出会い その2
5分後、警官が来た。
「ガガイモですね」
部屋を調べた後の警官の言葉きわめて単純だったが、由樹が納得する答えではなかった。
「部屋を調べてみましたが荒された形跡はなく窓や玄関も無理に入った形跡はありませんでした。念のため金品も確認してもらえますか。こいつは私が見ておきますので」
「は、はい」
警察に言われて調べる。タンスをあけて確認する。衣服などは荒らされていない。通帳と印鑑はある。ちゃんと二つ。
他にはトランシーバーが二つと予備バッテリー。携帯と財布は持っていたので取られていない。
あとは未開封の性処理道具に……とついつい確認しなくてもいいものでまで見てしまった。
それを握りしめた後、慌てて元に戻す。
結論から言うと、何も取られてはいなかった。
貴重品は当然のごとく、冷蔵庫の食べ物なども取られたりはしていなかった。
「普通ですと不法侵入ということなのでしょうが……被害もないですし……」
警察も渋った表情をしている。
「ガガイモで間違いないと思います」
他の警官も同様の意見だった。
「それはありません」
由樹はそう思えなかった。彼女がガガイモであるとは思えなかったのだ。
由樹には彼女がガガイモではないと断言できる事実が存在した。
「私はガガイモが見えないんです。生まれつきの病気みたいなもので見ることができないんです」
由樹の能力、もしくは呪いのようなものだ。
彼にはガガイモが見えない。声だって聞こえない。
ここにいる警官だって全員がガガイモではなく人間であることがわかる。姿が見えているからだ。
だが自信満々に否定する由樹に対して警官たちの目は冷ややかだった。
「まぁ落ち着いてください。彼女がガガイモである証拠は様々あります。まずは喋らないことですね。一言も声を発しないのがガガイモの証拠です」
「でもテレパシーで会話できるんですよね。それも聞こえませんが」
「そうですね。私たちにも声は聞こえませんが単純に話したくないのでしょう。ガガイモは基本的に自発的に話したりはしませんからね。問題はないと思います」
大ありだ。
「専門家の意見ですと、食事を取らない、寝ないなどありますからこのまま様子を見てもいいでしょう」
そもそも彼らが言っているガガイモの情報だって巷にあふれるもので臨床検査で確認を取ったものではない。
それ以前にガガイモの専門家はどの国にもおらず、研究すればするほど何もわからないことが明らかになっている。
知らない、わからないからこそ血眼で由樹が探した情報である。
「いえ、確実に彼女は人間です。不法侵入です。逮捕してください!」
「まぁまぁまぁ、落ち着いて」
警官の制止をうける由樹。
「近頃多いんですよね」
若い警官が口を開いた。
「なにが」
「そうやってガガイモが生まれただけで電話してくる人って」
「お前……違うって言ってんだろうが! さっさと逮捕しろよ!」
「落ち着いて、落ち着いてください。こら! お前も謝れ」
「いやいやそんなカリカリしなくてもいいじゃないですか。アナタのことを言ったわけではないんです。そういう迷惑な人もいるっていうことを伝えたかっただけです」
「てめぇ、違うって言ってんだろうが。耳腐ってんのか」
「まぁまぁまぁまぁ」
『何かあればすぐに駆けつけますので』と告げて帰ってしまう警官たち。
最後に厭味ったらしく『なにかあれば』と強調する若い警官。
「……さっさと帰れ」