墓標
泣きつかれて涙も枯れて呼吸も正常に戻ってきた由樹はシュンの亡骸を抱きかかえてぐっちゃんに言った。
「お別れしよう」
その言葉にぐっちゃんは『うん』と一言言って、桜井にその旨を携帯で伝えるぐっちゃん。
「桜井さん、今、下にいてその足で花買ってきてくれるってさ」
「……わかった、二人だけでまずは行こう。ありがとう」
桜井は残して魔王の居城へ。
そしてビル郡をぬけた一角にある小さな更地。
魔王が誕生する前にここを筆頭に住宅地が建設するはずだったのが、それが頓挫して残された土地だった。
一年前で失われた人たちの亡骸を魔王と由樹は集めてここ一帯に埋めたのだ。
そのため、見た目ではそこから墓標が数多くならんでおり、まさしく墓地といった風景が広がっている。
開いた一角に降り立つ。
「範囲がぎりぎりくさい」
墓地にたつぐっちゃんは動かずにシュンをかかえる由樹に告げる。
「わかった。穴だけ掘ってもらっていいかな。距離が厳しそうなら戻ってもらっていいから」
「ううん、私はここにいる。他のみんなが押さえつけてくれているから監視もしなくていいと思うし」
「そうか」
突如として地面がえぐれてそこに由樹がシュンをかかえてそっと置く。
「家から持ってきた」
と、ぐっちゃんはブランド物スニーカーや服などを抱えていた。
由樹にも見覚えがある。
シュンがよく身につけていたものだった。服にスニーカーなどを墓にいれていく。
「あ」
由樹は思い出したかのように何かを探し始めた。
「ぐっちゃんごめん。スーツケースまだ上に――」
「はい」
由樹が言い終わるまえにぐっちゃんの手元にスーツケースが現れる。
「魔王パワー」
「はは、便利便利。魔王パワー」
乾いた笑いを浮かべてスーツケースを受け取り、中から便箋を取り出す。それは昨日川口さんから預かった手紙たちだった。
「あ、それね。忘れてたわ」
ぐっちゃんも由樹の手紙を見てなんとなく察したようで、ふと笑みを浮かべる。
由樹は便箋から『松永旬』とかかれているものを開いた。
「シュン勝手にごめんな」
シュンに謝り読み上げる由樹。
「旬へ。この間好きな人が出来たといっていましたがお母さんは大賛成です。旬は行動力があるのに口だけは頑固で意思表示をしないからそういう気持ちを伝えてくれただけで嬉しいです。その好きな子と結ばれるように応援するね。ふぁいと」
短い文章だったが書いている人の気持ちが文字にこもっているようだった。
罰が悪そうに頭をかく由樹。
「読まないほうがよかったかなぁ、ははは」
「あーうん。そうかもね、シュンには悪いことしたかも。公開処刑だ、これじゃあ……はは」
静かに涙を流す二人。
ぎこちない乾いた笑いをする二人。
手紙も便箋に入れなおして墓にいれる由樹。
「もういいかな」
「うん」
「ぐっちゃん」
由樹はスーツケースから取り出した川口結と書かれた便箋をぐっちゃんに渡す。
「私は、いらない」
「お父さんから預かってきたんだ。読まなくてもいい。でも受け取ってくれないか」
しぶしぶその手紙を受け取るぐっちゃん。
「捨てるよ」
「また持ってくるよ」
笑顔で答える由樹はそのまま何も言わず、腕をまくって土をシュンの亡骸にかぶせていく。ゆっくりと土がかぶさっていく。
ぐっちゃんも魔王の力でかぶせる。
二人共同でシュンを埋めて、由樹はそっと最後の土をすくい墓にかぶせた。
「来たみたい」
ぐっちゃんが指を鳴らすと、花束をもった桜井が現れる。
「はやいっすね」
「そりゃあな」
涙をぬぐいながら由樹は桜井から花を受け取る。
「お前が飾ってやれ」
桜井の言葉通りに花をたむける由樹。