暴れまわる その2
元はガガイモだ。所有者の意思疎通ができないわけはない。
ガガイモと人間はテレパシーだが会話はできるし、人間の命令は聞いて応えてくれる。
例外はあるが、大半がそうだ。あれも例外ではないはず。
男の言葉で残った子供たち、生徒たちは半信半疑のまま、ひとまず行動に移してもらうことにした。
行動といってやることは簡単だった。
祈ったのだ。残っている全員でひたすら祈った。
『動かないでください』
単純な願いだった。
動くことでビルが壊れる。動くことで犠牲者が増える。動くことで寝床がなくなる。
昼夜問わずに暴れまわっていた魔王はその願いを聞き入れた。
生存者たちが初めて魔王に勝ったのは生まれてから半年近く経ってからだった。
だがそこからが大変だった。
動くなと全員で念じれば動かない。しかしビルやビルに飛び移れなどという細かい動作はできない。
また暴れはじめてしまう。
なので右腕、左腕、左足、右足徐々に感覚的に動かせるように最初は簡単な動作からシフトしていった。
今日は何センチ動いた、明日は何十センチ動かせるだろう。
苦労はしたものの飛躍的に向上していく魔王操作能力。
生存者たちは完全に調子付いていた。
調子付いた生存者の一人がふと言ったのだ。
「こいつデカイけどさ。なんか能力とかないのかな」
そのとおりだった。
暴れるのも大怪獣よろしくその特大の質量でビルをふみつぶし押しつぶしていただけだ。
別段、某大怪獣のように口から灼熱の怪光線を出したりもしていないし、ファンタジーで出るドラゴンのように火球などを飛ばして家々を崩壊させたりしているわけではない。
完全に悪ふざけだった。
魔王の制御がうまくいって寝床を点々とする日々ではなくなり、安心な生活が続いていたからそんな考えが浮かんだのかもしれない。
だがその一言によって魔王の新たな能力を生存者たちは知ることになった。
「家事とか経理とかできるかもうちのお父さんのガガイモもそうだし」
「あの大きさでそれはないだろう。出来たとしても分不相応だし、もっと怪獣ぽいのが出来るんじゃないのか」
「怪獣っぽいってなにさ」
「そりゃあビームとか口からビームとか目からビームとか指からビームとか」
などとごちゃごちゃ話し合って何ができるか何を命令するか決めようとしている。
「先生は何が出来ると思う?」
先生と呼ばれた男はあの惨劇から唯一生き残ったその男だった。そう呼ばれていた。
「男は、やっぱビームだな」
その鶴の一声でビームという結果になった。
全員で念じる。
ビームビームビームビームビームビーム。
強く念じる必要性もなかったようだ。魔王は体をガバっと縦にひらいて咆哮をあげる魔王。光の粒子がその魔王に収束していく。
成功はした。意図も簡単にしかしすぐにそんな魔王を見てマズイと全員が悟った。
撃つことは可能だと思うがどこに撃ったらいいかわからない。このままではこの辺一帯が火の海になる。全員焼け死ぬか塵一つ残らずに消えうせる。灰燼に帰す。
「真上!」
一人が叫んだ。
その言葉だけで皆の思考がまとまった。
『真上、真上、真上、真上』と今度はビームを念じずに口に出して方向を叫び始める。
あっという間に広がっていく真上コール。
「真上、真上、真上、真上、真上、真上、真上、真上」
響き渡る真上の言葉。
願いは通じた。
周囲何十キロとある辺り一帯がすべて光につつまれて、生存者同士の顔も確認できないほどの真っ白な世界が広がる。
瞬間。
轟音が響き綺麗な金色の柱が魔王から突き出て空をうがつ。雲をつきぬけてあっという間に空へと登っていく。
生存者たちは呆然とその光景を見つめている。
だがすぐに生存者の一人が必死な形相でつぶやき始めた。
「飛行機に当たるな、飛行機に当たるな、飛行機に当たるな」
その言葉に皆がまた一様にさとり、同じように念ずる。
それが唱え終わった後は、人工衛星、それが終わった後は太陽系の惑星にと念ずる言葉が壮大になった。
そうした実験と称した操作を着実に覚えていった彼らはいつしか生存者ではなく、魔王そのものと呼ばれるようになった。
それがほんの半年前の出来事。