬかれた。
そ、それ聞いちゃう? 俺がなんとなく察したことで言っていたのに牛とか牛とか言ってたじゃん。お前アピールでもあったんだよ、あれ。察しろよー、察しろよー。もうーそれいうなよ。まさかとは思うけどはこっちの台詞だ。
「犯罪よ、それ! 知らないの! 常識よ!!」
「…………そうね。犯罪ね」
怒鳴るツインテールに吐き捨てるように答えるぐっちゃん。
「今すぐ自首するわよ! 来なさい!」
傷ついた手のほうでツインテールはぐっちゃんの腕をつかもうとするが、由樹は律儀にいまだにツインテールの指をカバーしているのでつかみにいけず由樹に止められる形になる。
「手! 離して! 察しなさいよ、馬鹿日本人!!」
「えええええええええええー」
いろいろ思うところはあったが理不尽さが頭の中を支配して由樹は叫ぶことしかできなかった。由樹は脱力してツインテールから手を離す。