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サクライサン その2

 夕方。変化があった。

 魔王は依然として暴れているし由樹はシュンの亡骸を見ながらしくしくと静かに泣いている。そこには変化はない。

 変化があったのは浮遊都市の下だった。

 さすがにこれほどの騒ぎになったのだ。警察が動かないわけはなかった。

 緊急包囲網ということで元々隣町と魔王がいた区画で杭で線引きされていた進入禁止地域は拡大されたようで、今は浮遊都市を取り囲むように検問が張りめぐり、人の出入りを妨げている。

 高天原付近にある漆黒のようなものではないが簡易的なロープと杭をいまなお打ち込まれているのをぐっちゃんは見ていた。

 もちろん肉眼では確認できないので魔王の力でだが。杭をうちこみ黄色と黒で警告を知らせるロープをはっていく警官。

 そうして張られて人がいなくなった境界線にやつらは現れた。

 「うわ……あいつら来たわ」

 ぐっちゃんが嫌そうにつぶやく。魔王の力で周囲を見ていたぐっちゃんはいち早く彼らの姿を見つけた。

 遠くから交通機関が止まっているのにわざわざ山を越えて大人数で列をなしている。入れない区域も広がっているはずだろうが封鎖を乗り越えて歩いてきたのだろう。

 「は?」

 ぐっちゃんの声に反応したのは桜井だった。日が暮れても律儀に魔王を監視していた桜井はぐっちゃんの言葉に不機嫌な顔をして答える。いや元々不機嫌なので不機嫌なのかそうなのかはわからないが。

 「真下に『人権をふみにじるものを許さない会』が来てる」

 『人権をふみにじるものを許さない会』とは人権をふみにじるものを許さない人たちの集まりである。そのままだが単純に差別主義反対や非人道的な行為をよしとせず抗議活動を行う団体だ。

 団体名の聞こえはいいが、例えをあげると子供の人権を踏みにじったとして体罰をしていた教師の個人情報をつるし上げて自殺するまで追い込んだり、不法入国や不法占拠している人たちを強制大挙させた警察に非人道的行為だと食って掛かったり、年金問題や雇用制度などをもちあげて国民の人権を阻害する総理は悪だと食って掛かっている連中だ。

 彼らの周りで聞こえのいい話しや逸話ができたことはない。ある種、名ばかりの集団だ。

 ほぼほぼ暴力組織みたいなもので、公安警察が指定する極左暴力集団としても有名である。

 「あ? なんでそんなやつらが」

 「あ。サクラさん知らないのか。あいつら私たちがあそこ占拠してからずっと来てるよ。杭の外からだけどプラカードやらメガホンとか持ち寄って半日ぐらい呼びかけてる」

 「誰に」

 「たまに雑誌やテレビから取材がくるみたいよ。それに対してというわけでもないのだろうけどそれにあわせてやってるみたい。単純に活動費目的でしょう」

 「なんだそれ、慈善運動じゃなくて金目的かよ。ゲスイな」

 「うん、ゲスイ」

 桜井は不機嫌な顔で口角をあげた。

 「よし。暇だから帰る」

 その桜井の言葉にぐっちゃんは一瞬訝しげな顔をして納得するしたようなため息をつく。

 「あー、なんとなく察したから何も言わないでおく」

 「おー。賢明な判断だな魔王。まぁ任せろ。欲望まみれのやつは好きだが、それを大義名分で隠すやつは嫌いだからな――」

 桜井の言葉をほぼほぼ聞かずに、ぐっちゃんは指を鳴らした。

 桜井は不機嫌な顔で嬉しそうに口角をあげて『人権をふみにじるものを許さない会』通称『人踏会(じんとうかい)』と対峙した。

 黄色と黒の色で警告するロープの内と外。

 内には桜井。外にはプラカードやメガホンを持ったものを筆頭に奥のほうには旗までもっているものもいる。

 旗には『人踏会』の文字。『人権を踏みにじるものを許さない会』の略称だろう。真っ赤な旗に白抜きでかかれている。

 前方のものはプラカードを掲げている。その隣は拡声器を持っている。

 プラカードには『腐った連中を追い出せ。いますぐに』とかかれている。

 前方に位置するプラカードを持った男が桜井の姿に気がついた。

 目の前の拡声器をもった男に小声でなにやら話しかけている。

 「不法占拠反対!!!」

 拡声器を使いさきほど小声で話していた男の人が桜井にむけて言い放つ。音量に遠慮などは感じられない。

 拡声器をむけているのだから耳の奥がキンキンする。

 桜井は表情を変えることなくそれを見ている。といっても不機嫌な顔には変わりないが。

 そんな桜井を知ってか知らずか、なおも『人踏会』の連中は続ける。

 「えー魔王は我々市民の土地を無断で占領しています。それは不法に不当に人の家に勝手に居座るようなものです。誰の目から見ても犯罪行為なのは明白です!!」

 『そうだー!』『我々のふるさとを返せー!!』と拡声器の男の発言に賛同する人たち。

 事前に練習をしているのか中々に息の合ったやじである。

 「皆様!! 不法に不当に我々の生活を脅かすこの犯罪者を許してはいけないはずです。しかし悲しいことに彼らを容認しているのは国であり総理であります! そんな総理が支配するこの国に未来はありません!!」

 なおもエスカレートする拡声器の男。他の会員もヒートアップしており野次を飛ばしている。

 「国が悪い、総理が悪い、それなら変わるしかない。変えましょう、皆様の手で! 我々の手で!」

 声高らかに政治批判をする彼ら。

 桜井は不機嫌な顔でその彼らの声に耳を傾けていたが、さすがに飽きてきたのか声を出す。

 「あー、魔王です。どうも皆さんこんにちわ」

 そう挨拶する桜井。もちろん桜井は魔王ではない。

 スピードで魔王をまかす力があるが、魔王とは関係は無い。

 だが目の前の人たちの注目をむけるにはうってつけの一言だった。

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