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暴れまわる

 一年前。

 暴れまわる魔王を抑止しようと必死だったもの。倒壊していくビル郡を見て地獄だと叫び逃げようとしたが魔王につかまったもの。泣き叫んでここから出してといっても国に出してもらえなかったもの。

 様々な子供たちがこの坩堝(るつぼ)に捕らわれて地獄の共同生活をおくることになった。

 問題は山積みだった。

 単純に暴れまわる魔王を制御できずに寝る場所も数時間交代で移動して寝床を探し、魔王の被害が広がってきたら、起きている人間たちが寝ている人を怒鳴り起こし移動する。

 それが三日も経ったら発狂してわざわざ崩れていく瓦礫に飛び込んでいくものもいた。

 自殺するものもいた。当たり前だ。

 過酷な環境で正気でいられることが不思議なくらいの状況だ。

 次に食べ物。

 移動し続けて荒廃した街の食料をあさってはいたがすぐに魔王が破壊して保存していたものは瓦礫に埋まり手持ちの食料もなくなっていく。

 食料がなくなるたびに誰かが囮になって魔王を引き止めてその間に食料品をむさぼる。

 引き止めが成功するときもあった。だが無秩序に暴れまわる魔王は囮が作用しているわけではなく、単に二択クイズのように不運なものは魔王の余波で死んでいった。

 どちらも生き残ることもある。囮がそのまま帰らないこともある。囮だったものが生き残り本隊がほぼ全滅することもある。

 そうした理不尽で正解のない選択肢を時折選ばされた。

 徐々にいなくなっていく人たち。何日経っても衰えない魔王の暴挙、殺戮。

 寝れて1時間そして起きている間は魔王の力におびえ逃げ惑う毎日。

 情緒不安定になって死んでいくもの。栄養失調で死んでいくもの。

 腕の怪我ならば走りながら治療できる。だが足の怪我を負ったものは問答無用で捨てていった。瓦礫にのまれていった。

 泣き叫んでも何をしても自ら走れないものは皆魔王の餌食になった。

 ボロボロの精神状態とボロボロの肉体で半年が過ぎた。

 生き残ったものはわずか30人ほど。

 これくらいからか魔王に異変があった。

 動きがゆるやかになっていったのだ。

 スタミナ切れなのかなんなのか原因は誰にもわからなかった。

 ただふとした偶然でそれは起きた。

 魔王の一人が瓦礫に挟まり身動きが取れなくなった。

 事故だった。

 逃げ出すタイミングが少し遅れてしまった。日常だ。

 瓦礫に足を挟まれて泣き叫ぶ生徒。毎日のことだ。

 「早く! 早く!」と自らの足を引き抜こうとする子供。誰も助けない。それどころか一心不乱で逃げる。

 足が抜けなくなって仲間から見捨てられて窮地に陥ったものにはある仕事が用意される。

 「しにたくなあああああああああいいい!!!!! あああああああああああああああ!!!! ああああああああああああああ!!!!!」

 とにかく叫ぶのだ。

 囮として効果がないとしても、叫ぶ。魔王の注意を少しでも引けるように少しでも仲間を逃がせるように。

 ほんの少しでも望みがあるかもしれない、それにかけて。

 瓦礫に埋もれる仲間の断末魔を聞いて叫びを聞いて、仲間は逃げる。

 仲間だ。

 元は他人、それからクラスメイト。それだけの関係だった。名前も知らない人もいた。同じクラスでなく卒業しても一言も話さないものもいただろう。

 そういう人たちだった。

 しかしそれも半年もこんな暮らしをしていれば親兄弟と大差がなくなる。

 名前だけじゃない、性格もわかってくるし、好きな食べ物嫌いな食べ物。本人も知らないようなことも当然わかる。

 親よりも誰よりも。そんな仲間を見捨ててその場から少しでも遠く、魔王から遠く逃げようとする仲間たち。

 逃げ惑う中で一人が立ち止まった。

 散り散りに逃げていく仲間の一人が立ち止まる少女に気づいた。

 だが、声はかけない。

 体が丈夫で走る力はあっても気力が底をついて立ち止まってしまうものをその仲間も見ていたからだ。

 だから立ち止まっては声はかけない。

 自らは立ち止まらず走り抜ける。

 「もうやってられるか」

 少女はそうつぶやいたが、断末魔と倒壊していくビルの轟音。少女のその声を聞こえるものは誰もいなかった。

 突如して発砲音。少女は近くを通った少年に発砲。

 予想外の出来事で驚きながらも弾丸の当たった腹部をおさえ、腰から銃を取り出す。

 護身用として当初は持っていた銃だったが、弾もなくなり一人に一丁自殺用としてもたされたものだった。

 撃たれた男は苦悶の表情を浮かべるも何も言わず、少女ではなく隣にいた少年に発砲。

 少女を撃つのでなく別の人の額を撃ち貫く。

 戸惑うもの、そんな状況でも平然と逃げるもの。様々いた。

 戸惑った数名が少年にかけよる。そして駆け寄った数名の一人が最初発砲した少女に撃たれた。

 少女は自分が撃った少年が撃った少年から銃を取り上げていた。そして撃たれた少年は一緒にかけよった少女を撃つ。

 撃たれた少女はふたりも手にかけた少女を撃つ。

 死体から銃を取り出し弾をいれて最後に残った少年は逃げ出した部隊に合流した。

 そしてその場でまた一人殺し、違う人が一人死んだ。

 そうして後半生き残った30人中半数以上が一日で25分ほどで亡くなる。

 魔王の恐怖から開放されたかったのか、心情は誰にもわからないが生き残ったのは運よく物陰に隠れてやり過ごしていたものと、最後人を撃つことなく連鎖を止めた男だけだった。

 彼は冷静だった。

 そうすることも理解できたし止めに入る人たちのことも理解できた。だから冷静だった。

 そうした数十分間の地獄から生き残った男は魔王の異変に気がついた。

 暴れまわっていた魔王の動きが緩慢なことに気づいたのだ。

 男は呼びかけた。逃げる最中に隠れ潜んでいるもの全力で逃げ惑うもの生存者に呼びかけてまわった。

 「魔王を制御しよう」

 そう呼びかけた。

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