サクライサン その4
不機嫌な顔だが声音では笑いながら説明する桜井。
「あれだ、コールドリーディングみたいなもんだ。まぁ俺のは糞みたいなもんだけどな」
「なんですかそれ」
「簡単にいうとあてずっぽうで言った情報で脅しをかましただけだ」
「いやそれはないでしょう。だって建設業に勤めているって言い当てたじゃない」
否定するぐっちゃんに笑いながら答える桜井。
「ガガイモが出現してから経済発展で建設業の業績が爆発的に伸びている。今の経済で建設業関連の仕事しているやつが一人いてもぜんぜんおかしくない。なんでそんな状況下で匂わせることを言えば誰かがワードに反応する。逆にあいつしか反応しなかったのは誤算だったというわけ」
「いやおかしいですよ。家族構成から会社の連絡先、電話番号まで把握してるって言ってたじゃないですか」
「把握しているとは言っても詳しくは説明していない」
「え、あー」
言葉をなくすぐっちゃん。そして思い出したように声をあげる。
「最後の子供の遺体を渡してたでしょう、あれはなんですか」
「俺が手を握ったやつは大体40代ぐらいのしょぼくれた親父だった。あの年齢なら子供がいても別におかしくはないし、俺は子供の年齢も明かしていなければ性別も明かしていない」
「臓物をポケットにいれてたのは」
「うな、グロテスクなものいれるかよ。あれはそこで拾った土だよ。粘土質で手のひらに収まるくらいだから他人にも触ったやつも手のひら確認しなければわからねぇよ」
とはいいつつも、彼らはすぐに戻ってこない。
混乱の最中で土をつけられた男も気が動転していたのだ。
もし彼が混乱の中から抜け出して、他のデモ隊の人たちに呼びかけたとしても彼らの中の不安要素はぬぐえないだろう。
それこそ家族を自分の目で見るまでは。
「ここらへん一帯は携帯は通じないからな。今使ってる俺のと由樹の衛星電話とかなら別だがな。一般人がそんなものもってないだろう。携帯が繋がるまであいつらの不安感はぬぐわれないはずだ」
「彼らは地元の団体でしょ。家に帰ればすぐにまた来るよ」
「いやこないな。地元の団体でも地方から来ているやつのほうが多かったりするんだ、あの手の団体は。だからすぐには来ない」
「へぇー」
「魔王は人を傷つけない。そんな迷信信じさせるからこういう連中がでてくんだぞ」
「……迷信じゃないです、真実です。魔王は……人を殺しません」
ガガイモが人を襲わないという公然の秘密のような確信もないものが世の中には広まっている。
確かに襲わない、一般的なものは。統計的には。世界的には。実例があるのは魔王ぐらいのものだ。
魔王のように事件によって生まれたものではなく、正規の誕生をしたものはすべからくそうだ。
そのため一年前の事件が薄らいでいる今だとその迷信を魔王にも当てはめているものがいる。
魔王はガガイモなのだから、人を殺すはずがない。
そうした楽観主義的思想がいつの間にか根付いているのだ。あれほどの大災厄を起こした事実も忘却している。
「ガガイモの安全神話なんてありはしない。人食うようなやつなら食うところを見せたりしないだけだ」
桜井はぼそっと言った。
その言葉にぐっちゃんは何も言わなかった。